表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

24話 初決着2

 すみれさんはふと少し前の事に思いをはぜていた時、対戦相手も昔の事を不思議と思いだしていた。


 ――十年前。一人の少女が、二人の大人に自分の力をお披露目していた。

「すごい……これがAWの力かぁ」

「すごいですわ。あの子より前の子の方が強い気がしますわ」

「あの子より強い子がいるのか?」

「ええ、その子は……」

 またこれか、彼女は心の中で呟いていた。

 彼女はある日を境にAWの力によって、人の考えを読み取れる力を手に入れた。

 それはやがて大人たちの間で噂となり、会ってみたいと大人たちは思うらしく、お父さんに頼みこんで、そしてそれを了承したお父さんが今度は私に頼んで、私が了承してみんなに見せる。

 ただそれだけ。だけど大抵その後に、最後の言葉がつく。

『あの子より、すごい子がいるらしい』

 私よりすごい子がいる。この世界は広いのだから、自分よりすごい人なんて山ほどいるのだろう。小学生が考えないような考えで、彼女は納得していた。

 さらに彼女をその考えにさせる支えがあった。

 それは彼女の両親だった。両親はAWを研究する科学者として共働きをしている。

 彼女の両親は娘をとても愛していた。お仕事忙しいのに、よく家に帰ってくれて、家族で楽しく暮らしていた。

 家族団欒――この一家のためにある様な四文字熟語だった。

 何より影で何と言われようが、自分の娘の力を信じてくれていた。

 だから彼女も、両親のためにと一生懸命頑張った。

 頼まれたら口答えせず、頼まれた事をやった。見せた人たちになんて言われようとも関係ない。両親が喜んでくれたら、それでよかった。それだけでよかったのだ。

 だがある日の深夜、彼女はトイレに行きたくなり、布団を無意識に出て、意識が半分朦朧としながらトイレに向かってる途中に事件は起きた。

 普段は夜遅くに電気が点いていないはずのリビングに電気が点いていたのだ。彼女は寝ぼけながら電気を消そうとリビングに入ろうとした瞬間、中から聞き覚えの声が聞こえた。

「あの子は……すごいな! 新しいAWの可能性が見えたよ!」

「えぇ! 今度検査とかしてみたいわね! そう……」

 両親の声が聞こえた。彼女の前では決して放たなそうな声だった。そう科学者としての情熱に火がついて、興奮している声だった。そして母親から放たれた名前は自分もよく聞くこの名前だった。

 彼女は部屋に入るのをやめ、静かにトイレに向かった。両親にばれないように。

 それからだ。両親が家に帰ってくるのが遅くなったのは。

 それからだ。家族団欒と言う言葉がこの家から消えたのは。

 それからだ。彼女の家には世話人が何人か配属され、両親はめったに帰ってこなくなったのは。

 それからだ。私の家族を破壊した噂の女を憎み始めたのは。

 そんな静かなる家庭崩壊が起きている途中、そう彼女が中学一年生の頃。

 毎年五月に開催される中高合同運動祭、通称<戦動祭>で彼女は確かに見た。

 自分と同い年なのに、ただならぬ雰囲気をかもし出している女子が競技場にいた。とても美しい姿だが、近づく者はいない。誰も近づけさせないオーラを放ち続けるせいで、誰も近寄れないと言った方がいいのか。禁断の果実みたいな女だった。

 そんな女の名前を私を含めて、誰もがを知っていた。AW界で十人しかいないと言われている超女の一人、氷原すみれ。別名、透眼の冷女。そして私の家族を壊した女。

 彼女を一目見ようとしているのか、保護者観覧席として用意されている席の一番前の列は、特殊な機械など持ちこんでいる、私の両親と同じ科学者ばっかりである。運動会であるのになんとも皮肉な光景。

 だがそれすら気にしない彼女は悠然と立っている。私はその光景に自然と怒りを覚えていた。そうあの親を奪われたと思った瞬間の怒りが再び燃えだした。

(潰してやりたい……絶望を見せてやりたい)

 その日から彼女の心にずっと、その燃えるような欲望を持つようになった……ずっと、はてしなくずっと。


「これでやっと――叶えられる」

 彼女は鎖鎌を振り回しながら、誰にも聞こえないような音量で呟く。

 自分からすべてを奪い破壊した女が目の前にいる。そしてその女を倒せる千載一遇のチャンスが今、目の前にある。これほど嬉しい気分になれたのは一体いつだっただろう。

「さっさと決着つけましょう」

 彼女は大きな決意を胸に、さっきと同じ言葉で戦う状況を作り出し、両手に鎌を構える。

「奇遇ね。私もそう思っていたわ」

 すみれさんもそれに応えるように同じセリフで、レイピアを構え直す。

 お互い過去を背負いながら、今を戦い、未来を切り開こうとしている。

 だがそこから二人は動かない。静止画のようにあの二人は微動だにしない。

 まるで未来に行くのを拒否するかのように。

 

 その様子を見るとともに、時計を気にする斬坂先生が息をひそめながら。

「この時間であの様子だと、あの二人……一撃で決めるつもりね」

 たった一撃。多くの事件を生み出したこの統戦がたった一撃で終わる。

 しばらくの沈黙。この第三訓練室には40人も人がいるのに音がしない。だが時計を見て、斬坂先生がこの部屋全体に響き渡るぐらいの大声で彼女たちに伝える。

「残り時間、後いっぷ」

 報告を伝え終わる前に、途端に彼女たちは動いていた。二人の激突は一瞬だった。一瞬のうちに二人の立ち位置が逆になっていた。

 おそらくあの一瞬で、一撃の激闘が行われていたのだろう。だが恥ずかしい事に、俺の目では彼女たちの動きを確認できなかった。見ていたのだが、目が追いつかなかったというのが正解なのだろうか。

 だが聞こえる。割れたお皿の破片が地面に落ちる音が――瀬戸さんのお皿が割れる音が。

 この瞬間決着がついた。斬坂先生もどちらの皿が割れたのを確認できたようだ。

「瀬戸・美雨音ペアの皿が全て無くなった事により、勝者を氷原・成川ペアとする」

 この瞬間同時にすみれさんがクラス代表に決まった。

 俺の初めての統戦に決着がついた。

 

 

 

 

 

 


 


 

 

こんにちは、りょーすけです。

本当に香水ん遅くなりまして申し訳ございません。この時期になりますと、いろいろ行事が重なりまして。

 今回で決着がつきました。長かったです。

 次回は1章のその後のお話です。

 ではでは、また次のお話で

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ