15話 初選択
「お前も半分で交代してこげよ」
「えぇー、刀破それはねえぜ」
「なら、今すぐ降ろしてやろうか?」
チェ~とぶつぶつ文句も言いながらも、俺と佐多で前後を交代させた。
「昨日この辺りで騒ぎがあったらしいな。自転車と車がぶつかりそうになったって」
! それって昨日の俺の事じゃね?
「その自転車は謎の女性に蹴られて助かったとか。あくまで噂で聞いただけだがな」
それは噂でなくノンフィクションだぜ、佐多。何せその自転車に乗ってた張本人がすぐ後ろにいるんだから。
「――へぇ~そんなことあったんだ」
だがホントの事言わない。軽く口走ったりしたら、まだみんなとも仲良くないが「自転車で車に轢かれそうになったバカ」などというレッテルを貼られてしまう恐れがある。だから知らない人のふりをさせてもらった。
一定の距離で交代しながら、俺がこいでいる時に第一の校門に到着した。そこに見覚えのある人影があった。
「あ、すみれさんだ」
昨日俺を車から半ば強引な助け方で、救助してくれたのだが彼女。その後、半ば強引的に俺を護衛執事にしたのも彼女である。
「おはようございます。すみれさん」
朝の定番の挨拶ですみれさんに挨拶する。
「遅いわ。執事が主人より遅いなんて前代未聞だわ」
冷えた草履を懐に入れて温めておいたことなどで、織田信長を喜ばせたという話で有名な木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)ですらどう対処すればいいか、わからない挨拶である。
「いつもよりは早く出たつもりだったんですけど……」
「私より早く来なければ意味ないのよ」
だめだ。やはりこの人にいい訳しても、勝ち目がなさそうだ。第一待ち合わせなんかしてたっけ?
「後ろにいる奴と口喋ってたら、遅くなりまして」
「後ろ? 誰いないように見えるけど。あなたには幻覚が見えるの?」
彼女の言うように後ろには誰もいなかった。その代わりに、彼女の後ろをコソコソと通り過ぎる奴に見覚えがあった。さっきまで俺の後ろにいたはずの佐多だった。あの野郎、いつの間にあんな所に。俺は呼びとめようと思ったが、目の前にいるすみれさんが、それをさせてくれない。
「今回は許してあげるわ。次やったら罰ゲームよ」
今回は見逃してくれないの? 一瞬そう思ったが、心の奥に留めさせて、
「わかりました。明日からは気をつけます」
「よろしい。ついでに後ろに乗せてちょうだい」
「了解です」
男はホント肩身狭いな。そんな現実をこの身で体感しながら、すみれさんと共に学校に入って行く。
昨日と同じ道をこぎながら、俺たち特選科の入口である石碑に向かう。
「早くしないと遅刻しそうだわ」
「今日は大丈夫ですよ、すみれさん」
「ち・こ・く、しそうだわ」
なんとなく「早くこげ」と言いたいのだろう。
「わかりました」
俺は少しこぐスピードを上げる。
「その調子で頑張りなさい」
すみれさんも納得してくれたっぽいご様子、そのまま石碑の所に到着した。
すみれさんは自転車から降りて、俺たちの校舎に行くための石碑の前で、あの呪文を唱えて消えて行った。
俺は心で密かで笑っていた。
(昨日のような無様な失敗はしないぜ)
昨日の俺ならまたここで困惑しているだろう。だが今日は無駄に自信がある。
早速自転車に乗りながら、すみれさんが立っていた石碑の前に行く。
石碑の前でしばらく佇み、少し緊張しながらも、意を決して、
「名は成川刀破、コードネームは双刀の双侍。この名前を知っているなら通してもらおう」
言い終わった瞬間に、例の魔法陣らしきものが出てきて俺を囲み、そして俺の視界は真白に染まっていった。
すぐに視界が晴れてきて、見えてきたのが第二の校門。どうやら無事成功したらしい。
だがここで俺は油断していて、気付かなかった事が一つだけあった。
――自転車が宙に浮いていたのである。
それに気付かなかった俺は2秒後に、こんな教訓を心に刻む事になる。油断大敵と。
「大丈夫かしら?」
すみれさんが少し憐れんだ顔で、俺に近づいてきた。
「……なんとか」
あの後、俺は自転車と共に宙に浮いていたため、ニュートンが考えだした万有引力の法則により落下。
俺は自転車にまたがっていたため、自転車が地面に着地して、その後俺が着地する順番である。その俺の着地地点に問題があった。
自転車のサドルと俺の魂が……すんごく痛かった。
「なら行くとしましょ」
まだまともに動けないが、すみれさんは前だけ見て歩いていく。少しぐらい待ってくれても……でもそんな文句も言えないので、俺も痛みに耐えながら目的地に向かう。
すみれさんは先に行ってしまったので、痛みに耐えながらゆっくりと自転車を停め、何とか教室に入る。女子率が多いために、男は何ともいにくい場所だ。そんな教室をこそこそと、できるだけ目立たないように、自分の席に座った。
「よ、刀破遅かったな」
前にいる紳士佐多が、俺に声をかけてくる。
「てめぇ~さっきは」
「いいじゃんか。空気を読んであげたんだから」
「お前どこら辺を」
俺がこれから刑事ドラマの如く尋問を開始するところで、
「――ぉはよお」
小さな声が割り込んできた。その聞き覚えのある声の方に振り向くと、昨日友達になったクラスで数少ない男子の一人、雲雀がいた。
「おはよ、ひばっち」
佐多は無理やり話を変えて、俺の尋問から逃走しやがって。でも無視するわけにもいかないし。
「おはよう。雲雀」
「うん」
雲雀が俺たちの会話に参加して、5分ぐらいして朝のホームルームを報せるチャイムが鳴った。
「おっはよー諸君」
斬坂先生の男勝りでも、女性らしい清々しさを両方兼ね備えた声が、三年E組の教室に響き渡る。
「全員いるね? 出席確認するのめんどいから、それでいいね?」
なんて先生だ。教育委員会に見つかったら大変だ。
「今日は授業もない。ただ一つの事を終わらせたら、帰れるわよ」
少し教室全体から、いい空気になってる。どんなに能力が違くても、考える事は大体同じのようだ。
(早く帰って、みんなと遊べる!)
こんな思いが、回りがらビシビシ感じる。俺の席は一番端っこだけどな。
「で、休み時間の間に、その一つの事の大体の事、作業してもらうから」
先生の持ってるファイルから、クラス人数分のプリントが出てきて、列の先頭の学生に配り始めた。
やがて俺の所にも配られて、後ろにいる雲雀にも配ってからそのプリントの内容を見る。
〈クラス代表委員長立候補意志確認表〉
(初めて見るプリントだな)
男子学校時代のクラス委員長なんてやりたくなく、先生が決めていたのに。この学校はいろいろと珍しい事するな。
――ビシビシビシ
クラス全体からさっきとは打って変わって、緊張感すら感じさせるような雰囲気だ。
キーン・コーン・カーン・コーン……
この雰囲気には似合わない、朝のホームルームを終わらせるチャイムが響いている。
「じゃあ、休み時間の間に決めといてねぇ~」
これまたこの空気に似合わないセリフを残して、先生は教室を出る。
この空気を作り上げた元凶であるプリントに、改めて目をやる。
そのプリントには、さっきの文の下に〈立候補します〉と〈立候補しません〉のどちらかに丸をしろと尋ねるプリントだった。
男の俺は参加しても、勝ち目ゼロだからやめておこう。だから俺は〈立候補しません〉に丸をした。
自分のはすぐ終わったが、周りは真剣に悩んでるようだった。
俺はこのギスギスした空気から逃れるため、後ろの席にいる雲雀に小声で話しかける。
『なぁ雲雀、みんなどうしたんだ? 様子が』
『みんなどうすか迷ってるんだろうね』
『なんで、これだけのこんなに迷うんだ?』
『ほらこの学校は大体の事は学生に任せてるだって。だから行事とかには先生たちよりも、生徒の方が権力あるらしいんだ』
『すっごいな』
『クラスの代表もこの学校、色々と他校と違うからとても強いんだ。だからみんな一年間、このクラスのリーダーになろうか悩んでるんだろうね』
なるほどそれならわからなくもない。クラス会長がそのクラスのイメージにもなるからな。
そんな新たな知識を頭に入れた時に、
キーン・コーン・カーン・コーン……
今度は休み時間を終わらす意味を示すチャイムが鳴った。
「はぁーい、じゃあ一時間目始めるわよ」
チャイムとほぼ同時に斬坂先生は現れた。チャイムなる前から廊下で待機してるんじゃないのか、あの先生。
「じゃあ、後ろから例のプリント集めてきてー」
そう言われると一番後ろの席の人たちが立って、その列の人のプリントを集めて、先生に渡していった。
「……あらら、立候補したのが三人か。意外に少ないわね」
このクラスは確か記憶はあいまいだが、三十九人いたはずだ。それが三人、十三分の一まで落ちたか。
「立候補したのは、瀬戸成海」
あの、初日に先生と口で戦ったが、負けたあの女の子か。
「氷原すみれに……」
ん!? なんだと。氷原さんが立候補したのか。
「佐多陽一ね」
「なんだとぉおー」
ついつい声に出して驚いてしまった。これが今日このクラスで俺が驚いたイベント第一位に輝いた。
「この三人の中から、明日にはクラスの代表を決めるから。誰に票を入れるか考えておいてね」
三人ではなく正確に言うとニ人だな。あれを数に入れない方がいいと思う。
そんなで、朝のホームルームで宣言してた通り、すぐにあれ以外の特に連絡も無く、帰りのホームルームをして今日の学校の授業は終わった。
「刀破、帰ろうぜ」
前にいた、クラス代表の一応立候補者の一人である佐多から誘われた。
「そうしたいんだが、用事があってな」
「そうか、じゃあ先帰ってるぜ」
「おう、また明日」
そういうなり佐多は教室から出て行った。
「刀破君、そろそろ行こぅ」
今度は小さな声の持ち主の雲雀から誘われた。
「おう」
今日は昨日の約束通り、写真部の部員の人たちと食事の約束をしていたのである。
二人で誰もいなくなった教室を出て、一番端の階段を上ろうとした時、階段の途中で声が聞こえた。
「あなたもやっぱり立候補しましたか。氷原すみれ」
「私がどうしようが私の勝手よ。呼びつけておいて用件はそれだけ?」
すみれさん? 誰と喋ってるんだ? 聞き覚えのある声だけど。
「あなた、初日はよくも笑ってくれてましたわね。どうせあなたの事だから、あの後の事を見えてたんでしょうけど」
「それも私の勝手よ」
「――まぁいいですわ。明日あなたを絶望のどん底に落としてあげますから」
「それはできないわ、あなたなんかじゃ」
その一言を聞いて、もう片方の声の人物は、俺たちの方に降りてきた。その人物とはクラス代表の立候補者の一人である、瀬戸成海だった。
見た目は冷静に保とうとしているが、その背中からは不動明王が一瞬に見えそうになった。だいぶお怒りのようだ。
「そこをどきなさい!」
俺たちは階段の端により、お怒りの不動明王を通らせる。
「何がぁったんだろ」
雲雀はあのオーラに未だ少しおびえている様子。
「……もうとっくに絶望のどん底なら見てるわよ」
どこからか、悲しい声が聞こえた。今にも泣きそうな子供のような声が階段の上から聞こえた。
「雲雀、別の階段を使おうぜ」
「? 別にいいけど」
俺は直感でこの階段を上っては行けないような気がした。特に理由はない。でも彼女からしたら今は俺とは会いたくないだろう。だからすみれさんのためにも別の階段を使うことにした。
こんにちは。希光リョースケです。
最近スキーに二回ほど行ってきました! 楽しかった~ボックスとかやって、怪我しそうになったけど楽しかった。
そんな話はさておき、今回で第一章のラストスパートかけたいと考えてます! この三年E組のクラス代表はどうなるのか!?
次回はお弁当と女性の決意のお話。では! 次のお話まで。