置き去りの森
真夜中、月明かりが薄く森を照らす中、男女四人の若者たちは肝試しに出かけた。場所は、かつて一家が惨殺されたという、地元では誰も近づかない古びた家。噂では、その家に住んでいた家族は一夜にして血まみれの惨劇に見舞われ、家の中には彼らの無念を感じさせるような冷たい空気が漂っていると言われていた。
翔太は笑いながら言った。「絶対、ビビって泣くなよ?」 でもその言葉の裏には、自分が怖がっていることを認めたくない気持ちがあった。仲間たちはそれぞれ怖がりながらも、無理に軽口を叩いて気を紛らわせていた。
「お前が一番ビビってるくせに」理沙が言うと、智花が笑った。その笑顔が不安を一時的に消してくれる気がした。
「お前が怖いんじゃなくて、この家が怖いんだよ」慎太郎がちょっとだけ笑うと、皆もほっとしたような気分になった。だが、翔太はその笑い声が少し空虚に感じていた。自分たちが本当に怖いのは、目に見えない何かではなく、この状況に囚われている自分たちの心だと、無意識に感じていた。
家に近づくたび、空気が重くなった。翔太の心臓が鼓動を速め、足元が重く感じる。だが、怖さを見せてはいけないという意地が彼を前進させる。家の扉を開ける瞬間、すべてが静寂に包まれた。何もかもが異常だと感じたが、その異常を受け入れるしかなかった。
「怖くないわけじゃないけど、行こうよ」智花の声が震えていた。その言葉の背後には、誰もが感じていた恐怖と、それを乗り越えようとする決意が隠れていた。
だが、家に足を踏み入れると、冷たい空気が彼らを包み込む。床に足を踏み入れるたび、響く音に心臓が反応し、翔太は一瞬立ち止まった。無意識に、これが本当の恐怖だと感じていた。
その時、翔太が目を奪われたのは、部屋の隅に立つ古びた人形だった。その目が、まるで何かを訴えかけているようで、翔太は無意識に手を伸ばしてしまう。その瞬間、全身に冷たい感覚が走り、空気が一変した。
「おい、やめなよ。気持ち悪いじゃん」理沙が言うが、翔太は手を引っ込められなかった。自分がこの家の恐怖に囚われていることを、無意識に認めていたのだ。何かに引き寄せられているような感覚が、胸を締めつけていた。
その瞬間、家全体が震え、暗闇から聞こえる何かの呻き声が耳に届いた。
「なんだ…?誰かいるのか?」
恐る恐る全員が動きを止める。突如、家の中に異常な気配が立ち込め、目の前に現れたのは、想像を絶するほど醜く歪んだ顔をした人間の姿をした者たちだった。肌は青白く、目は黒く空洞、口からは血が滴っている。まるで生ける死人のようなその異形の者たちは、無言で彼らを見つめ、ゆっくりと近づいてきた。
「逃げろ!」翔太が叫び、四人は一斉に家から飛び出した。冷たい風が頬を打ち、足音が響く中、慌てて駆ける。振り返ることなく、ただ必死で森の中を駆け抜けた。
理沙が足を取られ、転んだが、誰も気づかなかった。一心不乱に翔太は走り続け、慎太郎と智花も必死で逃げる。振り返ることなく、三人は森を抜け、車へと辿り着いた。
「理沙がいない……!」翔太が叫ぶ。三人は車を停め、慌てて戻ろうとした。しかし、恐怖が広がる中で、誰もがその一歩を踏み出せない。理沙を置いてきた罪悪感が重くのしかかる。
三人はそのまま車に乗り込んだ。心臓が高鳴り、息が詰まる。彼らは道を選べず、ただ家から遠ざかろうと車を走らせた。だが、目の前に霧が立ち込め、視界が曇っていく。
車を走らせるうち、ふと恐怖が再び彼らを襲う。誰もが知らず知らずに車を停めていた。
その時、車の外から異形の者たちがゆっくりと迫ってきた。無言で、じっと見つめる目。かすかな足音が車の窓を叩く。
一瞬、恐怖で硬直した彼らが、ようやくエンジンをかける。しかし、車が動き出すとともに、目の前の霧の中に異形の者たちが姿を現し、ゆっくりと車を取り囲んだ。
車内はすでに絶望に包まれていた。
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