掌編【エコーチェンバー】
男はペットショップでオウムを買った。家に帰り新品の鳥籠に入れて餌をやった。
警戒しているのかすぐには餌を食べようとはしなかったが、翌朝には餌箱は空になっていた。
このオウムは元々アリガトとヤッチャッタネだけは真似られるようで、新しい生活に慣れてくると餌をあげる度にアリガトと鳴くようになった。
餌をやるとただ一言だけアリガトと鳴く。それがまるで人の言葉を分かっているように見えた。
男は次第に仕事の愚痴や同僚の噂なんかをオウムに話すのが日課になった。時々オウムがヤッチャッタネと喋るようになった。
それが話を盛り上げるのでどんどん楽しくなっていった。いつしかオウムは家族のような存在になっていた。
ある日、男に一本の電話が掛かってきた。実家の祖母からだった。
男の母親が倒れて既に息はないということだった。
男は母子家庭だった。学生時代はかなりの迷惑をかけたが、家を出てからもう5年は会っていなかった。
少ないけれど金だけ送っていればいいと思っていた。
金さえ返しておけば、恩はいつでも返せると思っていた。
いつしか電話は切れていたが、しばらく耳に当てたまま項垂れていた。
どうすればいいかわからなかった。
男が顔を上げるとオウムがこちらを見つめていた。
オウムはヤッチャッタネと鳴いた。




