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双星戦譚ーー転生した私に、最強ヒロイン以外はありえない――  作者: 吹雪やよい


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生まれ変わり

16:00。


掃除終了のチャイムが鳴る。


その音を聞くと、荷物をまとめて学校を飛び出した。


伊月《いづき》 莉冬《りと》。高校2年生で17歳。


生粋の漫画・アニメオタクだ。


漫画にハマったのは小学2年生の時。


当時片思いしていた男の子が、漫画を貸してくれたのがきっかけだ。


彼がいなかったらきっとこんなにも漫画とアニメをこよなく愛する少女にはなっていなかっただろう。


基本的にはどんなジャンルでも大好きだ。


バトルや異世界系は勿論、サスペンス、タイムリープ、学園系、恋愛、ミステリー。


だが、そんな彼女が、特に愛してやまないジャンルがある。


それは、「最強ヒロイン」が出てくる戦闘ものである。


莉冬は、強くてかっこいい少女に憧れを抱いていた。


それは、漫画を好きになるよりもずっと前から今日まで変わることはなかった。


そのおかげなのだろうか。


彼女自身も周りの目を気にせず、己の道を貫く人間になっていた。


だがそれは別の問題を生み出してしまう原因でもあった。


莉冬はいじめを受けていた。


中学生の頃から。


高校に入れば、少しはマシになると思っていた。


だがそれは間違いだった。


なんと高校入学の初日から、またいじめられ始めたのだ!


世の中には、他人の好きなものを馬鹿にし否定する人間が沢山いる。


不幸なことに、彼女はそういう奴の餌食になってしまったのだ。


なんとも理解し難かった。


他人のことを、なぜそこまで罵倒できるのか。


そういう人間が、彼女は大嫌いだった。


だからこそ、絶対に自分を曲げるわけにはいかない。


そのために今日もこうやって生きていくのだ。


いま爆速で走っているのも、今日から発売の大好きな漫画の最新刊を手に入れるためである。


しかもこの新刊をアニメイト本店で購入すれば、推しのアクスタが手に入るのだ!!


ほとんど1人でしか行ったことがない、見覚えのあるコンビニの先の角を曲がる。


その向こうには、駅!


ここから池袋駅まで行けば、アニメイト本店に辿り着くのだ!!


ダッシュで改札を抜けると、山手線に飛び乗る。


普段からこうすれば、おそらく体育祭の英雄は確定だろう。


だがそんなことはどうでもいいのだ。


電車に揺られながら、これからのことを考える期待で胸を膨らませた。


少しするとアナウンスが流れ、池袋駅に停車した。


ホームに降り立つと、東口から飛び出して信号が青色に変わるのを待つ。


色が変わった瞬間、三菱銀行とサンドラッグの間にあるサンシャイン通りを駆け抜ける。


秋の冷たい風が頬をくすぐるのが心地よかった。


16:40。


間に合う!


腕にはめた時計で時刻を確認すると、ニヤニヤと笑みが止まらなくなった。


すれ違った小太りの男が不気味そうな顔をしてこっちを見る。


だが気にしない!!


そうしてアニメイト本店に到着すると、階段で一気に2階に駆け上がった。


そしてお目当ての漫画を探して歩き回る。


見つけた!


今回の新刊は推しが表紙なのだ。


本を手に取り、ぎゅと胸に抱える。


だがここで終わりではない。


彼女は大切そうに本を抱えると、レジへ持っていく。


そして、店員が推しのアクスタをレジ袋へ入れるのを見た瞬間、小さくガッツポーズをする。


やった。


今日の任務を成功させた!


彼女は商品を受け取ると、ルンルンで一階まで降りる。


これから家に帰って、新刊をじっくり読んで。


そしてこのアクスタを部屋に飾って、写真を撮ってオタ活を楽しんで‥。


そう1人で浮かれながら、もと来た道を歩き出す。


外はもう、日が沈んでいた。


もうそろそろ冬になるな、そうだ、誕生日には何を買ってもらおうか?


そうわくわくしながら進んでいると、池袋駅に到着した。


改札を通り抜け、自宅の最寄駅行きの電車に乗ると袋の中身をチラリと覗き、またニヤニヤと笑った。



最寄駅の改札を出た時には、もう空は真っ暗に近くなっていた。


早く帰らないと。


そう思いながら早足で家に向かって歩き始めた。


そして橋を渡っている途中、後ろから突然背中を蹴られた。


思わず地面に手をつくと、飛んでしまった袋を急いで持ち上げる。


すると背後から声がした。


「おい、何やってんだよこのキモオタ女。」


聞き覚えのある声。


その声を聞くだけではらわたが煮え繰り返りそうになる。


莉冬は立ち上がると、物凄い形相をして声の主を睨んだ。


「あぁ?なんだよクソ女が。」


思いっきり怒気を孕んだ声で言った。


普段ならここまでキレたりしない。


だが、今回は別だ。


その反応が癪に触ったのか、声の主である神崎《かんざき》 絢華《あやか》が今度は莉冬を睨みつけた。


その美しい顔が醜く歪む。


神崎 絢華ーー。

莉冬を高1の頃から虐めている一軍女子。

おまけにその容姿のせいでモテるため、馬鹿な男たちまで彼女の見方をして莉冬を馬鹿にするのだ。


そして彼女は莉冬に掴みかかってくる。


「おい、テメェ何生意気なこと言ってんだよ!お前みたいなのが私に歯向かうなんて、んなこと許されるわけねぇだろうが!」


思いっきり怒鳴りつけてくる。


だが莉冬も負けない。


「うっせえよ。顔しか取り柄のないクソ人間。テメェみたいなのに私が負けるわけねえだろ!」


そう言ってお互いに揉み合いになる。


しかしその最中、彼女の大切な新刊が手を離れ、宙を舞った。


そして、あっ!と声を上げるまもなく、橋の下に落ち、川に流されていく。


「てっめぇ!何しやがんだよ!」


そう言って思いっきり飛びかかると、神崎はバランスを崩し、体がぐらりと傾いた。


本来なら、この女だけが落っこちるはずだった。


だが、神崎はニヤリといつも以上に意地の悪い笑みを浮かべると、莉冬の体を引き摺り込む。


欄干を掴もうとした。


だがその手は虚しく宙を掴むと、一瞬にして視界が反転した。


さっきまで歩いていた橋が遠ざかってゆく。


そして体に物凄い衝撃を受けると、意識を失った。




「‥ラ。‥‥イラ!…エイラ!」


誰かが自分を呼んでいる気配がし、莉冬は目を覚ました。


起きなければ!そう思い上半身をガバッと起こす。


だが、その瞬間背中が軋むように痛んだ。


下に目を落とすと、地面には藁が敷いてある。


背中が痛いのはこれのせいらしい。


自分は確か、あの女のせいで死んだはずじゃ…そう思っていると、ふと白髪碧眼の美少女が鏡に映っていた。


綺麗な子だな、と思いながら自分の頭をガシガシ掻くと、鏡のなかの少女も同じことをしていた。


ふとおかしくなり笑うと、その少女も笑っている。


いや、待て待て。


そんなことがあるわけがない。


そう思いながらも自分の顔をペタペタ触ると明らかにおかしいことに気がついた。


私の鼻はこんなに高くない。


それにまつ毛だってこんなに長くないし、銀色でもない。


また鏡を見ると中の人物も、同じことをしていた。


途端に莉冬は笑い始めた。


おかしい。


そんなことがあるわけないだろう。


すると、小屋のドアが開き、鋭い目つきで白髪をお団子にした中年女性が部屋へ入ってくる。


「エイラ・ブランシュ。早く起きろ。もう訓練が始まる5分前だぞ。」


「いや、私は伊月 莉…」


そこまで言って、急に吐き気が襲ってくる。


知らない言葉を話していた。


自分も、あの女も。


勝手に口から飛び出してくるのだ。


何も考えずとも。 


どういうことなのだ。


だが、こうなれば考えられることは一つしかなかった。


『生まれ変わり』すなわち『転生』


そんな馬鹿な。


ありえない。


しかし、この現実を受け止めるなら、それしかなかった。



「ははっっっっ…生まれ変わったとか、ありえないでしょ。」


ぽたり、と一粒の雫が、太腿を濡らした。


この足だって、前よりずっと白い。


現実を受け止めるなんて無理だ。


どうやって信じろというのだ。


でも…


莉冬、いや、エイラは涙をグッと拭うと立ち上がる。


必ず生き抜いてやる。


そして、今度こそ必ず最強のヒロインになる!




















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