2話 ~紗生の苦悩~
「お、如月じゃないか! 探したぞ! 今日の放課後までに結論を出すと言っていたな。さあ、どうする!?」
捕まった。
生活指導のババア(31)独身の橘先生(♀)に捕まってしまった。
あと一歩だった。
昇降口までたどりつき、靴を下ろし、上履きを下駄箱に入れるまでの動作を終え、あと一歩早ければ帰れたのに。
「あ、ああ。俺からも探してたんですよ。結論出たし言いに行こっかなって」
まあ当然嘘である。
このまま帰ろうとしていたのは、この左手に握り締めた外靴が物語っているだろう。
「そうか! では、お前は対人部に入ってくれるのだな?」
「謹んで」
「よし! 部員、GETだぜ!!」
「お断りします」
「はえ?」
目が点になっていた。
なんか、・。・←こんな感じになっていた。
「何故断る?? 君にとって悪い話でもなかろう」
「悪い話ですよ。時間は潰れるし、更正とかされるんでしょう? 俺はありのままの俺でいたいので」
「しかし、今の君は人格ごと変えてしまわないと、就職等できないぞ?」
思ったことをズバズバ言う人だな。ほんと。
「別に就職なんてしないでもいいですよ。俺には親がいるんで」
「最低だな君は!? でも、実際対人部は更正なんかしない。あれは生徒のデマだ」
「あれ、そうなんですか?」
「うむ。全くの事実無根だ」
あれ、じゃあ対人部って一体何をするとこなんだ?
ぼっちを集めて何をするってんだ。
教師も、生徒の勧誘にここまで熱心になる理屈が分からん。
一人生徒の勧誘に成功した教師が給料UPとかだと問題になるしな...
「どうだ? 更正など手荒な真似はしない。美少女3人に囲まれてゲームをするだけだ」
「え? 美少女3人? ゲーム?? 一体対人部って何をする部活なんですか? ってか本当に存在するんですよね?」
「あるとも。そして、今現在女子生徒3人が所属している」
...対人部の生徒は皆女子だったのか。
それと「ゲーム」って響きだけ聞くと、若干エロチシズムを感じるのは俺だけじゃないよな?
「元々、対人部とは人付き合いが苦手な人が集まり、友達作りをする部活なのだ。顧問の私はそのお手伝い」
「友達作り...ですか。だからゲームか...」
「その通りだ。ゲームを通じて部員達と仲良くなる。それが対人部だ!」
これ以上ないドヤ顔で説明する橘先生。
しかし、男子生徒俺一人って、ダメだろ...
そもそも、女子と話すと100%の確立でキョドる俺は3人全員からキモがられるんじゃないか?
「あの、男子生徒俺一人って無理でしょう...周りが全員女子はじゃ話しかけづらいじゃないですか。今の話聞いてもっと入りたくなくなりましたよ。帰っていいすか」
「その話かけづらいというのを克服する為に対人部はあるのだよ!」
「さようなら~。夜道には気をつけて帰りますね~」
「待て待て如月。今、この場で数学の単位を落としたいと言うのか?」
...この教師最低だった。
最低な上に強かだった。
「ふふふ。学年主任の私にかかれば君を留年させることなどたやすいぞ? まあ、今日は対人部の活動見学だけでもしていってくれれば数学の単位没収は見逃してやろう」
俺は、職員室の中央にある電話に手を伸ばした。
「? 何をしている。ほら、早く見学へ行くぞ。君も数学の単位を落としたくはないだろう?」
「あ、もしもし。教育委員会さん? ちょっとここに不当な理由で単位を没収しようとする教師が...」
「それはやめてええええええええええええええええええ!?」
物凄い勢いだった。
俺に全身全霊のタックルをかまし、息絶え絶えに電話を切った。
「お願いだ如月くん。頼むから見学だけでもしていってくれ...」
ここまで真剣だと、正直引く。
何でこうまでして俺を部に入れたがるんだろうか。
「なんでそんなに俺を部に入れたがるんですか。俺を部に入れることで何かそんなにメリットがあるわけではないでしょう? まさか俺を更正させる為なんていう大義名分が理由なら断りますけどね」
人生で3本指に入るんじゃないかというほどの皮肉顔で言った。
多分、これ鏡見てたら自分にむかついてたわ。
「じゃ、じゃあこうしよう。お姉さんに黙ってついてきてくれたら...」
「30歳でお姉さんとかおこがましいにも程がありますって。マジそういうのいいですから」
「数学の単位をプレゼント!」
「サー! イエッサー! 早く見学にいきましょうお姉さん先生!」
ま、こうなるよね。