第5話 【スキル使用】
数週間後、アリアとルークは準備を終え、いよいよ未開の地への出発日を迎えた。二人は計画を緻密に立て、どのように開拓を進めていくかを何度も話し合っていた。
アリアは王に対して資材援助を求める手紙を出していたが、返ってきた物資は必要な量の半分にも満たず、現地での調達が不可欠となってしまった。荒れ果てた未開の地での開拓に不安が募るものの、少ない資材を工夫し、なんとか現地で適応していくしかないと覚悟を決める。
出発の日、アリアは家族と別れの挨拶を交わした。家族の期待と不安の入り混じった表情を見て、彼女はその重みを改めて実感する。そしてルークと共に集合地点へ向かうと、そこには今回の開拓に参加する100人ほどの人々が集まっていた。
彼らの顔には緊張と不安が浮かび、周囲を見回すと何人かは足を震わせ、今にも逃げ出しそうな表情をしている者もいた。そのとき、参加者の一人が震えながら声をあげた。
「あの……本当に、あんな場所を開拓して大丈夫なのでしょうか……魔物がたくさんいると聞いているのですが…………」
その言葉に場の空気がさらに重くなった。アリアは彼らの不安を和らげるため、しっかりと前を向き、元気づけるような言葉を投げかけた。
「みんな、大丈夫です。私たちはここにいる全員で力を合わせ、必ず開拓を成功させます。怖がらずに、希望を持って前に進みましょう!」
しかし、アリアの力強い言葉にもかかわらず、参加者たちの表情は沈んだままだった。彼らの不安と恐怖は根深く、彼女の声はまだその心に届いていないようだった。
けれど、アリアは諦めることなく、彼らの背中を見つめ、静かに自分を奮い立たせた。困難な旅路が始まるのだと、強く自分に言い聞かせる。
そうして一行は、様々な思いを胸に秘めながら未開の地へと出発することになった。馬車に揺られる中、窓の外に広がる風景は次第に人の手が加わっていない自然のままの荒野へと移り変わっていく。
しんと静まり返った中、開拓民たちは思い思いにその先の見えない未来に思いを巡らせ、誰もが息を潜めるようにして黙々と進んでいた。そして旅を始めて約3日が過ぎた頃、ついに一行は目的地である未開の地へとたどり着いた。
到着すると、アリアとルークはまず、湖がある場所へ向かった。水源を確保することが開拓の基本であり、湖付近に拠点を設けることが最良だと判断したのだ。地図には湖の位置が記されているものの、それ以外の地形や環境についての情報はほとんどない。
この未知の土地に足を踏み入れると、アリアの胸には不安と同時に高揚感が湧き上がり、これから始まる新たな挑戦に心が躍った。
アリアとルークはすぐに拠点作りに取り掛かり、他の開拓民たちもそれぞれの役割に従って動き出した。仮設テントを設置し、木を伐採し、木材を集めるなど、少しずつ準備が進んでいく。
湖のほとりには木々が生い茂り、石や土の匂いが大地に漂い、時折風が草を揺らして静寂を破っていた。だが、作業を続けているうちに、アリアの頭の中に突然、はっきりとした声が響き渡った。
「この地ではスキルが使用可能です」
その言葉にアリアは驚き、思わず周囲を見渡したが、他の誰もその声に気づいていない様子だった。
「もしかして…これは聖女様が話していた『ネットショッピング』のことなのでは?」と、アリアは期待と驚きで胸を高鳴らせた。
試しに心の中で「ネットショッピング!」と叫んでみると、驚くべきことに彼女の目の前に透き通るようなスクリーンが浮かび上がり、そこには見慣れた「ANAZON」のロゴが煌めいていた。前世でよく利用していたネットショッピングのサイトそのものであり、アリアは懐かしさと興奮で目を輝かせた。
そして、スクリーンの上部には、「初回特典です。一部の家を10件まで、無料で建てられます」というメッセージが表示されている。アリアは驚きと期待が入り混じった表情でサイトの画面を見回し、商品がカテゴリごとにリスト化されている様子に感動を覚えた。
かつての生活を思い出すようなそのサイトには、あらゆる日用品や工具、家具が並んでいる。説明文やレビューまでが記されており、前世で知っていた機能がすべて備わっているのは驚異的だった。しかし、支払い方法には「魔力」という新たな項目が追加されており、彼女の魔力数値も表示されている。
アリアは、初回特典で無料の家を試しに購入することにした。「ANAZON」には、この世界に馴染みのある木造の建物が並んでおり、未開の地で必要とされるような質素だが頑丈そうな家もあった。
彼女がその中の一つを選び、画面上の「購入」ボタンを押した瞬間、周囲が眩い光に包まれ、目の前に選んだ家が実体化するように現れた。その家は確かに木造で、周囲の風景に溶け込むような素朴なデザインだった。大きさも十分あり、開拓初期には申し分のない造りだった。
アリアと周囲の皆は、その信じられない光景を前に、言葉を失っていた。そこには確かに、今アリアが選んだ木造の家が存在し、彼女の目の前に堂々と佇んでいる。家の構造はしっかりしていて、温かみのある木の香りが風に乗って漂ってきた。まるで昔からそこに建っていたかのような、自然な存在感を放っている。
ルークが慎重に家へと近づき、恐る恐る手で触れると、木の感触が確かに彼の指先に伝わった。彼は驚愕と感動を押し隠せない表情でアリアを振り返った。
「アリア様……これは…?、まさかあなたの力なのでしょうか?」
「え....えぇ...どうやらそうみたい........」
アリアの言葉に、周囲の人々の目が驚きと喜びで輝き始めた。それまで沈んでいた空気が、一気に希望と感謝に満ちたものへと変わっていく。やがて一人が声を上げた。
「アリア様、まさか聖女様と同じスキルもちの方だっとは........あなたは我々にとって神のようなお方です…!」
その言葉を皮切りに、皆は次々とアリアに感謝と称賛の声をかけ、やがて彼女に向かって土下座をするように頭を下げ始めた。アリアはあまりの光景に戸惑いを感じながらも、彼らの期待と信頼を肌で感じ取っていた。
その時、再び頭の中に「ANAZON」のスクリーンが表示され、次のメッセージが目に入った。
「初回特典による無料の家を9軒残しています。他にも様々な物資を揃えることが可能です。魔力支払いに注意してご利用ください」
アリアはそのメッセージを見て、心の中で小さく微笑んだ。今ある資材だけでは現地調達しないと開拓は困難と思われていたが、この力があれば道具や食料、さらに拠点に必要なものを補うことができるかもしれないと感じたのだ。彼女は早速次の家を購入リストに加え、再びスクリーンに「購入」ボタンをタップした。
次々と出現する家を目の当たりにし、皆の士気は一気に高まっていった。彼らの間には、「アリア様と共にいれば、この未開の地でも安心だ」「どんな困難が待っていようと、きっと乗り越えられる」という希望が芽生え、いつの間にか開拓への恐れは薄れていった。
ルークもまた、アリアに心からの信頼と尊敬の眼差しを向け、彼女のそばで力強く頷いた。
「アリア様、貴方の力を使えば予想よりもずっと早く開拓が進むかもしれません。これからも共に、私たちをお助けください。」
アリアは微笑みながらその言葉に応え、仲間たちと共に新たな一歩を踏み出す決意を固めた。彼女の中には、前世の知識とスキルを活かし、ここで一から自分たちの理想郷を築くという確かな使命感が湧き上がっていた。




