銭函から南小樽
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室蘭を出ておよそ2時間。一樹の運転する車は、順調に道央高速を抜け、今銭函のインターチェンジを下りた。そろそろ、お昼にちょうど良い時間、こずえがたずねた。
「もうすぐお昼だけど、ご飯どうしようか?銭函ってどこかおいしいところあったかしら。」
「何言ってんだ。銭函の海商でランチバイキングが食べたいと言ったのはどなたでしたっけ?」
「そうだ!海商。すっかり忘れてた。連れてってくれるの?」
「他に知らないからね、俺も。」
車は銭函中心部の狭い路地を抜け、"海商”と書かれた看板を右に折れ、駐車場に入った。こずえが降りて一樹があとに続いた。2階がレストランの店舗となっているようだ。レストランへの階段の中ほどの踊り場まで、長い空席待ちの列が続いていた。
「帰ろう。」
一樹が言った。
「えっ!うん分かった。」
一樹が待つのが嫌いなことを知っているこずえが答えた。駐車場まで戻る途中こずえが一樹に言った。
「じゃあどこでおいしいもの食べさせてくれるの?」
「南小樽の駅裏においしいラーメン屋さんがある。ラーメンも美味しいけど、食後のデザートで出してくれるアイスクリームが美味しいんだ。ここから30分ぐらいだけど待てるかい?」
「ラーメンとアイスですか。いいですね、行って見ましょう。」
こずえが明るく答えた。
一樹の運転する車は銭函の市街を抜け、国道5号線に入った。日本海を右に見ながら、車は小樽市内を目指している。朝里のトンネルをぬけ、右カーブを抜けたところでこずえが言った。
「あのずっと向こうに見える灯台の左上にある建物は何?」
「灯台は小樽の日和山灯台。鰊御殿のすぐ上にある。左の建物はホテルノイシュロス。今日の宿だよ。」
「えっ!あそこに泊まるの。すごい。景色よさそうだね。」
「うん、いい景色だよ。」
「えっ、泊まったことあるの?誰と?」
「いや取材だよ。」
「小樽勤務ってしたことあったっけ?」
言いながらこずえが一樹の左手をつねった。
「痛い!」
一樹は思わず手を引っ込めながら、こずえを見た。こずえは頬を膨らませながら、目は笑っていた。一樹が言った。
「着きましたよ、お嬢様。」
「さあ、らーめん。アイス。」
助手席でこずえの明るい声が響いた。