30話 BHAG(ビーバク)
授業が終わって、放課後。俺は、ものすごく視線を感じさせてくれる部屋に座っていた。
(今すぐこの会議を終わらせて帰りたい)
自分の隣には我がクラス代表が座っていて、前にある机には<E組 氷原すみれ 成川刀破>と書かれた紙が入った名札立てがある。俺も一応、クラスの副代表になったので、ここにいることに問題はない。そうここは、クラス代表が集結するという場所であった。
先日すべてのクラス代表が決定されたので(うちのクラスが最後に決定された)今回初めての一年クラス代表の会議なのである。だから多くのクラス代表、又は副代表の女子がこの部屋にはわんさかいる。
問題はその女子だった。俺の事を、ものすごく珍しい動物を見るような視点で見てくるのだ。確かにこの部屋に、男がいる時点で覚悟はできていたことだ。
だがその視線の強さが予想以上に強かったのだ。普通の女子なら、好奇心と興味で俺たち男を見ることが多い。それはこの学校に通っている内に慣れた。慣れないと精神的に疲れてしまうのだ。
だが、今日の視線は違う。
(何者だ、あいつ?)
(なんでこの部屋に、男なんかがいるんだ?)
言わば、疑問と軽い差別的な視線。外で知らない女性が、知らない男たちに贈るような視線ととても酷似している。こっちもそんな視線で見られていていい気分ではない。だから、俺は黙ってコソコソと、この部屋から出て行きたかった。
「なに怖気づいてるの? 堂々としなさい」
だが横にいるすみれさんが、それを許してくれなさそうだ。すみれさんには、今の俺の心情が見えているのだろ。この視線に耐えるのだけでも、疲労しているのに、さらに堂々としろという注文は酷ですよ……そう思っていると自然と溜息をついていた。
その後も続々と、クラス代表の女子が部屋に入ってきた。どの人もクラス代表に選ばれただけあってか、威厳がある。俺はできるだけ目を合わせないように座っていると、一人の先生が入ってきた。
「……みんな揃っているようだな」
見たことのない先生で、少し汚れた白衣を着て登場した。髪は長く、ぼさぼさしており、前髪も長いため目が見えない。体全体からだるいオーラを身に纏い、スカートを穿いていることから何とか女性なんだなと思える人だった。そんな先生はぼさぼさの髪をかきながら。
「私はこの委員会の担当の影原陽子だ。よろしく」
シンプルな自己紹介をして、あくびをして一言。
「私は眠い、だから自分の部屋に戻って寝る。だからあとは、自分たちで今後のことを決めろーー以上」
そう言い残して、先生はだるそうにドアを閉めて、去って行った……。
(え? ちょ、え? えぇえええええええええ!?)
俺は心内で全力で叫んだ。この委員会ってそんな適当な感じでいいの? と思っていたら、横で物音がした。
なんだろうと、物音がしたほうを見ようとした瞬間、俺の体は椅子から落ちていた。そして引きずられていた。俺の尻から火が出るんじゃないかという勢いで引きずられていた。
もうここまで来ると、物音がなんだったが理解して、キメ顔を自己満足のために決めたが、窓に映った襟をつかまれて、その行為をした俺を見て後悔した。
さっと答えを言うと、さっきの物音はすみれさんが席を立った時の椅子の音。そしてその後すぐ、俺に声をかけずに襟をつかんで、俺が床に落ちたのだった。
そんな大衆の中で、俺は引きずられているので、俺はできるだけ何にも考えずに、されるがままでいると。
「あっ……ふふっ、元気そうでよかったわ」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえたが、尻の痛みを我慢し始めていたので、誰とはわからなかった。
そのまますみれさんは、俺を手から放して、この部屋の教壇に堂々と直立した。そして彼女は、各クラスのクラス代表を一通り見回した後、軽く一言。
「学年代表は、誰にする?」
この部屋は最初から重い沈黙にあったが、さらに漬物石を置くがごとく、空気が重くなった。本来先生が仕切るはずなのに、その先生は会議早々、去っていく始末。だからこそ、この場を仕切る人が必要なのはわかるが、すみれさんは少しやり方が雑過ぎるような……。そんな中でもすみれさんは変わらぬ口調で。
「私は立候補するわ」
堂々と宣言した。他の学校なら他にも立候補すると思うのだが、この部屋にいるクラス代表はそれをする気配がない。まぁ確かに、この人は世間で<超女>と呼ばれる存在で、普通の女性とは違う存在。格が違うことを、ここにいる人たちは理解しているのだろう。
ある意味で、クラス代表での瀬戸さんがイレギュラーだったのだろう。格が違うことわかってても、戦いを挑んだ彼女は、最近ではおとなしい。最初のような威勢はなく、普通のクラスの一員として、クラスの子と仲良くしている。何か彼女の中で考えが変わったのだろう。俺の知るところではないが。
そんな格の違うすみれさんの立候補宣言で、暫く手が上がらないのを確認したすみれさんは、ため息をついてから言った。
「ではこの私、氷原すみれが学年代表でいいのかしら?」
しばらくの沈黙の後、俺の見えない場所から小さな拍手が聞こえた。それに続かのように、拍手の数が増えていき、この部屋は拍手の音が響き渡った。この瞬間、一年生学年代表は、氷原すみれとなった。
学年代表となったすみれさんは早速、行動というか代表としての執務を始めた。
「ではまず、この学年の今後を決める目標でもたてましょうか」
そうポケットにあらかじめ用意してたと思われるメモ用紙を折り、紙飛行機を作って、少し離れていた俺に投げつけてきた。俺はその紙飛行機を広げ、驚愕した。
(すみれさん、これ書くんですか?)
そう思って彼女を見たが、視線だけでもわかる。
(早く書きなさい)
あの目になると言い訳しても無駄だ。そう思って仕方なく電子黒板に書いていく。
俺が一文字一文字書いていくたびに後ろから、ざわめきが聞こえてくる。まぁ気持ちはよーくわかる。でも、すみれさんらしいなと個人的には安心していた。
俺はひそかに思っていたのだ。あの統戦以降、クラス中にすみれさんの過去が暴露された。それによって、すみれさんは今まで通りに生活するのだろうかと。だが今日の朝の行動と、この紙に書いてあることを読んで――そして、あの顔を見て安心した。
「これが私たち一年の掲げる目標はこれよ!」
すみれさんは思いっきり、電子黒板を叩いた。そこに書かれていた言葉は。
――この学校でのNO1の主権をこの学年が手に入れる。
すみれさんの目は獣のような鋭い目になり、だが口は笑みを作っていた。そうあの顔は、彼女が心からこの目標を達成するという、強い意志を持っている表情だった。あの過去を乗り越えたときの顔だった。
こんにちは、りょーすけです。読んでくださって毎度ありがとうございます。
今回は学年代表たちの集まる会議(まだ誰もほかの学生代表出ていないという)でした。そしてすみれさんはやっぱりすみれさんです。相手が誰であろうと、自分らしく進む。
そして題名であるBHAGとは、大きな目標を掲げ、それに向けて、組織が努力し、組織を進化させながら、目標を達成するという意味です。
今最近は、少し新しい小説の設定などで時間がなく、掲載遅れ中です(個人的になんとなくそのシーンを想像しながら執筆するので。設定するのが苦手)
それでも何とか書いて掲載できる状態にしたいので、かけた際はぜひ読んでください。テーマは「想像」です。
ではまた31話でお会いいたしましょう。