ヘイムダルの角笛
これは砂塵が渦巻く世界に生まれ落ちた、1人の少女の物語。
宿命に翻弄されながらも生き抜くことを決めた、はかない命の鎮魂歌。
「解析班より各員へ伝令。解析班より各員へ。魔法陣の活性化を確認。空気中の魔力濃度が上昇中。数分後に災厄が襲来します。各員、配置についてください。」
「狙撃班、配置についた。」
「前衛各員、問題なし。いつでも行ける。」
分隊長の八雲は、静かに深く息を吸い込み、マイクを通して指示をだす。
「各員、対象を殲滅せよ。」
「了解!」
魔法陣が青白く発光し、魔力が溢れだしているのが分かる。
上空に広がる亀裂が脈打つように鼓動し、空気が震える。
暗闇の底からうねるような音を響かせ、それは襲来した。
フランツは眼を疑った。
その瞬間の映像を、現実として認識することができなかった。
大地が揺れるほどの衝撃と共に、空の亀裂から巨人が降ってきた。
見上げてようやく視界に入るほど大きく、右手には鈍器のようなものを持っている。
体にはボロ布をまとい、全身は分厚い筋肉で覆われている。
「フランツ、アンジュ、俺に続け!」
2人は副隊長の声でようやく我に返り、一歩出遅れて後を追いかけた。
「こちらカナメ、巨人型魔人種の災厄を視認。距離20m。これより作戦を開始する。」
「解析班より各員へ、巨人型の魔人は右手に鈍器のような武器を所持。角笛のような構造で、音を発する可能性。これより対象をヘイムダルと呼称する。」
「角笛であれば、吹かせるわけにはいかねぇ。フランツ、お前は右サイドから攻撃を仕掛けろ。角笛は使わせるな。俺は作戦通り、足止めと攪乱を行う。」
副隊長のカナメは状況を素早く飲み込み、アーツデバイスに魔晶石を装填する。
指示を聞いたフランツは、全速力で駆けながら覚悟を決めた。
「了解。」
刀の柄を強く握りながら、歯を食いしばる。
副隊長は素早く巨人の背後へ回り込み、右足元の地面めがけて強打を打ち込んだ。
地面が吹き飛び、足場を失った巨人はバランスを崩す。
巨人が右手を地面に付けた瞬間、すかさずフランツが手首の腱に向け剣撃を放った。
「入ったぞ!斬撃は有効。狙撃班続け!」
巨人は鈍いうめき声を上げながら体勢を立て直そうとする。
斬撃を受けた右手には深い傷跡が刻まれている。
「狙撃班、貫通弾装填。撃て!」
分隊長のリナ率いる後衛狙撃班は、一斉に射撃を開始する。
全方位から放たれた貫通弾は、巨人を肉ごとそぎ落とし、体に穴を開ける。
撃たれた衝撃でよろけながら、巨人は苦し紛れに角笛を大きく振り回した。
「私を忘れちゃ困るよ!」
アンジュは角笛の間合いに盾を構え、巨人の強打をモノともせず空中へいなした。
巨人の右手は宙へと放り出され、後ろへのけぞる。
間髪入れず、副隊長は巨人の腹部へもぐりこみ、手甲のアーツドライブが閃光を放つ。
拳は赤い光を瞬かせ、熱気をまとう。
「腹がガラ空きだぜ。」
巨人の腹部に向けて副団長の連打が入る。
赤い熱気の残像が鈍い音と共に撃ち込まれ、まるで燃える拳を叩きつけているようだ。
「いける!畳み掛けるぞ。」
フランツが刀から全力を込めた居合を放とうとした瞬間、巨人が宙へと飛び上がった。
攻撃を逃れた巨体は岩壁の上へと着地し、雄たけびを上げる。
「なに!?この連撃を浴びてなお、こんな跳躍ができるわけがない。リンベル、どうなっている!」
副隊長は通信機のマイクに向かって大きな声を上げ、頭上の巨人を睨む。
「待って、今調べてる・・・。巨人の傷口がふさがっている?まさか、自己回復?」
フランツの斬撃や狙撃班の貫通弾による傷跡は完全に修復され、副隊長の連打の跡も蒸気を上げながらみるみる治癒していく。
「何かカラクリがあるはずだ。解析班、巨人の魔力の流れを調べろ。」
「人使いが荒い・・・。私は現場向きじゃないのにぃ〜。」
リンベルは巨人の体に流れる魔力の解析を急ぐ。
キーボードが割れるような音を立て、解析機の空冷がうなりをあげる。
「角笛だ!アレは魔力の塊よ。絶えず巨人の体内に魔力を供給してる。」
「角笛がある限り治癒し続けるってことか?」
「そうなるわね。各員、角笛の破壊が最優先事項よ。」
「分隊長、俺ら前衛が時間を稼ぐ。その内にアレの準備を頼みます。我らの主砲をかましてください。」
「こちら八雲。了解した。」
分隊長は副隊長からの通信を聞くや否や、準備に取り掛かる。
分隊長が分隊長たる所以。
勝利への備えがあるようだ。
「聞いたからお前ら、前衛3人で時間稼ぎだ。我らが分隊長のお出ましに、泥付けるんじゃねぇぞ。」
副隊長は分隊長の決定打を確信し、フランツとアンジュを奮い立たせる。
「了解!」
再び巨人に照準を定め、攻撃を仕掛けようとした瞬間、解析班から通信が入る。
「総員警戒!角笛から高魔力反応!」
高台から第7分隊を見下ろす巨人型魔人種ヘイムダルは、胸を大きく反り上げて、角笛を高く持ち上げた。
「副隊長、フランツ!私の後ろへ!」
アンジュは前衛の2人を自身の背後へ急がせ、盾を構えた。
角笛から鳴り響いたのは、まるで音ではなかった。押し寄せる空気の波が荒れ狂い、衝撃波となって周囲を薙ぎ払う。
ヘイムダルの肺から角笛に注ぎ込まれた大量の空気は膨大な魔力を伴って、迫り来る。
岩肌はめくれ上がり、砂塵が吹き荒れ、一瞬にして視界は失われた。
アンジュは飛び交う岩石や砂の向きを見ながら、衝撃波を受け流す。
音や視覚、盾から伝わる感覚を頼りに、四方から縦横無尽に襲い来る衝撃波を交わし続ける。
一瞬でも気を抜けば、この嵐に晒されてしまう。
角笛の衝撃波が弱まったのを見計らい、フランツは刀の抜刀を利用して圧力を拡散。砂埃を吹き飛ばした。
ようやく広がる視界。
高台にはこちらを見下ろすヘイムダル。
通信から耳に入る激しいノイズが、被害の大きさを物語っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
初めて書いた小説です。
皆様に楽しんでいただけるような作品に仕上げたいです!
ド素人のつたない文章ですが、ぜひ、皆様のご意見・ご感想をお聞かせください。
よろしくお願いします!