16話 初疑問
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「いや~来てくれて嬉しいよ」
今俺と雲雀がいるのは校舎の屋上の庭。そして写真部の部長である鏡原香佑さんと、その部の部員の数人とお昼ご飯を食べている。
「いえいえ、こちらこそ」
俺も来る途中で購買部で買ったカレーパンを飲み込んでから、それらしい言葉で返答する。
俺と雲雀は昨日この写真部に入部したのだ。俺は雲雀の気持ちに負けて、入部したんだけどね。だからと言って、中途半端でやろうとは思わない。昔から一度やると決めた事はトコトンやる方だ。
「まだ、一年生で入部が決まったのは君たちだけど、これからもどんどん増やしたいね」
香佑さんが意気揚々に喋りながら、自分で持って来たらしい弁当を食べている。
「そぅですね。僕もそっちの方が嬉しいです」
雲雀も手作り満載のお弁当を食べている。周りの部員の人のも、よくよく見ると手作りの弁当が多い。
(俺も次は弁当にしようかな)
確かにここ最近は家庭的男子、通称カテ男と呼ばれている男子が増えていると聞いてはいたが、周りにこんなにいたとは、(周りに合わせる)日本人によくある事が俺にも発生した瞬間だった。
「先輩は今何年生なんですか?」
「僕はね、二年生でね。この部活もできてまだ二年なんだ」
「って事は先輩がこの部活を創部させたんですか!」
「先生とかを説得させるのがなかなか大変だったけど、なんとかそこは努力で勝利をもぎ取ったんだ」
この先輩見た目以上にタフな人なのかもしれない。
「成川君と志木君たちとは、これから楽しくやっていきたいしね」
「はい。こっちこそこれからよろしくお願いします」
「――はぁ、やっぱ後輩っていいなぁ~」
先輩は少し声を弾ませながら、ケータイを取り出した。
「君たちのメルアド教えてくれる?」
「はい、今準備します」
俺と雲雀はお互いケータイを取り出して、先輩と赤外線でプロフィールを送信した。
「そういえば僕、刀破君のメアド知らないや」
「そういえばそうだったな」
そんな感じで、雲雀と香佑さんのメールアドレスを手に入れた。ついでに言うとこの学校に入ってから、初めて手に入れた友達のメールアドレスだった。
「じゃあ、また今度集まる時にメールするから」
「「お願いします」」
部長と別れて、俺たち二人は階段を下りていた。
「ぃい部活生活送れそうだね」
「そうだな~」
三階からニ階に降りようとした時、視界の隅に人影があった。ふとそちらを見ると、見覚えのある人が廊下の窓から何かを眺めていた。だが背中からはあの人には似合わない悲しみというか、諦めを感じさせる。
「雲雀、俺ちょっと教室に忘れ物しちまったわ。先に外で待っててくれるか」
「ぅん。わかったよ」
雲雀はそのまま階段を下りて行く。それを見終わった俺はその人物の所に足を運ぶ。
「どうしたんですか? すみれさん」
俺の声が聞こえたのが意外だったのか、すみれさんは俺が思ってた以上に驚いた顔をした。
「――! 何でこんな時間にあなたはいるのかしら?」
「そのお言葉そのまま返しますよ」
「気持ちが周りから感じられなかったのに……」
小さな声だったから何を言ったかはわからなかったが、すみれさんはそんな事を言う俺の目を見て、少しため息まじりながら、
「――空を見てたのよ」
「空を?」
俺も空を見る。そこには雲が少しありながらも、なかなか綺麗な青空だった。
「私は青空が好きだわ。あれほど透き通ってどこまでも続いてる。ありそうでなかなか存在しないわ」
すみれさんの哲学的なな発言を俺は黙って聞く。
「人の心もあんなにきれいに透き通っていればいいのに……私の両親もそうだったら」
少し声が悲しい声になりながらも、最後はまた小声で聞き取れなかった。
「でも誰にも秘密って一つや二つあると思いますよ」
人間は他人に秘密をすべてさらけ出すなんてできっこない。そうでなければ「秘密」という言葉は生まれなかっただろう。
「……それもそうね。それが普通よね」
すみれさんは空を見ながら、ぽつりと呟いた。そんなすみれさんを見て一つの質問が頭に浮かんだ。
「話変わりますけど、何ですみれさんクラス代表に立候補したんですか?」
「ホント話変わったわね」
すみれさんは半ばあきれながらも、再度空を眺めながら答えてくれた。
「――義務だからよ、私にとっての」
「? 義務?」
義務ってまたすごい言い方だな。
「いつだって私はそうでなければいけないのよ。入学した時から覚悟してたわ」
ただならぬ決意を持った声で言うすみれさん。彼女はいったいどんな人生を歩んできたんだろう。俺は少し気になった。
「だから、クラス代表に立候補に出るなんて当然の事。そして当選するのも当然の事よ」
口ではそんな強気な発言しているが、横顔からはそれを感じられない。
「そうなんですか。でも明日決めるって突然過ぎですよね」
俺はひそかにその事を思ってたことなのだ。まだクラスのみんなの名前と顔がまだ一致してないのに、こんな重要な事を決めるのに疑問を持っていた。
「それがこの学校の伝統よ」
「伝統?」
「一クラスに数人ずつ中学の時に優秀だった人が分けられているの。だからある程度、別の学校の人でも名前が知られているものなのよ」
女子の学校って頭いい人ならそんな風に有名になれるのか、いい意味で。俺なんて特に何にもしてないのに、不良関係の奴らから悪い意味で有名になってたらしいからな。
「名前もまだよくわからないこの時期。票を入れるなら、一日でできた友人か、聞いた事のある有名人のニ択」
確かにこの短期間(一日)だけで決めるなら、それしかないだろう。
「ってことはすみれさんも、中学の時有名だったんですか」
「成績もよかったから、自然と噂になってたわ」
「すごいですね」
自分で断言できるくらい自信があるなら、中学時代は相当有名だったのだろう。
「でも少し予想外だったわ」
「何がですか?」
「私以外に立候補する人がいたなんて」
「もう一人そういえばいましたね。あのバカは除いて」
あのバカ紳士は単に目立ちたいだけだろうからな、立候補者から消してもいい。
「瀬戸成海……だったかしらね」
入学式当日に先生に口で挑戦して、見事に返り討ちにあったあの人か。
「まぁ、どちらにしても私がクラス委員長になる運命は変わらないわ」
なんてすんばらしき自信なんだろう。どこから湧き出てくるか教えてもらいたい。
「だから、あなたは私に票を入れなさい。私の執事として当然だけど、一応」
「ええ!? ――まぁいいですけど」
瀬戸さんの事は全然知らないし、あいつは当選する率皆無だしな。俺は一応承諾した。
「よろしい。私はそろそろ帰るけど、あなたも帰るんでしょ」
俺が返答する前に、彼女の手から俺に向けて、あの重たいバッグが飛んできた。そして俺は思わず反応してしまい、キャッチする。
「さっさと帰るわよ」
すみれさんは窓を閉め、さっさと歩いて階段に向かって行ってしまった。
立候補した三人、氷原すみれ・佐多陽一・瀬戸成海。佐多は、気軽で話しやすい男だが、○○紳士で、瀬戸さんとは会話をした事すらないので、人柄もよくわからない。
だが実は俺の中で一番わからないのは、俺の主人? である氷原すみれだ。彗星のように突然俺を助けるために蹴りを決め、突然初対面の俺を護衛執事にしたのは彼女。そして俺が彼女の頼み? を否定したら、いきなり悲しい顔をしながら襲われた。
少々正確には難なりとは思ってたが、会話しやすい人だと思ってた。
だが俺が離れた校内では違った。俺が見る限りでは誰とも会話してないのだ。もっと言うと、会話しようとせず、それどころか自らしないようにしてるようだ。周りもそれに望んでるかのように、誰も声をかけない。
氷原すみれ――この学校に入学して、初めて会話した女性・俺を護衛執事にした女性、そして謎に包まれた女性。一体彼女は何者なんだろうか。
こんなことを頭で考えながら、すみれさんと帰ってたら、何故かすみれさんから帰りの門に行くまで、冷たい視線を感じながら帰ったのであった。
――だがその疑問は翌日に晴れる事は、俺はこの時は知らなかった。誰も望まなかったような形で言われるとは、ただ一人を除いて誰も知らなかった。
こんにちは、希光リョースケです。
体調など悪くしたせいで、更新遅くなった事申し訳ありません。
これからは隊長を万全とし、執筆に臨む所存なのでよろしくお願いします。
次回クラス代表の結果が明らかに!? そして彼女がとった行動とは
ではまた次回でお会いしましょう