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朝起きると、テーブルの上に、人の指の入ったボトルがおいてあった。
明け方の日差しが差し込む白い壁紙のリビングには、テーブルの上一輪挿しとそのボトル、そして朝食を食べている彼女がいて。それらは小さな違和感をのみこんで、一枚の絵画のようだった。
いつも通り食事をとる彼女の横で、プラスチックの蓋がされたガラスの容器のなかに、その人差し指はぷかぷかと浮いていた。サイズは成人男性のものほどではなく、脂肪の付き方からして、おそらく幼児のものだった。
「これ、なに?」
テーブルについてビンを指さしてエルに尋ねる
隣の彼女はむしゃむしゃと、ドレッシングまみれのレタスサラダを食べ終えた。野菜の青臭さが苦手だからといって、いつもドレッシングをどぼどぼかける。そんなに嫌いなら食べなければいいのに。
口のはしについたドレッシングをぬぐって彼女が言った。
「多分、今回の依頼品。指定された場所に乗り込んだら見つけたの」
それだけ?
「他になにも言われてないもの」
彼女がこっちに灰色の虹彩を向けた。
まあ、彼女の説明が端的なのはいつものことだった。普段どおりでなかったのは、適切な説明を挟んでくれるはずのアルの姿がリビングになかったこと。
サラダを片付けた報酬だと言わんばかりに、塩で焼いた牛肉を頬張る彼女を脇にして、いつのまにか目の前に置かれていた皿のカシューナッツをつまんだ。
「アルは?」
「寝てる。帰ってきたの朝方だったし、もうしばらく寝てるんじゃない?」
彼女の顔を見つめる。
「珍しいな。いつもならこの時間には起きて動き回ってるのに」
いつもあいつがやかましくて起きるのに。
「昨夜は忙しかったみたい。愚痴ってたわよ。
今回の情報戦ときたらひどいものだって。優秀なのが次々と死んだせいで、阿呆どもが群れをなすようになったんだってさ。」
エルが笑みを漏らしながらそう言った。
「優秀なのを次々殺しちゃっただれかさん?なにか言う事は?」
「優秀なのにあんなに無防備なのが悪い」
肩をすくめて開き直るしかなかった。