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22話 初復活

「すみれさん……クッ!」

 すみれさんに変化を確認できてホッとした僅かな隙を瀬戸さんは見逃さず、全力で鎖鎌を引っ張ってきた。

 鎖がふくらはぎに食い込み、激痛が体全体に走る。それでも俺は踏ん張り続ける。

「あなた、あなただけは!」

 もはや獣の目で俺を見ている瀬戸さんが俺を睨んでいるのが、嘘炉を振り向かなくても気配でわかる。いつ首根っこを食いつかれてもおかしくない。

 逃げようと思ったが、運悪く鎌の刃が鎖の間を通っており、刃の付いた足かせになっていた。下手に逃げようとすれば、おそらくあの鎌にも危害を与えないように何か処置はしてあるだろうが、無傷ではすまないだろう。

 もう時間はあまり残されていない。言える事だけは言ってしまおう。

「すみれさんの過去に俺は何も言えません。言っても変わりませんし、何の得にもなりませんから」

 彼ならこの状態でも、なんなく対処して有利な状況を作り上げて、ゆっくりすみれさんと話していただろう。だけど俺にはそんな能力は持ち合わせていなかった。

 だけど言い切るまでは倒れる気はない。

「だけど――今のあなたには言えます! <今>から逃げないでください!」

 すみれさんの肩がわずかに動いたようにも見えたが、瀬戸さんとの命がけの綱引きを行ってるため、ちゃんと確認できなかった。

「過去は過去です! 今を苦しめるためにあるんじゃない。そして……」

 すみれさんは昔、友達の頼みを聞き、そして頼みををやり遂げたが、友達のためにならないと判断し、友達が悲しまわないように小さな嘘をついた。そしてその嘘によって、友達の怒りの事戦に触れた。

 だがこれはさっきの話だと、友達の誤解で生まれた事故だ。

『○○君はね、あなたの事いい友達だって言ってたよ』

 ここから友達は誤解したのだ。ここから自分の事を好きと思うのは少し難しい。だけどそこは小学生、まぁ仕方がない。

 そして、その後嘘はよくないと学んだ。父親の嘘を看破して発生した両親の喧嘩、これもただ単に父親が悪い。一家の大黒柱がやってはいけない行為に手を伸ばしために発生した事故。

 その後の飛行機の事故。これは運とタイミングが悪すぎた。これは彼女と全く関係ない場所で発生した不慮の事故。

 たった二日でこれだけの大きな不幸な事故が、それまでの彼女を殺し、そして今の彼女までも苦しめるトラウマに化けた。それが今、彼女を苦しめていると想像するだけで胸が苦しい。

 でも十年間も彼女はそれを背負ってきた――たった一人で。信頼できる人がいないまま。

 そんな彼女の護衛執事である俺は覚悟を決めて叫ぶ。

「そしてあなたは今は一人じゃない! 最低でも俺がそばにいます!」

 言えた。最低限伝えたいセリフを。たった一言で彼女の十年間のトラウマを破壊できるとは思っていない。でも届いてほしい! 彼女の苦しみを柔らわげる事は出来るかもしれないから。

「俺はこれからもあなたのそばにいます。ずっといます。そっちから嫌と言っても付いて行きますよ。だって俺はあなたの護衛執事ですから!」

 ジャリリッ、俺に巻きついている鎖が、少しずつ俺とすみれさんとの距離を遠ざけていく。

「だから主人が動かなきゃ、執事は動けないんですよ。何とか言って下さいよ! すみれさん!」

 ジャリン、ついに俺の足に限界が来た。そのままバランスが奪われ、体が倒れる。

 これでいい。このまま負けても伝えたいセリフは言えた。今の俺には後悔はない、それどころかすっきりした気分だ。

「さようならぁ~」

 いつの間にか、瀬戸さんの顔が目の前にあった。彼女の顔は怒りと喜びと相対する感情が混ざり合って、なんて表現していいかわからない。それでも見てていい感じはしない。

(ああ、やられるのか)

 そう覚悟して、俺は黙って目をつぶる。最後に抵抗しようかと思ったが、体に力が入らない。

 ――パリンッ。

 ああ、割れた。俺の左胸にあった皿が割れていく感触が伝わってくる。このまま、すみれさんもやられるだろう。

 負けるのは悔しいが、すみれさん第一に考えれば、まずは瀬戸さんによって、ばらまかれたあの話の処理から始めなければいけない。

 少し時間はかかるだろうが、きっとみんなわかってくれるはず。そう願いながら目を開けた。

 目の前には瀬戸さんの顔が、俺の視界の九割映っていた。その顔は先ほどとは違い、驚きと疑問が混ざり合った中々面白い顔していたが、俺は残り一割に映っていた景色に目を疑った。

 そこには一人の女性がいた。俺の命の恩人である人が俺の目に映っていた。俺はその人に焦点を合わせ、その人の名を呟く。

「すみれさん……」

 俺の命の恩人であり、俺を護衛執事に勝手にした人であり、そして本気で助けてあげたいと思った人。

 彼女は優雅に立っていた。ほんの数分前までは抜け殻だった人とは思えないほどに。彼女の右手で再び強く握られてたレイピアが、俺の左胸に……。

「え? …………えぇー!」

 最初は何が起きた現実で理解できず、声が出てしまう。なんせすみれさんのレイピアが、瀬戸さんの鎌を防いで、俺の左胸の皿を貫通してたのだから。

「そんなに騒がない事態ではないでしょ。味方が敵にやられるの見るのなら、私がトドメを刺した方がいいかなと思ったの」

 記念すべき一言目がこれですか。でもいかにもすみれさんらしい発言だと思ってしまい、つい笑みがこぼれる。

「私に攻撃されたのがそんなに嬉しいの? あなたマゾなの?」

「違いますよ!」

「そうなの、マゾだったら毎日私のレイピアのサンドバックになってもらおうかと思ったのに」

 そんな光景を俺は一瞬だけ想像したが、すぐに腹に異様な痛みが生まれたので、即座に想像を中断した。どうやら見た感じではすみれさんは復活できたようだ。

「……どこまでぇぇえ」

 俺の視界外から小声だが、怨念籠った声が聞こえてくる。

「どこまで私を邪魔をするのぉおおお! あなたたちはぁ!」

 もう俺の言葉ではど言えばいいかわからない表情で、俺にとどめを刺そうとした鎌を彼女に攻撃した。

 あっさりとすみれさんはその一撃をレイピアで受け止める。

「あなた、さっきこの統戦に負けてもいいと思ってたでしょう?」

 氷原すみれは瀬戸さん曰く『心を透視できる人』と言っていた。俺が全て言い終わって、満足した時の心でも見てたのだろうか。

「それはよくないわ。そしたら私はクラス代表になれないでしょ?」

「えぇ、でも」

「でもじゃないわ。わたしは勝利して、クラス代表になるわ」

 瀬戸さんは我を忘れたかように、すみれさんに向かって鎌を振り回す。そして鎖に繋がれた俺の足には、その度に激痛が走る。そんな中でも、すみれさんは冷静に俺に話しかける。

「クラス代表になることがこの学校の理事長の孫娘である義務だと、今さっきまで思ってたわ。でも今は違う」

 瀬戸さんはもはや皿割りではなく、すみれさん本体を痛めつければいいのか、今度は自分の攻撃を防ぐレイピアを持つ右手に襲いかかる。

「私自身が望んでる。このクラスのクラス代表になりたいって」

 すみれさんは瀬戸さんの攻撃をギリギリまで誘い込み、右手に触れるか触れないかの一瞬で回避し、右手を瀬戸さんの襟を内側から掴む。

「だから私は必ずこの統戦に勝つ。なにがあっても!」

 左手で瀬戸さんの手首を掴み、右ひじを彼女の脇の下に入れ――投げた。瀬戸さんは見事に宙にそのまま浮く。

「ぎゃぁああああ」

 俺は瀬戸さんと今は鎖で繋がっているため、俺も彼女に付いて行く形で宙に浮いてしまう。

 瀬戸さんは体の本能が働いたのか、見事な前周り受け身でこの攻撃に対処する。だが俺はそんな事できずに背中から着地。見事に背中から痛みがやってくる。

「ったく、すみれさんは……え?」

 俺を(間接的に)投げた張本人がこちらを見ていた。そしてレイピアをこちらに向け、今にも俺を突かんとする体勢。

「え? すみれさん?」

 そのまま何も言わず、俺に向かって突進してきた。

 ――バキッ。

 俺の骨が折れたかと最初は考えたが、痛みはない。だけど妙に右足に痛みがなくなったような気がする。

 そう思いながら右足を見ると鎖と鎌を連結部分が破壊されていた。そして引力が無くなり、足に絡まっていた鎌が自然と外れる。

「あ、ありがとうございます」

「お礼を言われるほどでもないわ。あ、でも瀬戸さんの重りにしておく手もあったわね」

 最後の方は聞かない事にしておいて、俺は安心する。改めてすみれさんが戻って来たという実感が持てたから。

「もうあなたは負けたんだから、枠外に行きなさい」

 あっ、ついつい声に出してしまったが、さっきのすみれさんによって割られたお皿が、最後のだったのを思い出す。

 俺はなんとか立ち上がり、枠外に出る前に囁いた。

「じゃあ後は――勝ってください」

「最初からそのつもりよ」

 では、俺は軽い会釈をし、彼女を背中を向ける。

 拍手をしてくれている佐多と雲雀の所に右足を少し引きずらせながら、彼らの元へ目指そうとした瞬間。

「――ありがとう」

 かすかに聞こえた、今にも消えそうでやさしい声。

 不思議と体が軽くなったような気分。

 嬉しかった。一言で俺がやった事が無駄ではなかったと感じられた。

 すごく彼女の姿をもう一度目に焼き付けたかったが、もう後ろは振り向かない。

 今の彼女を見たら、俺のイメージしてる彼女はいないだろう。そしてそのまま、直感だが彼女を守ろうとしてしまうだろう。それではルール違反になってしまう。

 だから振り向かない。

 後はすみれさんがこの統戦を終わらせるまでじっと待つ。

 俺は胸から押し寄せる感情を鎮め、誰にも今の自分の顔を見られないように俯きながら、俺は彼らの元を目指した。



 

 

 

 

 





 


  


 

こんにちは、りょーすけです。

今回で第一章終わらせようとしたのですが……まだまだ腕が未熟と言う事ですな。

 そう言えば大学の授業の一つに小説の書き方についての講座があったので迷わず入れてしまった今日この頃w

 次回立候補者同士の一騎打ち。さぁどっちが勝つか!?

 忙しい中読んでいただきありがとうございました。

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