怪異の残響─夜香社の守人─
近代ファンタジー
自分が見た夢を基に作った話のため、拙いと思いますがご容赦ください。
煌々と照らされるネオンと喧騒が聞こえてくる
廃墟と化した施設に殺伐とした気配が漂っていた
「こちら杜守班、怪異と交戦し2名の隊員か呑まれました。守護対象の子供数名を確保し安全圏へ移動しました。」
『了解。対象保護を確認。
複数の怪異の反応検出。レベルレッド。佐倉は引き続き討伐へ向かえ』
通信機器から隊長の返事が聞こえ、仲間と子供たちをエリアに残し踵を返し飛び出した。
「了解、討伐に向かいます。」
怪異ーー近代社会において突如として現れた。人間や動物が何らかの原因により化け物化した存在。元の姿や思考は別の者と化し、狂暴化し負のエネルギーを纏う。
怪異の出現を期に、人類にも変調をもたらした。
身体能力が高く、妖術を使える者が出現した。また工学技術を基に怪異を討伐するための武器が作成された。
怪異を討伐できる人間の組織を夜香社、その隊員を人々は守り人と呼んだ。
施設の外壁から上へと駆け上がる。施設内は薄暗く、壊れた蛍光灯がチカチカと点滅していた。
扉から中へ侵入すると異様な気配がした
奥の闇を見据える
ゆらゆらと揺れる影が迫ってきた。
怪異だ。体長2メートルはあろうかという異形の姿――腕が異常に長く、顔には目が無数に並んでいる。
「…来やがった」
特殊合金の刀「月影」を抜き、跳び上がった。空中で一回転しながら刀を振り下ろす。
「はぁっ!」
胴体が真っ二つになり、黒い霧となって消えた。
「......。」
身体を起こして周りを見渡す。
倒したというのに怪異の反応が、まだ残っていた。
俺は先を急いだ
───
施設の中央棟と東棟をつなぐ、半壊した鉄製の通路。錆びた鉄板が軋む音が響く中、非常階段の途中で声が聞こえてきた。
「やめてっ! お願いっ....かなちゃんっ!」
叫ぶような少女の声が響いてきた。
急ぐ先に見えてきたのは、壁際に座り込み恐怖の表情を浮かべた一人の少女
そして、それに迫る一体の怪異
その怪異は腕が黒く変色し、指先が鋭い爪に変わっているのがわかる。目が赤く輝き、怪異特有のエネルギーが周囲に渦巻いていた。
「がぁぁぁぁっ!......」
砲口と共に腕を振り上げ少女にかかろうとする
──ヤバイ!
と思い月影を抜き少女の前に俺は出た
キンッ!!
怪異の爪を食い止めた。
「ぐぅっっ!...
......コロしてっ......オネ....がいッ......コロ、シテ!
がぁぁぁぁっ!
......イヤッ! ...み......ゆ...う......コロ......シ....たく...ナイ!」
怪異の咆哮と共に悲痛な少女の声が聞こえた
──子供か?
後ろに匿う少女か怪異に対して繰り返して呼ぶ名前"かな"
それがこの怪異の元々の名前なのだろう
月影で怪異の爪を弾き飛ばし、怪異からみゆうと呼ばれる少女を連れて怪異から距離を取った
「夜香社の守人さんお願いします。かなちゃんを助けて!私の幼馴染みなの!一緒に逃げてただけなのにっ!ねぇお願い!」
少女は俺の足を掴み泣きがから友人を助けろと懇願してきた。
怪異は稀に基の記憶を保つ状態の者が現れる。
怪異化途中であれば尚更
対峙するこの個体も怪異化途中の少女.....ということだ
───くそったれ!
俺は戦闘態勢をとり、"かな"と呼ばれた怪異と対峙した。
「がぁぁぁぁっ!」
怪異の本能が彼女を支配しこちらに襲いかかる。
月影を降り爪を避け、怪異の致命傷を避けながら応戦する。
「オネ...ガイ....コロ......シテ......モ......イヤダ!」
怪異は腕を振り上げた。彼女の悲しい声と共に俺への一撃を振るおうとする。
「くそがっ!」
月影に風を纏わせその一撃を一閃で薙ぎ払った。
夜香社の任務としては目の前の怪異を討伐し、後ろに居る保護対象を守るのが正しい。
だが、目の前の怪異は意思を残した少女であった。
俺はどうするべきなのか判断しかねていた。
一瞬の迷いが生死を分かつと解っていながら
どうしていいのか迷っていた
月影を構え意識を集中させた
「ッ発動――!緊縛呪雪波ッ___はぁっ!」
怪異に向かい月影を振るう
この術は怪異を弱らせ封じるための一閃。
青白い雪の波が彼女を捉えようとした
「…!?」
次の瞬間、怪異のエネルギーが爆発し術を吹き飛ばすと共に、後ろの"みゆう"へと爆発した負のエネルギーを飛ばしていた。
咄嗟に俺は"みゆう"を庇いエネルギー波をもろに受け非常階段の壁に叩きつけられた。
「ぐっ…!」
軋む身体に遠退きそうになる意識の中で上役の男の事が浮かんだ。
夜香社の最年少幹部にして、俺の所属する杜守班班長"杜守久弥"
飄々とした彼は幼い頃からその実力で戦場を切り抜けた
大隊長クラスである彼が何故か班長として俺たちの班を纏めていた。
彼がここに居れば.......
この状況においても迷うこと無く判断を下したんだろう
そして──
「判断が遅いよ冬夜。 伝雷ッ!」
「ぎぁぁぁぁぁ!」
怪異に一筋の雷が落ち
叫びと共に怪異が倒れる
術と共に現れたのは黒い隊服を着て舞い降りる、一人の痩躯の青年だった
「あーあ、そんなにやられちゃって。考えすぎ、迷いすぎ。捉えられるものも捉えられなくなるよ」
俺の様子をチラリと見て俺の前に立ち、怪異に向かう。
「さて、やりますか」
久弥はクナイを構えて集中し始めた
クナイが蒼い稲妻を纏う。
「封縛陣蒼雷」
蒼い稲妻が怪異を縛り久弥は迷うこと無くクナイを怪異に投げ放つ。
「ぐぁぁぁ.....」
怪異の叫びは次第に小さくなった
─封縛陣─
怪異の力を抑え縛るための術であり、かなりの技術が必要とされ戦闘には向かない術とされている
こんな戦闘下で難なく使うのはこの人くらいだろう
「かな!かな?死んじゃったの?かなっ?」
俺の後ろに守られていた少女が怪異となった友人を案じ叫びはじめた
「大丈夫だよ。死んじゃいない。弱らせて力を封じただけ。これからラボに運んで治癒すれば今なら間に合うと考えられる。お嬢ちゃん?友達の帰りを信じて待てるかい?」
叫ぶ少女に、優しい声で問いかける
みゆうと、呼ばれていた彼女は久弥を見つめて頷く
「大丈夫なのね?私まてる!かなちゃんを信じて待ちます!」
「よし、いい子だ」
彼女の頭を撫でつつ久弥は通信をはじめた。
「杜守より隊長へ報告。怪異の掃討終了。怪異の一体を封縛しラボに収容予定。呪解治療をお願いします。尚、子供一名を保護安全域への護送の為、北の非常階段に2名応援お願い致します。怪異戦闘にて、冬夜が負傷したため其方の対応を自分が行います。」
『了解。怪異の反応消失確認。任務終了。各自帰投とする。また、護送と収容に必要な者を其方へ送る。』
隊長からの返答を聞き、応援が直ぐ様現れた
「ではよろしくお願いいたします。」
「了解致しました。ご無事の帰投をお待ちしております。」
久弥は応援に来た隊員へ少女達を受け渡し挨拶をしたあと倒れている冬夜へ向かった
「冬夜生きてるか?」
遠退きそうな朦朧する意識の中で微かに久弥の飄々とした声が聞こえた
「......ッ。」
微かな冬夜の反応を感じた久弥は少し安堵し笑みを浮かべた。
「盛大にやられたなあ。状況に悩むのは解らんでは無いが......」
遠退く意識のなか久弥の小言が聞こえた
──くそっ、この人みたいに強くなりてぇ
そう思いながら意識は闇へと染まった
「お前なら判断さえ早ければ封縛できただと思うぞ?ってあれ?冬夜?」
話の途中で完全に冬夜の意識が落ちたのに気づいた
「あらら、よく頑張りましたッと」
負傷した冬夜を担ぎ、久弥は夜香社のベースへと向かいはじめた。
夜香社、大隊長 杜守久弥
彼が直属として率いる小隊の杜守班は
個々の能力値が高く伸び代のある隊員を集め育てる
謂わばエリート育成班となっているが
これは幹部隊員のみが知る情報であり、班所属の隊員たちは知らぬ事実
隊員たちは、日々久弥にしごかれる毎日である。