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20話 初後悔

「私たちを倒すですって……冗談にも限度がございますわ」

 女子を打ち負かす男子。それはこの世に数えるぐらいしかいない存在。この学校にもいてはおかしくないが、そんな男子はいないと思うのが妥当である。

「…………」

 雫さんはただ黙って彼を見つめる。

 周りも戦闘開始から様々な事があり過ぎたせいか、驚き疲れているからか、こんな言葉ではみんなもう騒がなくなっていた。

「冗談? ハハハ、俺は冗談は言わないですよ」

 口では何気なく言ってるが、目は笑っていなかった。今にも二人を襲いかからんとする獣の目をしていた。

「雫、先に彼に引導を渡してきて」

 瀬戸さんが雫さんに言い渡すと、雫さんは無表情のまま、標的をすみれさんから彼に変える。

 ――よかった。

 彼は内心、安心していた。残り一枚のすみれさんのお皿を割ってから、こちらに来るのではないかと頭の隅で考えていたが、考える必要はなかったようだ。

 雫さんはクナイを構え、無表情・無口のまま突進してきた。

 彼との距離を詰め、左手に握っていたクナイを投げる。

 彼女の投げたクナイは、彼の胸にある皿に向かって飛んでいかなかった。

 彼女のクナイは彼の顔面目がけて飛んでいた。

 人間は自分の体に危険が察知した時、反射という動作をする。身近に例えると、熱いやかんをつい触ってしまった時に手が勝手にやかんから手を離すのも同じ。

 雫さんは顔面に高速で迫りくるクナイを、彼自身の体が勝手に反射を行った瞬間に、右手に握ったクナイでとどめを刺そうと考えていた。

「――甘いね」

 彼は逆刃刀で飛んできたクナイをなんなく巻き落とし、地面にたたき落とす。

 そして、距離をゼロに詰めてきていた雫さんのもう一方の攻撃も逆刃刀で防いだ。

「うーん。悪い考えではなかったけど」

 彼女の考えを見透かしているような口調で語り、そして彼は笑った。

「――それじゃ俺には勝てないよ!」

 雫さんは視点を下にして驚愕した。彼の右脇と逆刃刀の間から突如、鞘が現れたのだ。

 この予想外の展開に彼女は懐から新しいクナイを取り出し、鞘の攻撃を防ごうとする。この行動にかけた時間、零コンマ七秒。AWの力があるからこそなせる技であった。

 雫さんは急遽きゅうきょ出したクナイで、鞘の先端を捉えた。

「へぇー、やるね」

 これは予想外と声では少し驚いているようだったが、彼は顔で作られている笑顔は止まらなかった。

「なら、押し通すまで」

「…………!?」

 雫さんがは我が身を疑った。女の自分が男の彼に競り負けているのだから。

 確かに雫さんの緊急の対処で体勢が崩れていたのも一因だが、根本的に身体能力が女と男の差でそんな小さな一因ぐらい埋められる。

 だがそれができない。

 押されていく。どんどん自分のクナイの刃が腹のお皿に吸い込まれるように押されていく。

「うぉおおおおお」

 彼の腹からの叫びが、第五訓練室に響き渡る。その雄叫びが後押ししたかのように、クナイとお皿を磁石のようにひっついた。

 ――パキ。

 女>男の時代。

 ――パリ。

 男が人々に自分の心を魅せるのがとっくに終わっていた時代。

 ――パリリ。

 しかしそこにいた。

 ――パリンッ!

 人々に魅せる事の可能な男がまだそこにいた。

 女は男に押し負け、お腹に巻いていた皿を破壊された。そのまま女は床に倒れこんでしまった。

 そのまま女は女のプライドという魂を挫かれ、立ち上がれずにいた。

 男は倒れた女にゆっくりと歩み寄る。

「ごめんよ、俺の勝ちってことで」

 鞘で優しくドアを叩くように、左太ももに巻かれた皿を割った。

 ――パギィン。

 この音が鳴ったこの瞬間、美雨音雫はこの統戦から敗退したを明確にした。

 この音を耳で聞いた彼女は僅かに笑った。だが嬉しい笑いではない。

 この瞬間同時に、雫さんは無名の男に負けた女というレッテルが貼られるだろう。

 彼女は密かに心の隅で男を舐めていた。

 あの男と最初戦って、こんな大した事のない奴と戦わないといけないなんて苛立っていた。

 ――なのに負けた。

 彼女は大いに後悔した。何も情報のない男という種族。油断するべきではない相手。

 だが少し戦闘しただけ、弱いと断定してしまった。油断してしまった。

 そして何が原因なのかは不明だが、彼を取り巻く雰囲気は突如一変した。

 そこからはあまり記憶はない。だが彼に負けたという一つの真実が変わる事はない。

 ただわからなかった。引っ掛かる疑問があった。

 だがその疑問を考える余力も、彼女の体に残っていなかった。彼女の体は後悔の輪廻という名の金縛りで動けない。

 彼女は戦場の真ん中で、ただただ後悔するしかなかった。さっきまでの自分を思い出し、その醜さを思い出して、後悔しながら微笑む事しかできなかった。

 そんな彼女の姿を確認した後、男は笑顔のまま、今度は相棒の女の元に歩み寄る。

「クッ!」

 女は一歩後ずさってしまう。自然と足が動いてしまっていた。

 だが一歩また一歩と男は女の元に近づいてくる。

(私が恐れている!? 男なんかに)

 目の前で戦闘力なら自分と同じぐらい強い雫がやられた。それだけでも予想外。

 彼は疲れを微塵と感じさせない笑顔でこっちに歩んでくる。

「あ……あなたいったいなんですの!?」

 彼女がもう一つ予想外と考えてる事。彼は歩みを止める。

「俺? 俺は……」

 続きを言おうとした所で、彼は一旦口を塞ぐ。そのまま数秒両腕を組んで考え込む。

「成川、成川刀破だ。どこにでもいる男だよ」

 彼は彼女の質問に答える。そしてまた歩く動作を開始する。

 彼女はその答えを聞いても、彼女の頭にできた予想外は消えない。

(なんであの人の考えが――二つもあるの!?)

 人間は考えると言うアクションを起こす時、人間は「概念」「判断」「推理」の順で考え始め、そして結論を叩きだす。

 だが人間はそんなに器用ではない。人間は一つの「概念」の事しか考えられない。二つの事を同時に考える事は人間ではできない。

 人間はたった一つの考えだけでいっぱいになる。

 『我々は二つのことを同時に考えることはできない』とフランスの哲学者であるパスカルも同じことを言っている。

 なのに彼からは二つの考えが読み取れるのだ。最初は間接推論をしているのではないかと考えたが、根本的に最初の「概念」が違う様に見れるのだ。

(どうすれば、すみれさん起きるかな)

(さーて、どうやってあの娘を倒そうかな)

 あまりにも概念が違い過ぎる。あまりにも考える話題が違い過ぎる。人間が行えないような事を今、目の前で起こされているのだ。

 何だあの男は? あいつはいったい何者なんだ?

 考えが読みとれるからこそ生まれてしまう疑問。誇っていた自分の力で苦しめられる、何とも皮肉な話。

 彼女は考える、何であんな事をできるのかと。知っている知識を全て使って結論を叩きだそうとする。

 だが世界はそんなに人に優しくなかった。彼女は止まっていても、時間は止まってくれない。

 ――トォン、トォン、トォン。

 彼女に迫りくる足音。一歩、また一歩と近づくたびに音が大きくなってくる。そして彼女との距離を2・3メートル詰めた所で停止した。

「さぁーて、さっきの続きをしましょうか。瀬戸さん」

 ほんの数分前にとどめを刺そうとした彼が、不思議と言う名の新たな武器を携えて、彼女の元に帰って来た。

 また皮肉にも、今度は彼が瀬戸さんを狩るという形で帰って来た。

 


 



 

 

こんにちは、りょーすけです。

最近、家の店の手伝い・熱を出す・大学スタートなど色々あったせいで更新遅れてしまいました。

すいません。

今回は「彼」の初戦闘……と言ってもほんの少しでしたが、後ほどにわかる事でしょう。

 今日はこの辺で、忙しい時間読んでいただきありがとうございました。感想などありますと嬉しいです♪

ではでは

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