その8
ひとり、部屋にわたしは取り残された。
さっき、あの人に言われた言葉が
まだ心のなかでミシミシって感じで響いてる。
わたしは、ずっとマネキンだった。
自分で一番のマネキンになろうとずっとしてた。
男の誰もが振り向くような魅力的なマネキンに。
でも、マネキンはショーウィンドウに着飾られて
目立つから、誰もが一度は振り向いて見るけど、
その後は、そのまま通り過ぎていく。
そして、その存在さえ忘れられていく。
それじゃ嫌だから、また別の場所に立って
振り向いてもらおうとする。
ただ、その繰り返しだけ。
わたしも、そうなる運命だったのかな。
そんなんじゃ、ダメだから・・・
だから、まわりの顔を消されたの?
顔を消して、顔を持つあの人に出会わせた。
あの人はわたしにちゃんと心があると言った。
わたしは今、ようやく気がついた。
これはきっと神様の罰じゃないんだよね。
わたしの、17年って何だったんだろ・・・・
それを考えさせてくれてるんだよね。
そんな風にまじめに思いながら
テレビを眺めていると、
あるニュースが流れた。
わたしの目が画面に止まった。
そこにあの男の顔写真があった。
あの人、いったい何したんだよ???
あんな優しい顔して、犯罪者だったの!?
間違いなくあの顔だ。
ニュースキャスターは伝える。
昨日、あったバス転落事故で
7人の死傷者があり、最後まで
身元が判明しない一体の遺体があった。
それは窓ガラスに突っ込んでしまい、
首が切断されていた遺体だったらしい。
その顔がようやく見つかり、身元が判明した
と。
・
・・
・・・
ほんとに驚いたときって、
悲鳴さえ出ないって言うけどほんとなんだ。
身体も固まったまま動けない。
そのニュースが終わっても
顔はずっと画面を向いたまま。
・・・怖い?
隣の部屋で寝てるのは死体だよ?
さっきまで、話していたのは死人。
でも・・・なぜだろう。
恐怖感はぜんぜんない。
周りの顔が消えたときのほうが
よっぽど怖かった。
今のわたしにはむしろ、
悲しい気持ちしかなかった。
明日、あの人になんて顔すればいいの。
あなた死んでるんだよ、なんて言えない。
頭が混乱していた。
テーブルの上に頭を抱え込んだ。
そして何度も、自分の頭を叩きつけた。