貝塚一樹の取材ファイル 1
プロローグ
小樽日和山灯台の灯りは、規則正しく夏の日本海を照らし出していた。風もなくただ繰り返される波の音と、月の光。静かな夏の夜であった。やがて灯台の灯りは、まるでスローモーションのように、断崖から落ちていくひとつの影を浮かび上がらせた。影は鈍い音とともに砂浜に落ち、また静かな夜に戻った。
第1章 小樽へ
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待ち合わせの駅前に、貝塚一樹が車を止めてからすでに10分。ルームミラー越しに、こずえが大きな旅行かばんを引きずってくるのが、やっと見えてきた。一樹が車を降りて、トランクを開けたところに、息を弾ませたこずえがたどりついた。
「ごめんなさい、遅くなって。」
上目遣いにこずえが一樹を見た。一樹が笑いながら言った。
「いつものことだろう、慣れているよ。」
「そんなことないよ。今日はでがけにチャッピーがまとわりついてきて。」
「自分の大切な犬までワルモノにするか、とんでもないやつだ。」
「でもチャッピーが。」
「もういいよ、分かったから。それよりずいぶん大きなかばんだな。入るのかこの小さな車のトランクに。」
一樹の車は黒くて、小さな軽自動車だ。
「何とかなるでしょ。ほら閉めてみて。」
一樹が言われたままにすると、ハッチバックは鈍い音をたてながらも、なんとか閉まった。
握り締めたこぶしの親指をたてながら、こずえが言った。
「出発進行!」