その3
わたしは混乱していた。
なんで逃げたの?
カレの顔はあるのよ?
見えないのは、わたしのせい。
でも、あのときなんだか
彼氏から優しさじゃない、やらしいオーラが
出てた感じがしたんだよね。
魅力的って言葉。
それはわたしの顔じゃなくて中身でもなくて
身体だったのかよ?
ま、中身はもともと自慢できないけどさ。
でも、顔見えないのにキスしてもね・・・
あ、でも、キスのときって目を閉じるし
結局、一緒じゃん。
なんて考えながら帰っていると
ひとりの男が目に入った。
見た目はぜんぜん、中の下くらい。
普段は気づきもしないはず。
男は何かを探してる。
周りの人間は無関心に通り過ぎていくだけ。
いつも、わたしもそのひとりのはずなのに。
何かを必死に探してる姿が気になった?
そんなわけない。
わたしそんなボランティア精神ゼロだし。
わたしがその男に気づいたわけ、
・
・
・
その男には顔があったの。
そりゃ、これだけ顔なしロボット
ばっか見たんだから目立って当然。
もしかして、あなた様もお仲間かしら?
だったら、いろいろ聞いてみたい。
恐る恐る、声をかけてみた。
あのー、えっと・・・
ねえねえ?
だけど、男は何かを探すのに
必死でまったく聞こえていない。
こんな可愛い子が声かけてるのに無視かよ。
普通、わたしが声かけたらみんなすぐに
笑顔で、どうしたの?だよ!
悔しいーーーーー。
って腹立ったけど、仕方ないから
そのまま家に向かった。
家に到着。
ただいまー、
と言っても、家には誰もいない。
パパは単身赴任。
ママはそれをいいことに、
別の若い男の所に不倫家出中。
血は争えないもんだね。
ま、この生活にも慣れたけどさ。
ふう、ようやくひとりになれた。
ロボット軍団から開放された。
ベッドに寝転んで天井を見ながら考える。
一人でいるとさっきのことが
やっぱり夢だと思ってしまう。
ほんとに顔が見えなくなってるの?
あっ!
ふと思いついてベッドを降りる。
わたしはテレビをつけてみた。
あれ?
いつも見てるドラマ。
ちゃんと出演者の顔が映ってるし。
なんで、なんで???
雑誌を見てもちゃんと顔はある。
雑誌のページをめくり確認しながら、
テレビのチャンネルを変えていく。
ふと、手が止まる。
それはニュース番組だった。
女子アナが現場から何かをレポートしていた。
その女性の顔が・・・・ない。
ふたたび、パニック、パニック。
よし、冷静に考えてみよう。
プリクラには写る、雑誌のなかも問題なし。
ドラマでも確認できた。
顔が無くなるのは・・・
実際に外にいる人物と、
あと、このニュース。
ニュースの隅には・・・・
ライブと、書いてある。
生放送か。
で、出た結論。
いま、わたしが見ているその実際の時間の
ときだけ顔が消えてしまうってこと。
・・・か?
でも、それじゃ男の顔だけ楽しみに見てきた
わたしの人生の生きがい、なくなるって。
これは明日にでも病院にいくべき?
でも、先生も信じてくれないだろうな・・・
明日から、わたしどうすればいいんだろ。
制服なんてどれもみんな同じだし、
声だけでトモダチの区別つくのかな。
そんな真剣なこと考えているのに
わたしの頭は、コクリッ。
うとうと・・・
明日になれば、これが夢だったらいいなと
あわい期待をこめながら、寝た。