元犯罪者が探偵になりました
「…っと、これで完璧」
夜の空に、人が立っていた。姿や声質からみて女性だが、変装している可能性もある。性別不詳、年齢不詳……何もかもが不明なその人は、今、手口を終えたところだ。
「じきに警察が来るだろうし、早く逃げたほうがよさそうね……」
するとその人はその部屋に火をつけ、家を出た。夜中だという事もあって、人はおらず静かだ。
(念の為、帽子を被っていたほうが良さそう。本物に見つかると厄介だし)
その人は後で痕跡を消しておくか、と考えていると、「待てよ」と声がかかった。
振り返ると、二十代くらいの青年が立っていた。
その人はにやりと笑みを浮かべる。
「あら、もう来たの?早いわね。現代のシャーロック・ホームズさん。いや、まだ貴方はワトサン…かしら?」
「ワトソンだ。そういうお前も仕事が早いな。現代のモリアーティさん?」
「…捕まえないの?」
青年は、お前がそんな事言うなんて、と溢しながら、「捕まえるさ」と言い放った。
「お前のやった事は許される事じゃない。だから何としてでも捕まえて、罪を償わせる」
「貴方、正義のヒーローみたいな事口にするのね。でも、私は私なりの正義があるの。じゃあね、わたーー」
その瞬間、青年はその人に飛び込んできた。その人を守るように、自分の体を犠牲にして。
目に映ったのは、白い車。
今まで忘れていた感情が、溢れ出してきた。
恐怖、という名の感情が。
それが、その人の最期に見た光景だった。
「!」
はっと飛び起きた。あれからどうなったのだろうか。
あたりを見回すと、夜は変わっていなかったが、おかしい。自分と青年は車に轢かれたはずだ。あんな至近距離だから、無傷ではすまされないはず。なのにどうしてーー
いや、それだけではない。
青年がいない。だが、家は燃えていた。
どういう事、と頭を抱える。自分は、今から犯行を行うのか?だとしたらさっき見たものは、夢?いや、それでは矛盾している。現に家は燃えているではないか。
犯行は簡単に作れるのに、この現状に理解が追いつかない。
そんな混乱している中、さらに追い詰めていくような事実が襲う。
「…目線が低い?」
目の前にある家が、とても大きく感じられた。まさかと思い、恐る恐る、自分の足を見る。ああ、とため息が溢れた。
足が、縮んでいた。足だけではない。腕もだ。
「うそ、でしょう………?」
信じたくはない。なぜなら、非現実てきだから。
そう、つまり、そういう事なのだ。
「現代のモリアーティ」と呼ばれた犯罪者は、目が覚めると、
ーーーー七歳の頃の自分に、体が戻っていた。