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23話 初決着1

 枠外に俺が出たことを確認したすみれさんは、瀬戸さんに目をやる。

「さっさと決着をつけましょ」

「そうね、私もそう思うわ」

 瀬戸さんは雫さんが投げたクナイを一本拾い、すみれさんに破壊されていた左の鎌と繋がられていた鎖に巻き付けた。

「だから、さっさと倒されて頂戴」

 巻き付けたクナイをすみれさんへ投げる。もちろんすみれさんはクナイを簡単に弾き飛ばす。

「あら? 来ないの?」

 ホントは来ない事はわかっていたが、ちょっと意外だったのだ。

「てっきり、突っ込んでくるのかと思ってたわ」

 人間は時に考えている行動と、動かす体が別の行動を行う現象があると聞いた記憶があったから、すみれさんはてっきりそれが起きるのではないかと予想していたのだが、瀬戸さんはその期待を裏切ったらしい。

「どうせ、そんくらい見えてのでしょうに?」

「まぁそうだけど、予想外の展開を期待してたのよ」

 お互い心を視れる者。この二人には最早心理戦はない。例えしても見れてしまうので、やっても意味がなく、無駄の作業。

「てかあなた、随分冷静ね」

 刀破と戦闘してた時は、我を忘れたかのように戦っていた。今の姿はそれを思い出すと、とても冷静に見える。

「あの時は怒りに身を任せちゃったのよ」

 瀬戸さんは投げたクナイに繋がっている鎖を引っ張り、クナイを自分の手元に戻す。

「それよりいいんですの?」

「なにが?」

「時間ですわ」

 すみれさんは時計を見る。もう統戦の残り時間が三分切っていたのだ。

「まだそんくらいしか経っていないの……」

 すみれさんにとっては信じられない短い時間だった。

 

 いつからはわからないが、とある一言をきっかけで、とある空間に閉じこもった記憶があった。

 そこはとても暗く、中世の時計塔から鳴る鐘の音が響き渡っている。だがそこにいるだけで、昔のトラウマが胸から溢れてきた。

 必死に逃げようとした。だがどこまで逃げても出口が見えず、変わらずトラウマの闇だけが彼女を包み込もうとする。

 誰もいない、たった一人。昔と変わらない世界。

 だけど昔のようにその事実を肯定できず必死に抵抗する。肯定できない理由があった。抵抗する訳があった。

 ――成川刀破。高校からこの町にやって来た男。

『何でもするから助けてぇ―』

 最初はただ純粋に助けて、すぐに学校に向かうつもりだった。

 自分を見てすぐにお礼を言って、逃げると思ったから。

 でも彼は逃げなかった。それどころか自分の顔を真正面から見て、お礼を言ってきた。

 心を見る女として、恐れられていると知らないとはいえ――嬉しかった。

 こんな気分になったのは何年ぶりなのだろう。そして嬉しくてついついふざけて言ったのだ。

『私専用の護衛執事になりなさい』

 彼はいまいちこの単語の意味を知らなかったのか承諾してくれた。

 だけど会話していると同時に、この男は自分の能力を知らないとわかってしまった。

 まぁ、最近この町に移り住んできたのだから当然だろう。

 だからこそ――知られたくない。

 何故こんな感情を抱いたかは不明だが、とにかく彼には知られないよう努力した。

 彼は一度自分の頼みを拒絶して戦ったが、最後は無理な頼みを聞いてくれた。このまま面白い時間が過ごせるかと心の隅で思っていた。

 だけどだめだった。自分の知られたくない、知られてはいけない部分、過去を知られた。

 また一人ぼっち。あの頃と同じ世界にただ戻ってきただけ。

 たった数日のシンデレラ、もう終わってしまった。楽しい魔法は解けたのだ。

 鐘の音は未だ鳴り続いている。そう彼女に改めて、終わりを告げさせるように。

 抵抗虚しく、もう自分の体全体を闇が包み、視界を完全に失うと思った瞬間。

「俺は! 氷原すみれを守る護衛執事だぁ―!!」

 どこからか声が聞こえる。聞き覚えのある声。ああこの声は……。

「すみれさんの過去に俺は何も言えません。言っても変わりませんし、何の得にもなりませんから」

 だんだん聞き覚えのある声を発している人の姿が、闇の隙間から僅かだが見える。何もないと思ってたこの空間に人がいる。一生懸命手を伸ばしているように自分には見えた。

「だけど――今のあなたには言えます! <今>から逃げないでください!」

 今――今の私にこの声を発している人が見て、どう思われているのだろう。きっと醜い姿のだろう。それでもあの人は手を伸ばしている。

「過去は過去です! 今を苦しめるためにあるんじゃない。そして……」

 その通り。自分でもよくわかっていた。でも未だそれを飲み込めない自分が確かにいるのだ。闇に包まれたこの姿がその証拠なのだ。

「そしてあなたは今は一人じゃない! 最低でも俺がそばにいます!」

 いままで自分を包んでいた闇の色が薄くなっていく。そして視界もだんだんクリアになっていく。そこにはやはり――彼がいた。

「俺はこれからもあなたのそばにいます。ずっといます。そっちから嫌と言ってもついて行きますよ。だって俺はあなたの護衛執事ですから!」

 馬鹿の事を言っている。<透眼の冷女>として恐れられている自分に、前代未聞な宣言大声でほざく馬鹿は自分自身でさえ見たことない。

 こんな馬鹿野郎を見たのは初めてであり、同時に言葉にならない程嬉しいと思ったのも、初めてであった。

 目から涙があふれてくる。綺麗な涙は一粒、また一粒と落ちていく。その涙に触れた闇は中和されるようにどんどん消滅していく。

「だから主人が動かなきゃ、執事は動けないんですよ。何とか言って下さいよ! すみれさん!」

 まったく……彼は手を伸ばしながら遠ざかって行く。近づきたいのか、遠ざかりたいのかまったく持ってわからない。

 そう私は今更気付いた。いるんだ――私を待っている人がいるのだ。こんな所で、闇なんかに飲み込まれる場合ではない。

 不思議な事にさっきまでどんなに抵抗しても振り払えなかった闇が、少し触っただけで簡単に消えていく。

 すぐに体にまとわり憑いていた闇はなくなった。でも視界はまだ真っ暗――の予定だった。

 でも一筋の光が見える。どこまで続いて行くような一筋の光。

 どうやら出口のようだ。でもその出口の最後に、なにかある。

 AWにより発達している目には、その先にあるのがわかった。

 一枚の皿がある、小さくて丸いお皿が。

 一瞬で誰かのお皿と判断出来た。そして彼女はとある結論にたどり着く。

 あのお皿をぶち壊そうと。

 この世界から出るためには仕方がない。彼女は自分に言い聞かせて、強くレイピアを握りしめて、狙いをつける。

 もう後は一歩踏み込めば、この闇から抜け出せる体勢ができた。彼女この世界で、最初で最後の一言を放つ。

「あの手……握りたかったなぁ」

 彼女は神速と呼べるような速さで、一歩を踏み出した。


 

こんにちは、りょーすけです。

更新がこんなに遅くなった事すみません。

GWやレポートなどせっせとやってて、こちらを書ける環境ができませんでした。

今もレポート地獄と戦ってますので、しばらく更新遅くなると思いますが、ご了承の方お願いします。

 書いている途中でこの一話で決着をつけさせようとすると、とんでもなく長くなり、皆様に読みにくくなと思い、わけました。

 ですので次回こそ決着!24話 初決着2 

 読んでいただけるとありがたいです。

 今回も呼んでいただきありがとうございました。では

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