五話
両親に刀を向けたオジサンは、僕を真剣に見つめていた。
「坊主。今から誕生日プレゼントをやるよ。」
そう言って両親の首を切り落とした。
僕は何が起こったのか分からなかった。
どうして誕生日プレゼントが両親の首を落とす事になるのか、何故オジサンはこんな事をしたのか、疑問ばかりが頭を埋め尽くす。
その間にも両親の首から血が流れていった。
僕はそれを眺める事しか出来無かった。
もう両親は死んだのだ。
それを受け止める事が今の僕に出来る事だった。
両親の敵を取る為にオジサンを攻撃する事も考えたが、オジサンは刀を持っているのに対して僕は、何も持っていない。
それにオジサンのアンドロイドが見当たらない。
ナノと言うアンドロイドだ。
アンドロイドは所有者に指示されない限り、所有者の側を離れない。
オジサンのアンドロイドが、僕の見えない所に隠れて居るかも知れない。
オジサンは両親の首を一振りで切り落とした。
君世と二人がかりでも勝てる気がしない。
君世は戦闘用にアップグレードされたアンドロイドでは無い。
君世を失うと僕の命も危ない。
オジサンが何を求めているのか分からない以上、此処でオジサンに歯向かっても良い事は無い。
両親の敵を取る事などもう頭には無かった。
君世がそんな僕を後ろから抱きしめる。
するとオジサンが、
「親からの解放は、俺が坊主に与えられるプレゼントの中でも最高のものだ。親が生きている間は離れて居ても、親の存在がちらつく。だからこそ俺が坊主の両親を殺し、坊主を自由にしてやった。坊主に親殺しをさせるのは酷だからな。」
「どうだ? 親から解放されて自由になった気分は。良いものだろう。」
「坊主の事を視て来て分かったが、坊主は自己完結している。両親の事だって死んでも悲しくはなるが、敵を取ろうとは、思わないだろ?」
「それで良いんだよ坊主は。人が死んでも他人事で要られる奴が、自己中な奴が、俺達には必要なんだから。」
そう言ったオジサンは満足そうだった。
確かに僕は両親が死んだと理解すると敵を取るのでは無く、僕の生存を意識した。怒る事もせずに。
そういう所がオジサンには、自己完結している自己中な奴として映っているのかも知れない。
僕の興味は死んだ両親では無く、オジサンが何故僕を必要としているのかにあった。
それを知らなければならなかった。
君世は僕を後ろから抱きしめて一言も喋らなかった。
そんな君世を不審に思ったが、アンドロイドは本来変更もしていないとそんなに喋らない。
まぁ君世は普通では無いのだが、空気を読んで黙っているのだろう。
「何故俺達が坊主を必要として居るのか、ちゃんと説明してやんないとな。」
「何処から話したもんかね。」
そう言ってオジサンは、黙ってしまった。
その間、僕はずっとオジサンを見ていた。
それからオジサンは衝撃的な事を喋り出した。
「俺の職業は訓練所の教官だが、地球人類解放帝国に所属している。」
僕はオジサンが、帝国を名乗っているだけのテロリストだと知って、びっくりした。
君世は何時も通りだった。
何時も通りと言っても、昨日来たばかりだけど。
オジサンは、
「一般的には俺達はテロリストだ。たがちゃんと皇帝もいて、政府機関も有り土地も有り、何より俺達国民が居る。立派な国家だよ。」
「地球人類帝国の政府が俺達の事をテロリストと言って報道するから俺達は、テロリスト扱いされている。」
テロリストのくせによく言う。
大体、地球人類帝国に対して戦争仕掛けて、惑星シクサが消滅したりしている被害を出しているのだから、テロリスト扱いも妥当だろ。
何せこの宇宙に国家は帝が居る地球人類帝国だけだ。
オジサン達が勝手に国家と主張しようとも、この地球人類帝国に暮らす僕達からすれば、テロリスト以外何者でもない。
大体名前も解放とか言って如何にもテロリストっぽい。
大体に解放意外被っていてややこしい。
オジサンは僕の考えなど分かるはずもないので、次々と喋っていく。
「まぁそんなの俺達が帝と政府、そして五大企業を潰して仕舞えば良いわけだか。」
「もっともそう簡単にはいかないが。それでも俺達がやらなきゃ駄目なんだ。」
「貧富の差がひどすぎて俺達は苦労している。その事を帝は分かっていない。」
「五大企業が富を独占している。それを辞めさせねぇと。」
熱く語っているが、一般的な人は今の生活に対して概ね満足していると思う。
人類に敵対的な種族は居らず、人類の国家も一つで他国との戦争は無い。
地球人類解放帝国が居なければ、戦争など起こりはしなかった。
貧富の差は仕方ない。
オジサンだって訓練所の教官として働いて、地球人類帝国から給料を貰って暮らして居るのに、何を言っているのだろうか。
やはりテロリストの考えなど分からない。
「坊主には俺達、地球人類解放帝国に所属して貰う。」
オジサンが急にそんな事を言い出した。
「坊主はつい先日、訓練所の戦闘用にアップグレードしてある機械人を倒しただろ。あれは本来倒せる機械人じゃないんだ。」
そうなのか。
通りで理不尽な強さだった訳だ。
「あの機械人を倒したら政府から報酬が出るって事だが、一般人はまず知らない。」
「優秀な操縦者は企業が欲しがるからな。」
「報酬は訓練用機械人を倒したという証だ。もっとも人それぞれ報酬は違うが。」
「坊主の場合はその美人のアンドロイドだろ。坊主の家の財布事情じゃあ、そこまで変更するのは厳しいはずだろ。」
正解だ。
もっとも直ぐ分かる事だが。
企業に分かって貰う為に君世はこんなに超美人なのか。
それで訓練所の機械人を倒した僕をスカウトしに来た訳だ。
僕が必要なら両親を殺す事は無かったと思う。
オジサンが言う自由を僕にあげたかっただけなのか。
僕は理由を知っても怒る気は無かった。
「さて坊主。もっと話したい事はあるが、集合場所に移動しよう。此処はもうじき解放軍が来て戦場になる。」
オジサンは理由の解らぬ事を言う。
「まぁ待て。まずは機械人に搭乗してからだ。話しはそこで出来る。」
そう言ってオジサンは機械人に向かう。
僕はその後に付いて行く。
オジサンは機械人の梯子を素早く登っていく。
50メートルもある機械人の梯子を登る様は手馴れていた。
僕達も機械人に搭乗する為にガレージへ向かう。
その道中今まで一言も喋らなかった君世が、
「若様はどうするつもりなのじゃ? あの男に付いて行くのじゃ?」
そう聞いて来たので、僕は選択した。
オジサンと敵対する事を。
此処が戦場になるなら、企業も来るはずだから。
何にせよテロリストには屈しない。
オジサンの目的は僕かもしれないが、地球人類解放帝国の目的はおそらく僕じゃ無い。
この惑星タマに何かしらの目的があるはずだから。
僕の為に戦争をするとは思えない。
解放軍の目的が分からない以上オジサンの話しを聞かないといけないので、暫くは付いて行く。
その事を君世に伝えると、君世はとても嬉しそうに、
「さすが若様なのじゃ。あの男に流されず自由に選択するのは凄いのじゃ。」
そう言って褒めてくれた。
オジサンのおかげで僕は自由に選択出来る。
だからこそ僕は自由に選択する。
僕の意思で。
そんな話しをしている内にコクピットまで来ていた。
コクピットに入る前に君世が、
「若様あの男に勝てるのかぇ? あの男の機械人は戦闘用にアップグレードしてあるのじゃ。」
それに対して僕は頷く。
僕は何のアップグレードもしていない機械人で、あの理不尽な訓練用機械人に勝ったのだ。
ただ戦闘用にアップグレードしてあるだけの機械人に負ける気はしない。
頷いた僕に対し君世は、
「若様。勝ったらご褒美をあげるのじゃ。」
そう言って、舌なめずりをした。
僕はその仕草にドキッとした。
そんな僕を君世は笑っていた。
よくよく考えると、これは両親が話していた死亡フラグという奴なのでは、と思ったが死亡フラグなどへし折ればいい。
コクピットに入りメインシステムを起動させる。
メインシステムが起動しミナト粒子が散布されコクピット内に充満する。
充満した後に、機械人を動かしてガレージから出る。
ガレージから出て家を見る。
もうこの家に戻る事は無いだろう。
僕はゆっくりとオジサンがいる方へ歩いて行った。
オジサンと合流し集合場所とやらに向かう。
集合場所はどうやら訓練所のようだ。
そこに着くまでにオジサンの話しを聴く。
『まず俺達解放軍の目的は坊主の確保だ。』
『訓練所の機械人を倒した坊主は俺達や企業に狙われる事になる。』
『訓練所の機械人を倒せるだけの操縦技術があるって事だからな。』
『そんな奴そうそう居ないからな。』
『何より俺達解放軍は地球人類帝国に戦力的に劣っているから、坊主の確保に俺達が動くのは当然と言う訳で、そんな中で企業よりも先に坊主を確保出来て良かったぜ。』
『惑星シクサでの戦闘も企業が確保した操縦者を奪う為だった訳だしな。』
『結局操縦者は奪えずに惑星シクサは消滅する始末。』
『今回は幸い企業よりも先に俺達が坊主に気が付いた。』
『だから解放軍はこの惑星を占領するつもりで仕掛けて、企業の目を坊主から逸らし、その間に坊主はこの惑星から俺達の拠点惑星まで行くんだ。』
僕は驚愕した。
解放軍の狙いも僕だったなんて。
オジサンだけの目的だと思っていた。
解放軍の目的が僕ならオジサンを倒しておしまい、と言う訳には行かないはずだ。
それにしても、たった一人の為に惑星タマを戦場にするのはやり過ぎだ。
訓練所は政府が運営している。
政府から企業に僕の事が知らされて居るかも知れない。
企業が僕の事を知っていれば、陽動は上手く行かないはずだ。
オジサンの話しが本当なら、企業の目的も僕になるのだから。
戦闘になればオジサンから逃げ出して、企業に保護して貰うほうがいいかもしれない。
でもそうすると、企業が僕を保護してくれる前提だから、上手く行かないかもしれない。
何も無しに企業頼みでは駄目だ。
オジサンが解放軍でどの辺りの地位に就いて居るか分からないけど、企業に保護して貰うには、手土産があったほうがいい。
そのためにもやはり、オジサンを倒したほうがいい。
何よりも君世からのご褒美がある。
ご褒美が楽しみだ。
そうこうしている内に、集合場所の訓練所に着いた。
訓練所には他の機械人は居ない。
あの理不尽な機械人は修理中で居ない。
有るのは、訓練所に来た人達が使用する機械人だけだ。
オジサンは、
『まだ誰も来てねぇじゃ無いか。』
と呟いた。
するとオジサンが僕に対して、
『おい坊主。訓練所にある機械人用の武器を装備しよう。陽動が上手く行かなくて、企業が俺達を狙って来るかもしれない。念には念を入れておこう。』
と言ったので、僕は好機だと思った。
オジサンの方から僕が武器を装備する理由を作ってくれて、僕が理由を考える必要が無くなった。
此処は訓練所、今から夜になるが多少うるさくしても大丈夫だし、訓練用に武器もある。
そうと決まればオジサンを倒す為の武器を選ばなければ。
武器は色々ある。
銃や剣などの手に持つ武器の他、大砲やロケットといった肩や背中に装備するものまで、一通り揃っている。
オジサンは刀と散弾銃を装備しようとしている。
刀は斬れ味が鋭いけど、雑な使い方をすると直ぐに折れる。
散弾銃は接近する程威力が上がる。
離れれば問題ないとはいえ、遠くまで届くので注意が必要だ。
明らかに近接使用だ。
対して僕は両手持ちメイスを選ぶ。
理由はコクピット内にはミナト粒子が充満しているとはいえ、衝撃は少々あるからだ。
両手持ちメイスでコクピットを叩けばそれなりに衝撃があるし、何よりもコクピット、つまり腰を思い切り叩けば、機械人はバランスを崩して倒れる。
その後はコクピットを念入りに叩けばいい。
叩いていればその内ミナト粒子が尽きる。
ミナト粒子は重力や衝撃を和らげる効果があるが、コクピット内のミナト粒子は衝撃などを、和らげる度に減っていく。
和らげる力が大きいほど減る量が増える。
そうなれば中の搭乗者が死んでしまうし、搭乗者が死ななくても、コクピットが壊れると機械人は動かない。
オジサンは僕の装備を視て、
『坊主がメイス好きなのは分かっているが、銃を持っとけ。遠距離から攻撃出来るのは強いぞ。』
そう言って僕から視線を外す。
まだ誰も来て居ないなら今の内にオジサンを倒してしまおう。
オジサンは僕を視ていない。
最初の一撃は必ず入る。
僕はそう思ってオジサンの機械人の後ろに回り込んだ。
『遅いな。まだ時間まであるとはいえもう来て居てもい』
オジサンが何か喋っているが、無視して僕はオジサンの機械人のコクピットに、フルスイングでメイスを振りぬいた。
バゴン
凄い音がしてオジサンの機械人のコクピットにメイスがぶち当たる。
オジサンの機械人はバランスを崩す。
その隙にもう一度メイスを振りかぶり、コクピットに当てる。
ドゴン
そんな音が響いた。
オジサンの機械人はいきよいよく倒れた。
『何が。起こった。ナノ。』
オジサンは状況を理解出来無い。
当然オジサンのアンドロイドも理解出来無い。
倒れたオジサンの機械人にもう一発、
バギャン
オジサンのコクピットに当たる。
そこでオジサンは漸く状況を理解した。
『坊主どういうつもりだゴラァ!』
オジサンが切れているが知った事じゃ無い。
『此処に来て両親の敵討ちか坊主ぅ~。』
全く検討違いな事を言っている。
そんな事、僕はしないとオジサンが言ったじゃないか。
『貴様の首が若様は欲しいのじゃ。』
君世が僕の代わりに言うが、それだけだと敵討ちしている風に取られる。
『俺の首を両親の墓に添えようってか。あぁ!』
案の定オジサンは勘違いしている。
もっとも訂正してやる気は無いが。
オジサンは意外と頭が悪いのかな。
『地球人類解放帝国の大佐である俺の首をお前なんぞにやるかよ。』
やっぱり頭悪いな。
自分からどの辺りの地位なのか教えてくれるなんて。
『訓練所の機械人を倒して、マニュアル操縦が出来るからって、調子に乗ってんじゃねぇぞお前!!』
『マニュアル操縦に、オート操縦が劣っていない事をお前に教えてやるよぉ~!!。』
そうして僕とオジサンの戦闘が始まった。