13.
心の中を勝手にのぞかれて、怒らない人はいないだろう。あるいは、気持ち悪いとか、卑怯だとか、そんな私をなじる言葉がラーシュの口から出てくるのを、じっと、断罪されるような思いで待っていた。
けれど、彼はどちらもせず、「すごいな」と目を丸くして驚いた。
「エスパーみたいだ。日本は、ミステリアスだな」
「……あの、一応言っとくけど、日本で普通に起こる現象じゃないから、たぶん。――それより、怒らないの?」
「怒る? なぜ? 確かに、少し、変と思っていた。内容が合っていないこと、多かったから」
これで納得がいった、というように、ラーシュは何度も頷いた。でも、それでは私の方が納得いかない。
「……だって、だましてたみたいなものだよ。英語ができるふりしてた。本当は、勝手に心を読んでいたのに」
「それは、なぜ?」
「えっ……」
直截すぎる質問に、またも私は言葉に詰まった。いろいろ言い訳を探したけれど、結局本音しか見つからない。
「……ラーシュと、仲良く、なりたくて。英語で会話できたら、特別になれるんじゃないかって……」
そう言うと、ラーシュは微笑んだ。そして、ベンチに座る私の前にかがみこむ。
「それは、俺、怒らない。俺も、コトハが優しいから、仲良くなりたいと思った」
「でもそれは、何を考えてるか分かったから……」
「違う。コトハが英語で話そうとすること、嬉しかった。日本語、苦手だから、まだ。鳥に餌やること、一緒にやりたいと言ってくれた。同じこと、クラスメイトに言ったら、それよりカラオケが楽しい、一緒に行こうと誘われた。それも嬉しいけれど……、でも、俺、コトハの言葉、好きだった」
彼の真摯な言葉が、一つ一つ心にしみこんでいく。
「日向ぼっこの相談も、コトハ、真剣に考えてくれた。クラスメイト、おじいさんみたいと笑ったけれど」
一度、言葉を切って続ける。
「それに、コトハ、俺を助けてくれた。ダーラナホース。覚えてるか? あの時も、今日も。だから、怒るはず……、違う、一つあった」
彼は、こつんと私のおでこを小突いた。そうしながら、「めっ」と眉間にしわを寄せてみせる。
「女性が一人は、危ないだろ。……日本、こうやって怒ると聞いた」
ラーシュはそう言って、照れたように微笑した。
私は慌ててうつむいた。涙でにじんで、彼の笑顔がぼやけたからだ。
優しいのは、ラーシュの方だ。こんな時でも、私の心配をしてくれる。私は、自分のことばかり考えていたのに。
それに、彼と一緒にいて、よくわかった。
私は、ずるくて臆病だった。苦手なのだと言い訳をして、誤解されても、それを解く努力をしてこなかった。ただ諦めて、口をつぐんだ。心を閉ざして、他の人と距離を置いた。
ラーシュに対しても、そうだ。誤解されたり、嫌われたりする前に離れようとした。何も告げずに、一方的に。
でもそれは、結局できなかったけれど。




