その7
わたしは決めた。
この人なら大丈夫かもしれない。
よし、話してみるか。
じゃ、わたしの心ちゃんと聞いてくれる?
男は、頷いた。
わたしね、人の顔が見えなくなったんだ。
どの人間も首から上がないの、ほんとに。
いきなり言っても信じれないだろうけど。
話してる本人もまだ、信じれないんだし。
でも、事実なんだ。
男は黙ってる。
わたし、ずっと人間は
顔が一番って思って生きてきたの。
だから、自分の顔だってがんばって
可愛くしよう、きれいになろうって努力した。
もちろん、好きな男だって顔で判断してきた。
だって、心なんて見えないじゃん。
顔は誰にだって簡単に見えるんだよ?
でも、その顔がこの世から消えたんだ。
少なくともわたしの視界からは・・・
これって神様が与えた罰なの、かな?
男はまだ無言。
でも、あなたの顔だけは見えた。
わたし同じ仲間かと思ったんだ。
だから、声をかけただけ。
もしかして、原因とか知ってるかと思って。
また、元に戻れるかもと思って。
あなたを利用するため誘ったの。
そんな最低な女なんだから・・・
やっぱ罰も受けて当然か。
そう言って、うつむいた。
話しながら気づいたんだけど。
わたし、ナミダなんか流してるみたい。
今まで泣いたの、可愛く見せるために
感動したふりして泣いたくらいなのに。
なんで、わたし泣いてるの?
しかも、知らない男の前で。
ほんと、かっこわるすぎ。
恥ずかしすぎる・・・
ちらっと男の顔を見た。
やっぱ、笑ってる。
男が初めてみせた笑顔。
なんで、人の泣き顔を見て
笑うのよーーー、あんたってどSだね、最低!
それでも男は笑ったまま。
いや、よく見ると・・・
笑ってる顔だけど、それは
おかしくて笑ってる顔じゃない。
そっか、顔ってしっかり
見てみると違いってわかるんだ。
笑顔にもいろいろあるんだ。
この人の笑顔は・・・・
まるで、初めて生まれてきた子供を
優しく見守る母親のような笑顔や、
幸せな人生を歩んできたお年寄りが
死に際に、家族に見守られながら
最後に、尽くときに見せる笑顔。
どっちの笑顔もテレビとかで見ただけで
実際には知らない。
だけど、そんな笑顔に似てる。
男がようやく口を開いた。
ごめん。
さっきの言葉は取り消すね。
きみはマネキンなんかじゃない。
今の言葉、ちゃんと心がこもってた。
ほんとはそんなにきれいな心を持ってるんだよ。
そのきれいな外見があったから、
必要なかったのかもしれないけど・・・
いまの君はさっきまでよりずっと魅力的だね。
言われ慣れたセリフ、聞き慣れたセリフ。
だったはずなのに・・・
わたし本気で照れてしまった。
照れたふり、なら得意だったけど
こんな顔が紅くなるくらい照れたのって
いつ以来だろ。
つか、あったかな?
そのあと、あなたは自分のことを語ってくれた。
写真は大学時代から付き合ってる彼女だと。
卒業して、就職して遠距離になったこと。
でも、それでも毎日、メールして電話して
彼女のこと想っていたこと。
彼女が寂しくしてないかと心配して、
休みを取って今回、夜行バスに乗って
こっちに出てきたこと。
すごい、一途なんだねー。
わたしとは正反対。
こんな人もいるんだ。
そう思いながら・・・
カレのことを思い出していた。
あいつにそんな気持ちあるんだろうか。
わたしの外見しか知らないんだし無理だよね。
ヤったら終わりって感じか。
じゃ、あっちの部屋で寝るから安心してね。
あなたはそういって別の部屋に入っていった。