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29話 すみれの仕返し

翌日、いつも通りとは少し違う形で学校に登校した。本来この形で、登校するのが普通なんだけど――俺は一人で登校してきたのだ。入学初日から、とある特定の場所にたどり着く度にいたはずのすみれさんがいなかったのだ。

(なんかあったのかな?)

 でもAWによって、女性は病気にかかりにくいとか、聞いたことあるんだけどな。そんな風に考えながら歩いていたら、自然と教室に到着していた。当然のように教室の扉を開いた。その途端謎の物体が俺の腹に直撃した。

ゲハァ! そのまま俺は、謎の物体に押される形で廊下の壁に吹っ飛んだ。周りにいた女子生徒たちは、驚きながらも俺に近づこうとはしない。女尊男卑がはっきりとした世界。普通の女子は男に、余程の事がない限り近づこうとしないのだ。余程の事の簡単な例はパシリに使う時とか、面倒な仕事を押しつける時とか……はぁ。

 そんな俺の周りには数人の女子生徒が、コソコソと何か話しているように見えるが、そのコソコソ話の種になっている俺は、全く状況を掴めていない。

 壁によっかかった状態になっている俺の目の前に、細い物体が向けられている。

(ん? これどっかで……)

 確認のために、顔をあげるとそこには鞘に入ったレイピアを持ったすみれさんが、異様な雰囲気をまとって立っていた。

「おはよう」

 すみれさんから挨拶されたが、その一言は、普段とは違う何かを感じさせる警告に聞こえた。

「お、おはようございます」

 俺はそれでもいつも通り挨拶を返す。それと同時に、どうこの状況を打開し、逃げるかを考える。だがすみれさんは少し微笑んで。

「何を考えてるの? まさかどう逃げるかなんて考えてないよねぇ?」

「…………」

 ば……ばれている。何故だ!? 俺は心の中で考える。そんな慌てている俺に、すみれさんは微笑んで声をかけてくる。

「あなたは私の力を舐めてるの?」

 すみれさんの……あ! 俺は思い出した。すみれさんの能力って。

「舐めてませんよ。人の心見れるなんて普通できませんよ」

「そうよね。忘れてないようでよかったわ。フフフ」

「忘れる訳ないじゃないですか。ハハハ」

 周りにいる女子を構わず、俺たちは声を上げて笑った。だが笑顔だったすみれさんは、その笑いを突然辞めた。

「よくも昨日はやってくれたわね」

 え、昨日? 俺は昨日の記憶を頭から引きずり出して思い出す。部活の人たちとご飯を食べて、帰りに安売りしているスーパーで買い物。そして夕ご飯はドリアにして、後は寝るまで、マンガ読んだりバラエティ番組を見てただけのような……。

「へぇー、昨日の私の事を覚えてないと。ふぅーん」

 すみれさんの顔が少しずつであるが、引きつっている。あれ? すみれさん、昨日……あ、もしかして。そう思って恐る恐る聞いてみる事にした。

「もしかして、無理やり逃げたことですか?」

「まさにそうよ。覚えていてくれて嬉しいわー」

 少し棒読み口調で、俺の目をひたすら見ている。肉食獣が獲物を見る時のような目で。

「あんなの初めてだったわ。突然走り出して逃げられるなんて。屈辱の何物ではないわ」

 すみれさんの周りから、殺気に似たオーラーが漂っているのを肌で感じ取れる。

「い、いや。あれにも事情がありまして」

「いい訳無用だわ」

 俺の耳元で二つの音により、俺の声を消した。その代わりに聞こえてきたすみれさんの声はすごく冷静なのだが、行動は冷静ではなかった。俺の横の壁に鞘がめり込んでいるのだ。おそらく壁にめり込んだ時の音も、運悪い事に聞こえてしまったのだろう。

普段の俺なら、一瞬レイピアの動きを見えていたかもしれない。だが生憎、今はどうやって生き残ろうかという、生命危機から脱出したいと本能が俺の体を支配している。

(どうするどうする!)

 俺が必死に冷や汗かきながら、思考回路を回す。

「必死ね。でも皮肉な事にすべてわかっちゃうのが悲しいわ……」

 壁にめり込んでいた鞘入りレイピアを引き抜く。そして突きの構えをとる。

「……まぁ今日の所は、私の一撃で許すわ」

 私の一撃って――壁にめり込む一撃は、俺にとっては必殺技に相当するのですが。そう思ったが、今にも俺の腹にあれが刺さると考えたら、如何に早く、気を失うかを考えていた。

「私を小馬鹿にしたことをあの世で懺悔してなさい」

「俺を殺す気ですか!?」

  そう言っても手遅れ。すみれさんは腰を曲げ、最大限の威力を出そうとしているのだろう。あぁ、俺の最後の言葉は何とも情けない突っ込みだった。

「はぁ!」

「なにやってんだ!?」

 突然の声に、すみれさんのレイピアの先端が、俺の腹まで一センチの所で静止していた。た……助かった。

「先生、おはようございます」

「うん。二人でてか、なにやってるの? てかこの人の集まりはなに?」

 俺も少し冷静を取り戻したので、周りを見ると辺り一面人だかりができていた。

「先生、私の執事がお腹の調子が悪いと言ったので、私流の腹痛の治療を施そうとしていました」

 おい、すみれさん。俺はそんな事言った覚えないですよ。なんてバレバレの嘘をついてるんですか。すみれさんらしくもない。

だが、状況が状況。何かが刺さった痕跡のある壁にこの人だかり、どう見ても治療でできた物ではないだろうって、斬坂先生も少し唖然としている。

「……ホントか、成川?」

 困った先生が視点を変えて、お腹痛いを言った(嘘)俺を見て訊いてくる。俺は立ちあがって、その質問に堂々と正直に答える事を決意した。

「いえ、そんなことい……!?」

 何かを感じる、とてつもない何かを。その何かを発している発信源は、何となく予想がいやでもできる……。その事に気づいてしまった俺の口は。

「……いましたね。そしたらすみれさんが治療してくれるって言ってくれて、今こんな状況です」

「そ、そうか。で? 調子はどうなんだ」

「最高に調子いいです」

 勝手に嘘をついていた。俺の口が勝手に動いて、自分の意志に沿わない発言をした。

「それならいいんだが。あれだ……物壊しは程々にな、氷原」

「はい、先生」

「てか、もうチャイムなるからさっさと席に座れ。遅刻にするぞ」

「はい」

 そう言って二人は、教室内に入っていった。そして取り残された俺は、ひとまず安堵した。

(相変わらず、すごい女性でござるな)

 どこにか俺と同じ気持ちを持った人がいるがわからない。てか俺も、早く行かないと遅刻になっちまうと思い、すみれさんたちの後を追うように、教室に入っていった。その時、彼の姿を凝視している者がいたが、刀破は微塵も気付いてもいなかった。


新年明けましておめでとうございます。

2013年になりましたね~、自分も初詣で大吉出ました! 今年はなんかいいことあるかもと思いながらうきうきしています。

 さぁ、今年初めての投稿ですが、最近遅くなっていることを謝ります。これからもある程度のペースで投稿できたらいいなと考えておりますのでよろしくおねがいします。

 次回、すみれさんがとある会議で大波乱!? では次のお話まで

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