九話
荒瀬さんと追従していた装甲車から人が降りて来る。
どうやら訓練所のオジサンを装甲車に入れるようだ。
装甲車から降りて来た人がオジサンのコクピットを開ける。
僕は嫌な予感がしていたので僕と君世はオジサンのコクピットから離れる。
開けた瞬間オジサンが中から飛び出してきて、コクピットを開けた人を斬り殺した。
でも出来たのはそこまでで、機械人の構えた銃の銃口がオジサンに向いているのを確認したあと、刀を落とした。
オジサンの近くには人質になりそうな人がいなかったからだ。
オジサンは僕に向かって、
「よう坊主。 お前を自由にした結果がこれだ。 全くやってられないなぁ。」
オジサンは諦めたようだ。
そこに荒瀬さんが、
「解放軍幹部と聴いていましたが、まさか貴方とは。解放軍大佐ジュビック。」
「上世くんこれは大手柄ですよ。 今まで彼によって受けた被害は大きいですから。 それに強者でもあります。」
「お褒めいただいて嬉しい限りだ。 最もこのざまじゃなきゃなぁ。」
「これから俺はどうなる?。」
「それはなんとも。 貴方ほどの者とは思っていなかったから此方も色々あり、本社に連絡してから貴方の対応を決めます。」
「谷町、本社に連絡を。」
いまだ機械人の中にいる1人にそう言った。
僕は改めて荒瀬さんを見た。
背が弥奈より高く君世より低い。
僕より背の高い女性ばかりで少し落ち込む。
それを君世は僕を愛おしい者を見るような目で見たあと僕を後ろから抱きしめた。
谷町さんが本社に連絡を取っている間、僕達は今後の予定を決める。
荒瀬さんが中心になって話しが進む。
「まず上世くんには我々と共にこの惑星から脱出してもらいます。」
「上世くんのご家族も人質として共に行きましょう。」
僕はそこで両親は殺されたと言った。
「そうですか。 ならこれ以上此処にいる必要は無いですから脱出しましょう。」
荒瀬さんがそう言ったら忠志さんが、
「待ってくれ!。 まだ儂の妻や此処の従業員の家族が来ていない。 それまで待ってくれ!。」
それに対して荒瀬さんは、
「何故待たないといけないのですか?。 貴方達は人質として保護するのであって、貴方達を助けに来た訳では無いです。」
「儂達は人質なんだろう!。 ならいっぱいいたほうがいいだろ!。」
荒瀬さんはやれやれと言った感じで、
「人質は1人2人で充分ですよ。上世くんが欲しい我々は、上世くんが地凪を裏切る事の無い様にする為に人質を取るのですから。」
「貴方達の家族など、上世くんには関係ないですので。」
「此処にいる人達を全員人達にする事は地凪の温情だと思って下さい。」
そこでオジサンが、
「坊主に人質なんて無意味だぜ。 なにせ坊主の両親を殺した俺を、自分が企業に保護される為に生かしている奴だ。」
「坊主にとって大事なのは自分の生存でそれ以外はどうでもいいからな。」
「坊主が生存する為にこいつらが邪魔になったら、すぐ切り捨てるだろうぜ。」
と、笑いながらオジサンは言った。
「ジュビック、随分と上世くんについて知っている様ですね。 何処で面識があったのでしょうか?。」
「おいおい俺は坊主が通ってた訓練所の教官だぜ。 坊主の事は今日あったばかりのお前達よりも詳しい。」
「なるほど。 だから解放軍が我々企業よりも速く上世くんの事を知ったのですね。」
「それにしても解放軍の幹部が訓練所の教官とは、世も末ですね。」
それに対してオジサンは笑っていた。
忠志さんはまた絶望していた。
僕もこれ以上人質を増やす気は無いし、君世もそんな忠志さんを白けた目で見ていた。
君世は忠志さんの事を良い奴と言っていた筈なのだが、その反応はなんだろうか。
忠志さんはまだ荒瀬さんに何か言っているが、荒瀬さんは無視して脱出の準備をしていた。
脱出の準備をしていたら荒瀬さんがオジサンの処遇が決まったと言った。
「解放軍幹部ジュビックは我々と共にこの惑星を脱出、その後本社に渡す予定です。」
「それから我々が脱出した後、この惑星に惑星破壊砲を撃ち込むそうです。」
「それでこの惑星ごと解放軍を殲滅する事に決まりました。」
「ですので、我々が乗って来た宇宙船に直ちに向かいます。」
「時間的な猶予は無いと思って下さい。」
オジサンは高笑いしながら、
「ワハハハハ。 見たか坊主。 これが企業のやり方だ。 無関係な人ごとこの惑星を殺す。 何時もこうだ!。」
「黙りなさい。 そもそも貴方達が襲って来なかったらこうはならないのですから。」
「それはどうかな。 気に入らなければ惑星ごと殺すのが企業だからな。」
オジサンと荒瀬さんが言い合っているが、僕にはどうでもいい。
僕のせいでこんな状況になっているがもう僕がどうにか出来る範疇を超えている。
だから僕は死んで逝った人達やこれから死んで逝く人達に僕を恨んでくれとしか思う事が出来無い。
最も僕のせいでこんな事が起こっているとは殆どの人達が知らないから恨んでくれもないか。
脱出の準備をしていた間に忠志さんの妻や従業員の家族が機械人に乗らずに歩いて此方に向かってやって来ていた。
「こんなに人数が増えても困るのですが。」
そう荒瀬さんが言った後に企業の機械人の銃口が今此方に向かって来ている人達に向く。
「な! 何のつもりだ!。」
従業員の1人が叫ぶ。
「何のつもりとは、こういうつもりですが?。」
荒瀬さんがそう言った後企業の機械人から銃弾が放たれた。
対機械人用の銃から放たれる銃弾は、人間の身体など跡形も無く消し飛ばした。
それをオジサンは笑いながら見ている。
僕はこうなるだろうなと思っていたが、助けるという選択肢は僕の中に無かった。
両親が死んでから僕は僕自身の生存を1番に考えている。
そこには君世も入っているが、それ以外はまず僕が助かってからだと考えている。
今まで余り面識の無い忠志さんの奥さんや此処の従業員の家族などは今の所頭に無い。
だから今この場にいる人達だけしか助ける気はない。
僕はこんな自己中で薄情な奴だったのだろうか?。
そういえばオジサンは、僕の事を自己中と言っていたな。
他人にも自己中と言われるなら僕は自己中なのだろう。
僕はそう結論づけるとその事を頭から追いやった。
そこで漸く状況を理解したのか殺された人達の家族が叫び出す。
「キャーーー!!」
「母さん! 母さん!」
「ひ 人殺し!」
「うぉぇぇ〜~!!。」
終いには吐きながら泣いている者までいる。
幼馴染も震えていたが、幼馴染の側に行く気は無かった。
最も君世が僕を後ろから抱きしめていたから動く事は出来無いが。
荒瀬さんが、
「人殺しとは何を言っているんですか?。」
「私達は貴方達を助けに来た訳では無いと、何度も言っているではないですか。」
「それにこれ以上の人数を連れ歩くのは危険です。」
「今はまだ此処に上世君がいるとは解放軍には、ばれていないですが、我々が余り大人数で移動していたらばれる可能性があります。」
「できるだけ企業の1部隊が移動している用に見せる必要があります。」
それに対して忠志さんや従業員達が荒瀬さんに暴言を吐く。
「儂達が何をしたっていうんだ!!。」
「今まで地凪の為に一生懸命働いて来たのに!。」
「殺す必要は無いじゃないか!!。」
「このアバズレクソオンナ!!。」
「死んで仕舞え!。」
それに対して荒瀬さんは、
「煩いですよ。」
と、少し苛立っていたが続けて
「貴方達が企業に奉仕するのは当然です。」
「それに対して報いがあるとは思わないでください。」
「貴方達は企業に奉仕しないと生きて行けないですが、企業は貴方達程度が居なくても問題ありません。」
「それにこの状況は上世君を欲した解放軍のせいで起きた事です。」
「我々を恨むのはすじ違いでは?。」
そこまで言われて漸く荒瀬さん達が、自分達以外を助ける気はない事に気づくと皆黙って荒瀬さんの指示に従い始めた。
此処でぐだぐだやっていると、自分達まで殺されると思い至ったのだろう。
だが荒瀬さん達に対して恨みが有るので、皆睨んだり小言で暴言を吐いている。
僕の方を見てアイツのせいでこんな事になったと言っている従業員もいる。
それに対して僕はその通りだと思った。
元は僕が訓練所の機械人を倒した事でこんな事になっているのだから。
だが僕が彼等に何かを言う事はない。
言っても無駄だし、そもそも企業である地凪に何も無しに助けて貰おうというのは都合が良過ぎる。
企業は企業にとって有用な人か、対価を払ってないと、何もしてくれないのだから。
精々僕と荒瀬さん達を恨んでくれ。
恨まれた所で僕のする事は変わらないのだから。
脱出の準備が整いこの惑星から出る事になった。
僕と君世は荒瀬さん達が来る前に修理し終わっている機械人のコクピットに搭乗する。
皆が脱出の準備中に荒瀬さん達は、本社に連絡を取っていたり、オジサンの身体や持ち物に発信器や連絡出来る物が無いか確かめていた。
そしてオジサンとオジサンのアンドロイドは拘束されて装甲車に入れられる。
荒瀬さんが今後の予定を話し始める。
「まず人質の皆さんは自らの機械人を此処に置いて装甲車に乗ってもらいます。」
「機械人がいっぱい固まって移動していれば怪しまれます。」
「それに我々が乗って来た宇宙船は速い代わりに積載能力が高くありません。」
「上世君の機械人を乗せるとそれでいっぱいです。」
「ですから皆さんには、何も持ち物を持たないでそのまま装甲車に乗って下さい。」
「時間も余り無いですから、最短距離で我々の宇宙船に向かいます。」
「途中で解放軍の機械人に遭遇する事もあるでしょう。」
「その場合は無視して宇宙船に向かいます。」
「地凪の機械人達に我々の事を連絡しています。」
「我々の所に解放軍の機械人が来ないようにしてくれるし、来たとしても彼等が相手をしてくれるでしょう。」
「我々はとにかく上世君をこの惑星から脱出させるのが仕事です。」
「さぁ 人質の皆さん装甲車に乗って下さい。」
そう言った後荒瀬さんは自身の機械人に搭乗し、幼馴染家族や従業員達は装甲車に乗っていく。
それを僕はコクピットから眺める。
弥奈が此方を見ていたが両親に呼ばれて装甲車に向かう。
弥奈が何考えているか分からない。
昔からそうだった。
その時後ろの座席から君世が、
「あやつらの事は忘れるのじゃ。」
「若様には妾がおるのじゃ。」
そう言ってくる。
その言葉を聴いて僕はそうだなと思った。
僕は君世と僕の生存を1番に考えているのだから。
それでもあったばかりの君世の方を今まで一緒にいた弥奈より、大切に思っているのはどうしてだろうか?。
君世は僕が生きていくのに必要だが、弥奈は居なくても問題無いからだろうか?。
きっとそうだろうと思う事にした。
僕は僕自身が1番大事なのだから。
そんな事を思いながら僕は前を行く荒瀬さん達の後に続いていく。