11話 初侵入
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あの後すみれさんは俺が契約書にハンコを押させた事に満足したらしく、
「私はまだ用事があるから、あなたは先に帰っていいわよ」
ひょんなことから本当の護衛執事にされた俺は、読んでいなかった学校の資料を読むために家に帰る事にした。
外に出るととても騒がしい。
「男の青春はここにあり! 野球部に入りませんかー!」
「これからの為に必要なスキルは料理! 料理です! だから料理部に入るんだ。損はしないよ」
「ここへ入れば、あなたの明日を自分で知る力を手に入れる事ができます。是非占い同好会へ」
様々な部活の勧誘をしている。なんか宗教の呼びかけ方をしてる部活も聞こえたような……。
この高校は全てのジャンルにおいてトップクラス。大抵の部活は都大会出場が当たり前だ。だから部活はかなり活発で、先生達も推奨しているので、訳のわからない部活・同好会も多数存在しているらしい。
「部活かぁー」
俺は少し昔の事を思い出していた。中学の時に剣道をしたかった。だけどできなかった。
「そんな暇があるなら、こっちで稽古しろ」
こんな理由で、父がそれを許してくれなかった。だから結局部活生活と学生の青春をまだ俺は体験した事がないのである。
(せっかくだしなんかやってみようかな。武術以外で)
そんな思いが出てきて、少し部活勧誘しているスペースに足を運ぶ事にした。
(それにしても多いな)
ここに来る時に通った道の両端に机と椅子がたくさん並ばれている。そんな中をプラプラ歩いていたら、
「……でも僕じゃぁ」
どっからで聞き覚えのある声が聞こえてくる。周りを見渡すと見覚えのある姿があった。
「雲雀じゃないか」
そう雲雀だった。さっき帰ったのだと思っていたが、どこかの部活の誘いを断れずに流れで椅子に座ってしまったのだろう。何の部活か気になったので、俺はこっそりと確認する。
<写真部>と手書きで書かれたポスターが見える。
「君は写真に興味あるの?」
突然後ろから声をかけられた。振り向くとそこにはメガネをかけていて、全身から優男のオーラがが出ている男がいた。
「俺あんまりそういうことがないので」
なんとか逃げようと遠回りに興味のないような発言したら、声が聞こえてしまったのか、その部活のスペースに座っていた雲雀がこっちに目をやって来た。
「あれ? 刀破君」
雲雀に気付かれた。それを見た優男の部員は、
「あの子都は知り合いなの?」
「あぁはい、同じクラスメイトです」
「そうだったのか。なら君も話だけ聞いてってよ。さぁさぁ」
この流れになってしまっては断れない。
「――はい」
先輩に背中を押されながら、椅子に座った。
「刀破君って写真に興味あるの?」
雲雀からの突然の質問。
「まぁ~少しだけ」
まったくもってやったことないけどな。
「そぅなんだ。僕もなんかやろうとしてたら、ここに流れて着いてたんだ」
おそらくあの先輩に捕まって、連れてこられたんだろう。
「まさか刀破君が写真に興味があったなんて意外だったよ」
雲雀が男っぽくないかわいい微笑みをしながら言ってきた。それを見た俺は心が癒された。
「お二人は同じクラスメイトなんだよね」
さっきの優男が、座っていた別の部員と入れ替わり、俺たちの正面にある椅子に座りながら話す。
「少し自己紹介遅れたけど、僕の名前は鏡原香佑だ。よろしく」
「一年の成川刀破です」
「ぉなじクラスメイトの志木雲雀です」
お互い自己紹介を終わらせた。
「二人は写真撮影とかしたことある?」
「俺は少しだけなら」
家族旅行とか行って、暇な時に家のを借りて撮っていた。
「僕は……やったことなぃです」
雲雀は恥ずかしそうに小声で答えている。
「そうなんだ。でも写真ってスポーツとは違って、初心者の人でも気軽にやれるんだよ。最近のデジカメでは色々な写真が撮れるんだよ」
香佑さんが何枚かの写真を見せてくれた。そこには普通の写真もあれば、モノクロ・色鉛筆画・ビネットなど色々加工された写真を見せてくれた。
俺は素直にすごいなと思った。一枚の写真なのに多くの光景を作れる事に。
「すごぃなぁ~」
雲雀も俺と同じ思いを持ってるようだ。
「こういうのも初心者でも撮れるんだよ。このカメラだとね……」
活き活きと語り始めた香佑さん。それを熱心に聞く雲雀。その後もカメラについての話が続いた。
10分後にはカメラの話が終わってたようだ。俺はというと、途中から話についていけんかった。
「写真ってすっごぃですね!」
ちゃんと全部話を聞いていた雲雀は小さな声ながらも、半興奮気味で感想を述べる。
「わかってくれるとは……僕も嬉しいよ」
香佑さんもなんか嬉しいそうだ。
「刀破君はどう思う?」
とても輝かしい目でこっちを見てくる。
「あぁ、いいと思ったよ。写真も」
俺もそれらしい返答をする。
「こんな感想いただけれるのなんて久々だよ」
香佑さんがなんか泣き始めた。
「女子なんて……グスッ……話すら聞いてくれなぁいんだぁよ」
確かにこう言うのは女子は興味なさそうだもんな。やっちゃえばすぐコツを覚えて、男子が撮れないような写真撮りそうだもんな。
「そんなことなぃ!」
雲雀らしくもない荒々しい声でその事を否定した。雲雀もすぐに正気に戻ったのか、
「ぁの……女性の人でもわかる人はぃると――思ぃます」
雲雀らしいおとなしい声で意見を述べた。それを聞いた香佑さんは泣きやんだ。
「そぅだね。わかってくれる女子がきっと来ると信じよう」
香佑さんも納得した様子だ。だけど俺は考えていた。
(どうやって抜け出そうかな)
そう俺は流れにここに座ってしまった身。なんかこのままだと嫌な予感しかしないのだ。
「それで入部する所とか決まってるの?」
始まったか。
「僕はまだ……特には」
「俺も……」
嘘ついちゃおうかなと思ったけど、できなかった。
「そうなんだ。この写真部は週一だから、他の部活に入っても気軽にできると思うよ」
やっぱり誘ってきますよね。
「週一かぁ~」
雲雀がすごい悩んでいる。
「刀破君はどうする?」
「俺はもう少し考えてみようかな」
まだ全然回ってないし、勢いだけで部活は決める物ではないだろう。
「そぅ……刀破君やるなら僕も……」
異様にしょんぼりする雲雀。この光景を見た香佑さんのメガネが太陽に反射してか、ギラッと光った。
「刀破君は中学ではどんな部活やってたの?」
「俺はやってませんでしたね」
理由ありでね。
「カメラも最初は部活のお古使えばいいからお金かからないし、先輩後輩の壁もないし気軽にやれるよ」
「だって、刀破君。気軽にやれるって」
あれ? 何で雲雀もあっち側の人間らしき発言してるの。
でも週一で、お金かからないのはいいよな。
「僕も刀破君が入部したら僕も……入ろうと思うし」
雲雀が上目遣いで俺に言う。やめてくれ『どうする~ア○フル』みたいな感じになってる。
「…………はぃろよ。気軽にやれるって言うし」
その小さな声がトドメだった。俺はもう耐えられない。そんな顔で見つめられなかったら、俺死んじゃう。
「こんな俺でいいなら」
これにより、俺と雲雀は疾水学院の写真部に入部することが決定してしまった。
「じゃあ、明日のお昼屋上で一緒に食事しよう。部員全員で」
そんなこと言いながら入部届けを渡され、香佑さんとも別れを告げて、歩いていると。
「部活……部活かぁ―」
雲雀は嬉しそうに呟いている。
「そんなに部活やりたかったのか?」
「やったことなかったからね。それにあんま……運動得意じゃなぃし」
雲雀は少し悲しい表情を見せながらも、俺の目を真正面から見て。
「刀破君も一緒に入ってくれて嬉しいよ」
なんかわからんが、雲雀の笑顔を見ると癒される。
「そうか、喜んでもらって嬉しいよ」
そんなたわいのない会話をしながら、駐輪場に行って自転車を手で押しながら歩いて思った。
(どうやってここから出るんだ?)
ここはすみれさん曰く、別校舎。ここに来た方法はあんまり考えたくないが、ワープだった。
(まさか帰りも……)
ワープ。それはとても困る事だった。
「どうしたの? 顔青いよ」
「雲雀、ここから帰る方法知ってるか?」
俺が真剣な顔で尋ねた。それを見た雲雀はというと、
――プゥ
「刀破くぅん……帰り方知らなかったのぉ――クスッ」
笑いを必死にこらえながら言ってるのだろうが、これなら大きな声で笑ってもらった方がましである。
「雲雀どうやって帰るか知ってるのか?」
「簡単だよ。だってあの門通ればいいんだから」
雲雀が指差した向こうには、水が張ったような門があった。
「よく仕組みがわからないけど、あそこを通ると家の近くにワープできるらしいよ」
そうだったのか、変な儀式みたいなのはいらないと言う訳か。
そして、俺たちは門の前まで行く。
「じゃぁ、また明日会おうね。刀破君」
手を振りながら雲雀は門の中へ入って、消えて行ってしまった。
「ふぅ~」
深呼吸を一度してから俺もその門の中に入って行った。
***
門に入った瞬間に見覚えのある光景が見えた。
「ここは……俺のアパートの隣の公園か」
そう。俺が飛ばされたのは、俺のアパートの隣にある小金公園だった。それもあんまり人目のつかない場所に飛ばされた。
もう自転車をこぐ距離でもないな。
(あれ? こんなのあれば登校もこれでいいんじゃないか?)
そんな学校に対する不満が生まれながら野川荘の敷地に入り、自転車を停めた。
そして俺の部屋204号室に入ろうとした。
(ん?)
中から物音がする。
(おいおい、こんなご時世に空き巣ですか?)
こっそりドアノブを掴んで、ドアを開けた。どうやらピッキングして、侵入したようだ。なんて古い技を使う奴なんだ。
こっそり玄関に入り、そばにあった靴ベラを持って音のする部屋に近づく。まぁ俺の部屋は一部屋しかないけどな。
キッチンを抜け、問題の部屋のドアの前に立った。
(ふぅ~……よし!)
「何者だ!」
勢いよくドアを開けて、侵入者に向けて靴ベラで威嚇する。
「ありぃ~? 刀破早かったわね」
俺のベットの上で、俺が大切に取って置いたポッキーを食べてる女性がいた。少しも俺のしてる事に驚いていない。逆に俺が驚いていた。
「何でこんな所にいるんだ?」
――姉さん。
そう俺の部屋に不法侵入したのは紛れもなく俺の姉、成川姫矢だった。
こんにちは、希光リョースケです。
今回は最後に姉を登場させました。もっと早く出す予定だったんですが、うまくいかず(笑)
もう少しでテストも終わる。小説書きまくりだぁー。
こんなで次回は姉とのお話。
読んでいただきありがとうございました。