表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4

 


日曜の昼。

いつもの待ち合わせ場所。

ユウは少しだけ遅れてやって来た。


「ごめん、待った?」


「……ううん。今来た」


口元だけで微笑む。

本当は、15分前からずっと立っていた。

でも、心は“遅れて来てほしかった”と、どこかで思っていた。


「今日は、映画? それともどっかカフェ行く?」


「……なんでもいいよ。任せる」


「え、ほんとに? じゃあ俺のおすすめの……」


ユウの声は、優しい。

何も変わっていない。

中学からずっと、変わらずに真っ直ぐで、不器用で。


――なのに。


(……なんで、何も感じないんだろ)


(前は……こうして話すだけで嬉しかったのに)


 



 


カフェの席。

向かい合うテーブル。

ユウが「そういえばこの前さ」と笑う。

それに合わせて頷く。

でも、心の奥はずっと冷たいままだった。


(……この空気、滝沢なら壊してくる)


(あいつなら、退屈させない)


(触れずに“揺らしてくる”)


そう思った瞬間、ユウの手が、そっとみなみの指に触れた。


「あのさ……最近、ちょっと距離、感じるんだ」


みなみは顔を上げた。


「……そう?」


「うん。LINEもそっけないし、目もあんまり合わせてくれないし……。なんか、俺、嫌われた?」


「そんなこと……ない」


でも、声がこもっていた。

本気で否定できなかった。


ユウは少し黙ったあと、ふっと笑った。


「じゃあさ――ちゃんと伝えてもいい?」


「え?」


「好きだよ、みなみ」


その言葉と同時に、手をぎゅっと握られた。


でも。


(……つまんない)


(さっきの滝沢のLINE見た時の方が、ドキドキした)


それは残酷な“事実”だった。


「……みなみ?」


「……うん」


「今……手、握ってるの、気づいてる?」


「気づいてるよ」


「なら……どうして、何も言わないの」


「……」


ユウの目が、不安に揺れていた。


「……なあ。キス、してもいい?」


「……いいよ」


口は、そう答えた。


でも。


ユウが顔を近づけて、唇が触れた瞬間。

みなみの中の“なにか”が、何も反応しなかった。


(熱くない。……濡れない)


(このキス、何も響かない)


「……ありがとう」


ユウは照れたように笑う。

その笑顔を、みなみは見ていられなかった。


「ごめん。……帰っていい?」


「え?」


「体調、ちょっと悪い。ほんと、ごめん」


ユウは戸惑っていた。

でも、止めることはなかった。


 


 


帰り道。

電車の窓に映る自分。


口元には、キスの痕が残っているはずだった。

でも、何も残っていなかった。


代わりに、スマホの通知が震える。


【滝沢:どうだった? 楽しかったか?】


みなみは、返信しなかった。


でも、既読はついた。


すぐに、次の通知。


【滝沢:身体は、嘘つかねえからな】


(わかってる)


(もう、自分がどっちを選んでるか)


(“誰に抱かれたいか”なんて、本能が全部答えてる)


 


ベッドに倒れ込んだ。


手をスカートの奥へ伸ばす。


ユウにキスされた唇に触れても、濡れなかった。

でも――滝沢の名前を思い出すだけで、ショーツは音を立てるほど濡れていく。


「……なんで、こんな……」


(最低……最低……)


でも、指は止まらなかった。


 


 


――その夜、ユウからのLINEは既読にすらされなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ