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アフターストーリー①『あの日、何が壊れたのか』



岸田ユウは、最後のメッセージを送ったあと、スマホを伏せた。


【……わかった。さよなら】


返事は来なかった。

画面には、既読もつかないまま時が止まっていた。


けれど、わかっていた。


(もう……終わってたんだ)


 



 


いつからだったのか。


LINEの返信が遅くなったのは、春の終わりだった。

週末の予定を聞いても、「バイトかも」「まだ未定」とだけ返ってくる。


駅で待ち合わせた日は、どこか目が合わなかった。

笑ってくれても、そこに“温度”がなかった。


でも――ユウは信じた。


みなみは、そんなに器用なタイプじゃない。

気分屋で、強がりで、でも根は優しい子だ。


(疲れてるんだ。たぶん、そう。

 俺が支えてやらなきゃ――)


 



 


思い出す。

最後のキス。


彼女の唇は、乾いていた。


触れた瞬間、彼女の目がふっと虚ろに泳いだのを、ユウは見ていた。


(……俺のこと、もう見てない)


それでも、離せなかった。


あのとき、手を繋ぎながら思った。


「ここで手を離したら、本当に失う気がする」


でも――

彼女の方から、手を離していたのだ。


 



 


あれから数日。

ユウは毎日、自分を責めた。


「もっと優しくしてたら」

「もっと早く気づけてたら」

「もっと、男らしくしていれば」


バイトも休みがちになり、食事も喉を通らなかった。


友達からの連絡も、何も返さず。

夜になると、スマホを握りしめて、未読の画面だけを見つめる。


 


――そのときだった。


「……あのさ」


学校の屋上。昼休み。

誰もいない時間を見計らってきたのは、クラスの女の子だった。


黒髪ボブに、真面目そうな眼鏡。

確か、名前は――春川はるかわ 美羽みう


同じクラスだけど、話した記憶はなかった。


「ユウくん……最近、ちょっとヤバそうだったから」


「……え、俺?」


「ごめん。変な意味じゃなくて。……でも、見てらんなかったんだ」


ユウは思わず笑った。


「俺、そんなヤバいオーラ出てた?」


「うん。正直、“捨てられた犬”みたいな顔してた」


「……あー、それは否定できないかも」


「だよね。でもさ――」


彼女は、ポケットから小さなチョコを取り出して、ユウの手に押しつけた。


「これあげる。義理とかじゃなく、栄養補給」


「……なんでこんなこと……」


「私も、去年まで似たようなことあったから。

 好きな人にフラれて、自分のこと全部否定したくなって」


「……」


「でも、そういう時こそ、人にチョコ配るくらいがちょうどいいよ。

 “あ、自分、まだ誰かに何かあげられるんだな”って思えるから」


ユウは、しばらくその言葉を噛み締めた。


(誰かに何かを、あげられる――)


(俺は、今……)


「ありがとう。なんか……救われたかも」


「ううん。私が勝手にやったことだし」


「でも、ほんとに……ちょっと、元気出た」


美羽は、静かに笑った。

彼女の笑顔は、どこか“似ていなかった”。


強がりの笑顔じゃない。

ちゃんと、自分の気持ちを込めた“優しさ”の笑顔だった。


(……俺、この子のこと、今まで見てなかったな)


 



 


その日、久しぶりにユウはしっかりご飯を食べた。

バイト先にも連絡を入れた。

授業のノートもまとめた。


まだ、みなみのことを思い出す夜はある。

身体の奥に焼きついた“手触りのない拒絶”を、夢に見る夜もある。


でも。


――誰かの笑顔をちゃんと見られるようになった自分がいる。


 


次第に、美羽と話す時間が増えていった。


同じ電車で帰る。

昼休みに同じベンチに座る。

お互いの好きな映画を語る。


彼女は“押しつけない優しさ”を持っていた。

一度も、「元カノの話はしないで」とも言わなかった。


「時間かけて、忘れられたら、それでいいと思うよ」

「それまで、隣にいてあげる」


 


 


そして春が来る頃、ユウはようやく気づいた。


(みなみのことは、もう“過去”になった)


(今、ちゃんと“好き”って思える人がいる)


 


満開の桜の下、ユウはゆっくりと手を伸ばした。


「……春川さん。俺、今でもまだ不完全かもしれないけど――

 でも、それでも……君が好きだ」


「……嬉しい。私も、好きだよ」


 


その手は、ちゃんと熱を持っていた。

もう、何も冷たくなかった。


 


――ユウの物語は、ここから始まる。


彼は確かに傷ついた。

でも、“選ばれなかった男”が、誰かに選び返される未来がある。


それが、“もうひとつのNTRの結末”。

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