18話 初暴露
「クッ!」
彼女のクナイが俺の皿に破壊した後、そのままクナイの先端は俺のおでこを襲った。
「ぐああああ!」
先端が丸いとはいえ、五メートルの距離から瞬間移動みたいなスピードに、女性の力が加われば、頭に激痛が走るのは、当然の結果だった。
俺はまるで車と正面衝突した時のように、体が宙に浮いていた。この時初めて、どれほどの力で攻撃されたか、身をもって知った。
(くっそ! だけど倒れるわけには)
背中には残り二枚の一枚が割られている。たった一撃だけで二枚も割られる訳にはいかない。
「…………」
「あら? 思ったより丈夫なのね」
俺はなんとか足を先に床に着地させ、手をブレーキが割に床につけて減速させた。背中の皿を割らずに済んだ。
「大丈夫? まだいけるの」
すみれさんが後ろから訊いてきた。
「な……なんとか」
「せめてあのクナイ女は片付けなさい。命令よ」
なんて無茶な命令を。子犬にライオンに勝ってこい、と言ってるようなもんだ。
「……吉川元春は言った」
そんな中でも雫さんは次の行動に移っていた。左足で、床がへこむのではと思わせるぐらい踏みこんで、こっちに迫って来ていた。
左手にあるクナイを前に出し、俺の胸にある皿に一直線に流星の如く跳んできている。
「やらせるか」
最初の一撃は不意打ちとあって、刀を抜けなかったが今は違う。俺は刀を鞘から抜き、迎撃できるよう構える。
彼女は途中で減速し着地、そこでまた踏み込みを行い最大速度で俺を狩りに来る。
俺は右手に逆刃刀を構える。目では確認できないくらいの速度で来る彼女を迎え撃つために。
「え?」
彼女は俺の予想を裏切り、通過したのだ。
「……フリードリヒ大王二世は言った」
俺は首だけを後ろに振り向かせた。雫さんは俺の真後ろで、ジャンプしながら回転した。
「敵がほとんど予期しないことは、どんなものでも成功する、と」
そう語りながら、雫さんはクナイを――投げてきた。
クナイの別名はクナイ手裏剣。そこで考えるべきだった。「投げる」という選択肢があると考えるべきだった。
――パリンッ。
俺の背中に巻いておいた二枚目のお皿が割れる音が、俺の耳を支配して、皿を貫いた後に俺の背中を
襲ったクナイの痛みが俺の全身を支配した。
俺は無意識に倒れてしまった。意識はあるのだが、体が言うことを聞かない。
それを見届けた雫さんは、目標を俺からすみれさんに変えた。
「全く……私が二人片づけなきゃ終わりそうにないわね」
すみれさんは背中に背負っていた(髪の毛に隠されていたので俺も初めて場所を知った)自分の武器を取り出した。彼女の武器はレイピアだった。何の花かはわからないが、とてもきれいな花、それが鞘の柄だ。
武器を取り出した事を目視した雫さんは、懐から新しいクナイを取り出し、彼女に向かって跳んだ。
(は……速過ぎる)
俺と戦ってる時の速さと桁違いだった。俺の時はなんとか目に見えるような速さだったが、今は見えなかったのだ。人は瞬間移動などできない、だからあれを人はこう呼ぶのだろうか――縮地と。
戦術は俺と同じように左手を前に出して、突きの構え。狙いはおそらく
「甘いわね」
すみれさんのレイピアが、雫さんのクナイを捉え、クナイの刃を受け流して、方向を変える。
雫さんのクナイは、すみれさんの胸にある皿に行くはずだったが彼女の左肩を通過した。
「次は私の番ね」
そう告げたすみれさの言葉に、雫さんは危険を察したのか、右足を駆使して後ろにジャンプしながら後退する。
今俺が見ているように言っているが、これは後で録画された動画をスロー再生して分かった状況で、この時の俺は、雫さんがすみれさんの元に行ったと思ったら、また後ろにいるとしか認識できなかった。
「あなた……それじゃ遅いわよ」
――パリ……パリンッ。すみれさんのセリフが終わると同時に雫さんの胸にあったお皿が粉々になっていく。その皿の裏にあったボタンも粉々になって、胸元だけ開く。一度突いただけであそこまではならないだろう。
「――三突き」
「…………」
「あなたが後ろに下がるまでに私は三回、あなたに攻撃したわ」
三回も! あの一瞬の間に。
「…………」
「黙ってないで、なんか言ったらどうなの? 焦ってるのはわかってるのよ」
あれが女と女との戦い。男では到底敵わない世界。
「雫は無口なの。だから答えないわ」
俺の横から颯爽と現れた、この戦いを始めた女性、瀬戸成海がいた。
「雫、そこまで行ったら届かないわよ」
「…………」
二人は見つめ合い、瀬戸さんは頭に手を載せて、
「わかったわよ、次は気をつけなさい。そして雫――私も手伝うわ」
一瞬俺と目があったが、道端に落ちてる石ころを見るかのような目で見られた。その後すみれさんの方に目をやった。
「さすが透眼の冷女ね、雫一人じゃ無理がありそうね」
そう言いながら、彼女は太ももから彼女の武器を取り出す。ジャリジャリと不気味な音を立てながら。俺はその武器に見覚えがある。
「鎖鎌だと……」
鎖鎌、武芸十八般の一つで、刀を持てなかった身分の人が使った武器。だけど瀬戸さんが持ってる鎖鎌は少し違った。
(鎖分銅がついてない)
一般的な鎖鎌は鎖の先に鎖分銅がついており、それを使って敵の動きを封じ込める役割を持っているのだが、瀬戸さんの鎖鎌は左右の鎌が一本の鎖で繋がっていた。もちろん刃は丸くなっていて、殺す力はないだろうが、傷は保証はできなそうである。
「雫、私のサポートしなさい」
雫さんはうなずいて、瀬戸さんの後ろに回る。
「二人で私を倒す……妥当の案ね」
すみれさんは髪を撫でながら、二人を見る。
時間が少し流れたのだろうか、三人は動こうとしない。俺の体も未だに言うことを聞かない。
「行くわよ、雫」
瀬戸さんのこの号令で、三人の戦いは始まった。
最初に動いたのは瀬戸さん。左手にあった鎖鎌をすみれさん目がけて投げる。その投げた鎖鎌は不気味な音を奏でながら、一直線にすみれさんの腕に絡みつこうとしている。
同時に雫さんも全力疾走で、すみれさんのもとに襲いかかる。
「そんな速さじゃ、私は捕まらないわ」
すみれさんは鎌を避け、鎌はそのまま通過した。鎌に繋がっている鎖がすみれさんの左腕の所を通過する時、すみれさんは少し微笑んだ――とても邪悪な微笑みで。
! すみれさんの目を見て、何かを感じたのか、瀬戸さんは急いで投げた鎌を自分の元に戻すように引っ張る。
「だから遅いって言ってるでしょ」
すみれさんは鎖を強く握り、思いっきり引っ張る。
「く!……」
瀬戸さんはすみれさんに引っ張られた事により、すみれさんの元に吸い込まれていく、その途中で雫さんと激突し、雫さんは倒れこむ。
「あなたの考えは中々よかったけど、それじゃ――私は倒せないわ」
そう断言し、すみれさんのレイピアの射程圏に入った所で、瀬戸さんの突きが炸裂した。
レイピアは見事に瀬戸さんの胸の皿に命中した。だがすみれさんはそれだけでは終わらせなかった。
今度はすみれさん自身が動き、瀬戸さんの目の前に行き、鎖が巻きついてる左腕で思いっきりアッパーをきめた。
瀬戸さんの体は宙に浮く。すみれさんはさらにジャンプして、膝蹴りを腹に喰らわせる。
「そろそろトドメよ」
宙に浮いたまま、すみれさんは膝蹴りを喰らわせた同じ場所に、レイピアで突いた。彼女を無理やり地面にたたき落とす形で。その時自分も巻き込まれないように、巻いていた鎖を解く。
「くはぁ!」
ガードできずに全て直撃を喰らった瀬戸さんはそのまま落下。その落下点には倒れこんだ雫さんがいた。
瀬戸さんは気付かぬまま、落下。雫さんを巻き込んで床に落ちた。
「あ、肩のお皿割るの忘れてたわ」
着地して気付いたのか、後悔してるように俺の目では見えた。
あれが氷原すみれ、透眼の冷女。
圧倒的な力で他の者を屈させるを持つ力、見た目からは判断不可能。あれほどの力を振ってるすみれさんもすごいが、あの力を与えているAWはいったい何なのだろうか。
その後は一方的だった。二人で相手しても、軽くかわされて反撃を喰らう。これの繰り返しだった。
周りにいるクラスメイト・先生・そして俺自身もあの力に驚き、ただ茫然と眺めていた。
味方でもあの強さには恐れてしまう。だが反対に俺には、彼女自身が壊れていく様にも見える。自分を壊して強くなっているすみれさん。彼女は一体何者だろう。
「超女があそこまで強いなんて……計算外だったわ」
苦戦している瀬戸さんの文句が聞こえた。
「超女?」
俺が初めて聞いた単語についつい反応したのが間違いだった。その声を聞き逃さなかった瀬戸さんが俺を見て、面白い事を思いついた時のような顔をした。
「あなた、氷原さんの執事よね」
すみれさんの方を見ると、少し慌てた顔をしてこっちに近づいてくる。
「雫、できるだけ足止めして」
頷くと雫さんは瀬戸さんに言われた通りに、すみれさんの前に立ちふさがる。
「邪魔よ。さっさと失せなさい」
「…………」
「私に勝てると思うの?」
この戦場の玉座に座る者が、道を阻む者に訊いていた。
「……ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ は言った」
「遠くにいると恐怖を感じるが、近くに迫ると、それほどでもない、と」
勝てないと理解しながらも挑発する雫さん。
「ふぅ~ん――交渉決別ね。なら倒していくまでよ」
すみれさんと雫さんの一対一の戦いが始まる。と言っても、雫さんから攻撃しにはいかず、避けるだけ。時間稼ぎなのだろうか。
「あなた彼女の事あまり知らないようね」
心理的な攻撃なのだろうか、それとも情報が欲しいのか。どちらにしても口は割らない。そう決意しながら、逆刃刀を杖代わりにして何とか立つ。刀は自分の魂、こんな事してはいけないが、そんな綺麗事を戦場では言えない。
「…………」
「黙っててもわかるのよ、あなたの考えてる事。私の能力でね」
(能力?)
「私ね、人の考えてる事を読み取ることができるの」
「え? エスパー?」
瀬戸さんは超能力全般の持ち主なのか!? SFの世界でしか存在してないと思っていたのに。俺は戦場で驚いてしまった。
「そんなに動揺する事なのかしら。AWの進化でいい方向に進化すると、女性は人間が持つ、眠ってる微かな能力を目覚めさせ、そしてそれを増幅することが可能になるの」
男子専門学校時代には教えてもらわなかった事、女性は知っていて、男性が知らない一つの真実。AWの力は人間の細胞を進化させるだけの物体ではなかったのか。
「だけど、全ての女性がなれるわけではないわ。さらに能力の種類も強さもなってからじゃないと不明」
AWは人の枠を超えさせる能力を与える物質だったのか。
「そして能力を手に入れた者でも、人間離れした力を手に入れた者を私たちは〈超女〉と呼んでいるわ。世界に十人しかいないって話よ」
「話の途中で悪いけど、黙ってもらおうかしら」
瀬戸さんの後ろには険しい顔をしたすみれさんが、一歩一歩近づいてきた。その後ろには倒れている雫さんの姿があった。
「そしてあそこにいる、氷原すみれも」
「黙ってと言ったのが、聞こえなかったかしら!」
すみれさんは今まで以上のスピードで踏み込み、突っ込んでくる。
突っ込んでくるすみれさんを見ながら、俺は襟を引っ張られ、彼女の前に立たされた。
「自分の執事を傷つけるつもりかしら~?」
左手で俺の襟を掴み、右手に持ってる鎖鎌で俺の胸の皿に標準を合わせる。
それを見たすみれさんは、右足を床につけ、強制的に勢いを無くし、停止する。
「あなた、中々外道な事するわね」
「勝負に外道なんて存在しないわよ」
瀬戸さんは笑っていた――人に絶望を与える時に生じる笑み。
「そんなに面白い事でもあるの?」
その笑みを見たすみれさんが訊く。
「あなたなら、私の考えは分かってると思ってるのですが……なるほど動揺してうまく使えてないのですね」
瀬戸さんはうまい話でも見つけたらしく、さっきより大きな声でしゃべり始める。
「あなたに教えてあげる! そこにいる氷原すみれはね! この学校の理事長、氷原流水のたった一人の孫娘であり! 世界に十人ぐらいしかいない〈超女〉のひとりでもあり!」
彼女は統戦の中での一番の笑みで言い放った。
「そして、自分の友達ーーそして家族を破壊した女でもあるのよ!!」
――ザワザワ!!
周りにいたクラスメイトも今の話を聞いて、平常心も保てないのだろう。
「女は化け物か……」
佐多は瀬戸さんの取った行動に恐れていた。
「何で瀬戸さんがあんな情報を」
斬坂先生も少しパニック状態になってるのが見て取れる。
こんな状況を作り上げた本人は言って満足したのか、声に出ないぐらい笑っていた。
そしてすみれさんに目をやって、俺は目を疑った――すみれさんの瞳から光が失われているのだ。
こんにちは、りょーすけです。
この前今シーズン最後のスキー旅行に行ってきました。しばらくできないと思うとさびしいばかりです。
お話の方に行くと、ついに最悪の形でありますが、すみれさんの正体が判明! 刀破もこんな形で知るとは思ってなかったでしょう。
次回すみれさんの過去が少し明らかに! そんな時刀破はとある人物と出会う。