神を試す者と、天界の面倒
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「ねえ、ほんとに神様っていると思う?」
放課後の教室。窓の外は夕暮れの赤に染まっていた。
翔太は、退屈そうにペンを回しながら言った。
友人のタケルが答える。
「うーん、いても見えないし、お願いしても何も起きないしな。俺は信じてない」
翔太はふっと笑った。
「じゃあ、試してみようぜ。神様をさ」
彼は、机の上に手を組み、冗談めかして目を閉じた。
「神様、もし本当にいるならさ、今から10秒以内に“俺の願い”叶えてよ。
そうしたら信じてやる。……お願い、彼女ができますように」
タケルは笑った。「それ、即効性ある願いじゃないだろ」
「いいんだよ、要は**“反応”**があれば。なんでもいい」
==天界==
「神様、もし本当にいるなら……今から10秒以内に、俺の願いを叶えてよ。
そしたら信じてやるからさ。——お願い、彼女ができますように」
だがその声は、ちゃんと天界に届いていた。
【天界・祈願管理課】
「……あ〜来ました来ました、また“試されてる”系の祈りです」
担当の天使リーヴは、書類を片手に頭を抱えた。
「“信じてやる”って何様なの。こっちは信じてほしくて仕事してるわけじゃないんだけど」
隣の天使グロウはのんびりとお茶をすすって言った。
「どうする? 一応“観察モード”にして様子見る?」
「いやでも、前回“雷鳴らしてやれ”ってやったら、避雷針に落ちてPTAから苦情来たし……」
「じゃあ今回は“ちょっと揺らす”くらいにしとく?」
「そのくらいで——」
ボフッ。
天の書類フォルダに、「彼女ほしい祈願(10秒限定)」が自動処理される。
自動割り当てタグ:【傲慢】【軽率】【試験的信仰】
==地上==
翔太は時計を見た。
10、9、8——
だが、教室はただ静かだった。
「ほらな」
0を過ぎたとき、翔太は立ち上がって言った。
「やっぱりいないんだよ、神様なんてさ」
……その瞬間だった。
グラッ……と、床が揺れた。
まるで、校舎そのものが呼吸したような、不気味な揺れだった。
「……え? なに?」
机がカタカタと震え出し、ロッカーが音を立てて倒れた。
窓の外の空が、ほんの一瞬、赤から墨色のような黒に染まった。
「地震!? 嘘だろ!?」
教室の天井に、パキッと亀裂が走る。
誰かの悲鳴。翔太の顔から血の気が引いていく。
「ちょ……ちょっと待って。違う、これ違う……! 冗談だったんだって!」
揺れは1分ほどで収まり、建物に大きな被害はなかった。
だが、翔太は、それから一言も口をきかなかった。
==天界==
グラグラグラ……
天界の「ちょっと揺らす」が、思ったより大きく出た。
【天界・地震担当神:ナマズの大長老】
「……わしのヒゲが反応したぞ」
「地震起きたね、思ったよりガチで」
「10秒で願い叶えろとか言うからじゃ」
「いやでも、信じるって言ったじゃないですか、彼」
「信じるとは言った。が、礼を欠いた。それが問題じゃな」
翌日、祈願管理課では“地震になってしまった件”がちょっとした騒ぎに。
「だから言ったじゃないですか、軽く風でよかったのに!」
「だって10秒って急かすから……揺れくらいがインパクトあって誠実かなって……」
「次から**“神を試す祈願”は冷却期間1週間**にしましょうね!」
==地上==
数日後。翔太の部屋にて。
タケルが見舞いに行くと、翔太は窓のない部屋でひとり膝を抱えていた。
「……見たんだ」
「何を?」
翔太は、ゆっくり顔を上げて言った。
「揺れてる間、教室の黒板に……**“見ている”**って、書かれてたんだよ」
「誰が?」
翔太は震えた声で答えた。
「神様が。」
■あとがき
神様は、決して“試される”存在ではないのかもしれません。
それでも、人は無垢な好奇心や、退屈のはけ口に“信仰”を使ってしまうことがある。
ただ、もしそれに何かが応えたとしたら……
それは果たして「神」なのか、あるいは……?
——祈るとき、願うとき。
どうか、本気の敬意を忘れないでください。
神は時に、声ではなく現象で返事をするのですから。