神様、どの言語がおわかりで?
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朝の神棚。
ひとりの日本人女性が、深く手を合わせた。
「神様……どうか、私を幸せにしてください……」
神様は、その声を確かに受け取った。
——が、
どこか遠くのロンドンでは、別の人が祈っていた。
「Dear God... please bless me with happiness.」
そしてパリでは、フランス人の老婦人が静かにつぶやく。
「Mon Dieu… rendez-moi heureuse, s'il vous plaît.」
——さて問題です。
神様は、いったいどの言語が得意なのか?
天界、神々の会議室。
“祈り翻訳局”の職員たちが、世界中の祈りデータを前に頭を抱えていた。
「最近の日本語、難しいんですよ。“バチクソ幸せにして”とか“尊い日々ください”とか……。翻訳が不可能に近い!」
「英語の“bless me”も幅が広すぎる! 恋愛か健康か、金か友情か!?」
「フランス語は……ああ、もう全部“情緒”で来るからこっちが泣くんですよ!」
そこへ神様が現れた。
全知全能・翻訳無双・時間感覚ふわふわ系の、あの神様である。
「ん〜? なんだい、みんな。言葉に困ってるのかい?」
「はい神様、人間たちの“幸せにしてください”が言語によって意味がバラバラすぎて……」
神様は、ふっと笑って言った。
「それ、音じゃないよ」
「え?」
「人間の“お願い”は、音じゃなくて**“感じ”で来る**んだよ。心の響きで。言語はただのラッピング」
天使のひとりが、興味深そうに訊いた。
「では、心がこもっていない“超美しい英語”と、どもってボソボソした“真剣なお願い”があったら……どちらを叶えますか?」
神様はちょっと考えて、こう答えた。
「どっちも、翻訳するよ。でも、心が震えてる方は自動的に優先される」
「……心の震え?」
「うん。涙の温度、声の揺れ、言葉の途中の沈黙。その“無音の語”こそ、私にとっての母国語だ」
つまり——
・英語でも、
・フランス語でも、
・関西弁でも、
・推しのライブで叫んだ“しんどい!”でも、
本当に心からの願いなら、神様には伝わるらしい。
ただし。
神様の方もたまに「それどういう意味?」と困惑することがあるらしい。
天界にて。
「神様、これは?」
「“うちらの尊みが爆発して宇宙になりました”……??? ああ、これはたぶん幸せってことだね」
「たぶん、って……!」
■あとがき
言葉は大切。けれど、言葉だけでは足りないこともある。
神様が聞いているのは“意味”ではなく、“祈りの振動”かもしれません。
翻訳不要の言語——それは、
涙と願いと、ちょっとした諦めのにじんだ声。
神様はたぶん、
あなたの「うまく言えない願い」も、ちゃんと読んでいます。