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第32話【勇者の魂】

 グロスがマリーに向かって口を開いた。


「お前が持っているそれはスキルだ。」


「スキル……?」


 マリーが不思議そうに首を傾げた。


「昔、俺が戦った魔族の一人に、『キングボーン』という奴がいた。そいつが同じスキルを持っていてな……」


 グロスの目がどこか遠くを見るように細められ、言葉に一瞬の間が生まれる。


「今の世の中、スキルを持ってるだけで貴重な人材だ。国に目をつけられて、登用される可能性がある。それがいい場合もあるが……反対に、スキルを持つ者が他の国や悪い勢力の手に渡れば、戦争の道具として利用されることもある。」


 グロスの言葉には重みがあった。彼が戦場で経験してきた現実の残酷さが、ひしひしと伝わる。


「もし……お前がこの街にいたいのなら、このスキルのことは誰にも言うな。」


 その最後の一言には、普段のような冗談めいた軽さは微塵もなく、深い配慮と警告が込められていた。


 アリアはその言葉を受け止め、心の中で改めて考えを巡らせる。確かに、死者の魂を呼び出せるのは特別な力だ。もしもマリーがそれを無自覚に使えば、大きな災いを招きかねない。それは、彼女自身にとっても危険な状況を作り出す可能性がある。


「マリー。」


 アリアが優しく声をかけると、マリーは小さく「うん」と答えた。


「……わかった。誰にも言わない。」


 その言葉を聞き、グロスは安堵の表情を浮かべる。だが、彼の顔にはまだどこか迷いが残っているようだった。そして、ためらいながら口を開く。


「その……どうやって死者の魂は...呼び出せるんだ?」


 マリーは考えるように目を閉じ、一瞬間を置いてから答えた。


「……その人が持ってた大切なものと、その人の名前が分かれば……たぶん呼べると思う。」


 グロスは頷きながら、しばし沈黙した。その顔には迷いと葛藤が滲んでいる。そして意を決したように口を開いた。


「実は……呼び出したい魂があるんだ。やってくれないか?」


 その言葉に、アリアは目を見開いた。


「誰を……?」


 彼女はすぐに問い返した。その目は、警戒心と好奇心が入り混じった色を帯びている。グロスは答えに詰まるように少し視線を落としたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「……勇者だ。」


 その答えに、アリアは驚きと戸惑いを隠せなかった。


「勇者……?どうして?」


「自分に相談もせず、なぜ自ら命を絶ってしまったのか、どうしても聞きたいのだ。」


 グロスの目には真剣な光が宿っていた。アリアは一瞬言葉を失ったが、どうしても駄目だとは言えず、黙り込んでしまう。


 そんな彼女を見て、マリーは静かに頷き、柔らかい声で言った。


「いいよ。」


 その言葉を聞いてグロスは驚いたようだったが、すぐに感謝の表情を浮かべた。


「勇者様が大切にしていたものはある?」


 グロスは腰に下げていた木刀を取り出し、マリーに差し出した。


「これだ。この木刀は勇者様が訓練のときにいつも使っていた。とても大切にしていたものだ。」


 その木刀を見つめながら、アリアは複雑な感情を抱いた。こんな簡単に魂を呼び出してしまって本当にいいのだろうか、と心の中で問いかけたが、グロスの決意に水を差す言葉を見つけられなかった。


 グロスは木刀をマリーに渡し、低く静かな声で言った。


「勇者の名前は……カイトだ。」


 グロスのその一言に、アリアの心がざわめいた。聞き覚えのある名前だった。しかし、気のせいだと自分に言い聞かせる。マリーは静かに木刀を受け取ると、目を閉じた。そして深く息を吸い、低い声でその名前を呼びかけた。


「……カイト......来て.......。」


 その瞬間、辺りに青白い光が満ち、冷たい空気が漂い始め、薄い霧のようなものが立ち上る。その光は徐々に人の形を成していき、その中から現れたのは、透明な人間の姿――だが、その顔を見た瞬間、アリアの瞳が驚愕に見開かれた。


 現れたその姿を見た瞬間、アリアの心臓が激しく脈打った。


「嘘……そんな……。」


 そこに立っていたのは、彼女の前世で付き合っていた幼馴染、カイトとそっくりな姿をした人物だった。

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