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第10話【新たな仲間】

 ドラゴンはカレーを一心不乱に平らげると、器をそっと差し出し、「もう一杯、いただけないか?」と期待に満ちた目でアリアを見つめた。その姿があまりにも純粋で微笑ましく、アリアはついおかわりを用意しようと立ち上がった。しかし、ふと周囲を見渡したとき、護衛の者たち以外、辺りに人影がないことに気が付いた。


「…あれ? みんな、どこに行ったの?」


 アリアははっとドラゴンがここに来ることを説明していなかったことに気づいた。開拓民たちはドラゴンの姿を見て、驚きと恐怖から家々に避難してしまったのだろう。確かに、巨大なドラゴンがここに突然現れたら、誰でも恐怖を感じるのは無理もない。


 さらに、ルークの姿も見当たらない。どうやらいち早くこの状況に気づき、彼は開拓民たちに事情を説明しに行ったのだろう。自分の思慮の浅さに気づいたアリアは、少し肩を落としながらも、ルークと共に住民たちに再度説明を行うことにした。


 その後、アリアとルークは住民たちに、ドラゴンが開拓の許可をくれたこと、そして勇者との深い関わりについて語った。話を聞いた開拓民たちは、ドラゴンを説得したアリアの行動に驚きと敬意を示し、「かつてドラゴンを従えた勇者のようだ」と称賛の声を上げた。


「本当に…ドラゴンを説得するなんて、信じられません」


 住民たちの尊敬の眼差しを受け、アリアは少し恥ずかしそうに微笑んだが、内心ではその言葉に嬉しさが込み上げてきた。


 そんな折、アリアは改めて開拓民に食事を誘った。


「皆さん、その………よければ…私が作った料理を、ぜひ召し上がってみてください。今日は、『カレー』という料理を用意してあります。皆さんも疲れているでしょうから、是非食べてみてください。」


 開拓民たちは顔を見合わせながら「カレー?」と不思議そうな表情を浮かべた。彼らにとっては初めて聞く料理の名前だったが、アリアが微笑んで勧めると、次第に興味を持ち始めた。


 香り豊かなスパイスが効いたカレーが大鍋から注がれると、その場にいた皆が、食欲をそそる香ばしい匂いに引き寄せられていく。皿に盛られたカレーを前に、彼らは目を輝かせた。アリアの「どうぞ、召し上がってください」の声に促され、彼らは一口ずつスプーンを運んだ。


 その瞬間、彼らの表情が驚きと喜びで一変した。


「…なんだこれは! こんなに深みのある味わいがする料理は、食べたことがない!」


「それとこの香り…なんだか心が温かくなるようだ…」


「辛いけど、それがまた美味しい…!」


 次々とカレーを口に運び、彼らは新しい味覚の世界に浸っていった。


 しばらくして、カレーを楽しむ開拓民たちの傍らで、ドラゴンがゆっくりとアリアに近づいてきた。彼の表情は真剣で、目の奥に秘めた決意が輝いていた。


「アリアよ…改めて確認するが、お前は街を作り、勇者の名声も取り戻す協力してくれるのだな?」


 その静かな問いに、アリアも強い意志を込めて頷いた。


「はい、もちろんです。今すぐ何か出来る訳ではありませんが、街が発展したら必ずお手伝いいたします。」


 ドラゴンはその言葉をじっと聞き、やがて満足げに頷くと、静かに言葉を続けた。


「ならば、我も街づくりを手伝おう。我の力を、お前たちに貸してやろう」


 突然の申し出にアリアは驚き、


「それは大変ありがたいです、でも…この近くに貴方の大きさが住めるような家は、近くにはないですが…それでも構いませんか?」と恐る恐る尋ねた。


 すると、ドラゴンは不敵に微笑むと、「大丈夫だ、問題ない」と言い残し、その場で体が淡い光に包まれた。


「……えっ?」


 周囲が光に照らされ、ドラゴンの巨大な姿がみるみる縮んでいく。そして光が消えた瞬間、そこに立っていたのは、たくましい体つきの美しい青年だった。彼の緑の髪が風にさらわれ、その引き締まった顔立ちは、誰もが振り返るほどの威厳を放っている。彼の身にまとった服もまた、洗練されたデザインで、凛とした雰囲気が漂っていた。


「これで、大丈夫だろう。それとお前の料理は旨かったからな、よければお前の家に住まわせてくれないか?」


 驚愕の変身を目の当たりにした開拓民たちは、誰もが息を呑んでいた。彼の変身は、すべての者にとって予想外の出来事であり、その場の空気が一瞬、固まったように感じられた。


「え…えぇっ!? ドラゴンが、人に…?!」


「こんなこと…本当にあり得るのか…」


 アリアは驚きと戸惑いが混じった表情を浮かべ、目の前の彼を見つめ返した。青年となったドラゴンの整った顔立ちと、澄んだ瞳が真摯にこちらを見つめている。その一方で、自分の家に男性を招き入れることに少しの躊躇いを覚え、胸の内で一瞬逡巡する。


しかし、彼の瞳には邪気がなく、ただ純粋に一緒に過ごしたいという気持ちが伝わってくる。アリアは静かに深呼吸をし、心を落ち着かせた。


「…それなら、ぜひ私の家に来てください」と、意を決して彼の申し出を受け入れた。


その言葉に、青年となったドラゴンは満足そうに微笑み、その瞳はどこか穏やかで、まるで新たな一歩を踏み出す準備が整ったかのように輝いていた。彼の表情には、これから始まる新しい生活への期待と希望が込められており、


その姿にアリアは少し胸を躍らせるとともに、同時にどこか心が重くなるのを感じた。ドラゴンが無言で一歩近づき、彼女の隣に立つと、アリアは彼の存在の大きさを改めて感じながら、静かに息をついた。

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