その6
今日も同じ場所にあの男がいた。
んー、やっぱり目に入るし
気になってしまうんだよね。
よーし、今度は大声で、
おいっ、そこでなにしてるんだ、きみ!!
男の動きが止まった。
さすがにびびったかな。
周りの視線までなんか感じるんだけど。
男がわたしを見た。
無精ひげで、髪もぐしゃぐしゃ。
まるでホームレスのような格好。
ねえ、何を探してるの?
少し間を空けて男がしゃべる。
大切なもの・・・
昨日からずっと探してるよね?
うん。
夜はどうしたの?
近くの公園で少しだけ仮眠を取った。
んー、これは困った。
ボランティア精神はちっともないけど・・・・
この男とだと普通の会話できるんだよな。
ま、ぜんぜんタイプじゃないんだけど。
ねえ、わたしを見てどう思う?
若い、よね・・・?
高校生かな?
あ、やっぱりこの男には顔が見えるんだ。
じゃ、あの人は?
と近くを歩く女性を指差す。
あの、おばさん?
あらあら、服装は若いのに
おばちゃんだったんだ。
ま、最近は多いけど。
って、そうじゃなくって・・・
この男には普通に見えてるみたいだ。
ますます気になってきたよ、あなたのことが。
ねえ、ずっと探して疲れたでしょ?
うちでちょっと休んだら、どう。
男は戸惑っている。
でも・・・早く探さないと。
そんなに大切なものなの?
うん。
何を探してるの?
それは、言えない。
こうなったら強行突破だ。
でも、もう暗くなって見えにくいし。
それに暗いなかをひとり帰るの怖いし。
さっ、一緒にきなさいっ。
半ば無理やり、手を引っ張っていく。
これって逆ナン???
だったら、人生初体験。
わたしは男を家に連れ帰った。
はい、ここがわたしの家。
家って・・・・ご家族は?
あ、ぜんぜん大丈夫。
誰もいないから遠慮なく入っていいよ。
男は、こそこそと入っていく。
ねえ、その格好じゃダメだから
とりあえず、お風呂に入ってきて。
服はパパのやつ、用意してあげるから。
男は首を少し傾けて風呂場に行く。
あ、そのひげもそって、
髪もちゃんと洗ってきてよねー。
わたしは、風呂場の外から
声をかけたが返事はなかった。
こんな可愛い女子高生が
誰かもわからない男を家に入れて
しかも、お風呂に入らせて・・・
これって、普通はおかしいよね?
でも、今の状態自体がおかしいんだから
たまには、これもありでしょ。
さっきは黒帯なんてウソついたけど
一応、空手も小さい頃少し習ってたんだもん。
つか、どう見ても弱そうだし、あの男。
しばらくして、男が着替えて出てきた。
おおおっ?
ひげをそって、髪も整えて・・・
ちゃんと見ると、ごく普通な容姿。
いや、むしろ上の下。
20代半ばくらいかな?
おじさんには興味なかったけど
ぜんぜん、いいじゃん。
こう思うのってしばらく
顔というものを見てなかったせい?
わ、なんか逆にこっちが緊張してきたし。
家にはわたしたち二人きり。
しかも、わたしは制服のまま。
ミニスカだから、なま足丸見え。
どうしよ・・・
って考えてたら
えっと、どこで寝たらいいの?
少し仮眠したらまた、あそこに戻るよ。
と素っ気ない返事。
わたしはキレ気味に聞いた。
わたし、そんなに魅力ないわけ?
もしかして、ど近眼とか??
こう見えても、わたし
けっこー、モテるんだけどさ。
、、うん、そうだと思う。
若いしきれいだし。
だから、何で声をかけて
こんなにしてくれるのか
不思議なんだ。
無表情に淡々と答える。
え?
それだけ?
わたしも負けられない。
さらに言い返す。
こんな可愛い子を前にして・・・
しかも、男女が二人きりだよ。
ふつーはもっとニコって笑ったり、
何か質問して話しようと頑張ったり、
あと、そんな冷静じゃなく
男ならもっとドキドキするもんでしょ?
普通は、そうなのかな・・・
でも、ぼくには大事な彼女がいるから。
そういって写真を差し出す。
んー、せいぜい中の下レベル。
歩いてても、その人ごみに紛れて
誰も振り向かない普通の女じゃん。
わたしは、正直に言ってやった。
その女性よりわたしのほうが
ずっときれいで可愛いと思わないの?
あんたは年下に興味ないタイプ?
男は首を振り、言った。
そうじゃないけど。
ただ、いまのきみには心が
見えてこないから何も伝わらない。
よくできたマネキンみたい。
助けてくれた相手に、こんなこと言って
失礼かもしれないけど・・・
心がズキズキ、うずいた。
正直、図星だ。
これだけストレートに男に
言われたことって記憶にない。
女子には陰口で言われてるのが
耳に入ってきたこと何度かあったけど。
あの女は男のためなら何でもする
心ない非情なやつってさ。
完全にわたしのことを見抜かれている。
わたしの負け。完敗だ。