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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
Intermission
72/74

LAST Mission(1)

 崩れたコンクリートと剥き出しの鉄骨。

 そこにあるのは瓦礫の山だけであり、かつてここがスクランブル交差点として大勢の若者が行き来していた場所だったとは信じられなかった。


 東京渋谷。かつてのJR渋谷駅前であり、ハチ公像があったとされる場所には大きなクレーターが存在している。通称、グランド・ゼロ。


 1年前、自衛隊と在日米軍は東京上空に爆撃機を飛ばした。


 デッドマンたちは、ある特定の周波数に集まりやすいということが研究によって判明していた。その周波数というのは、人間の悲鳴と同じ周波数であり、デッドマンたちは人を襲い、襲われた人が上げる悲鳴によって仲間をその場に集めていたということが判明したのだ。デッドマンたちは、人を襲うべくして襲っていた。そういってもいいだろう。


 グランド・ゼロは、渋谷だけに存在するものではなかった。渋谷、新宿、六本木、秋葉原といった、かつて人が大勢集まっていた街には巨大なスピーカーが設置され、デッドマンたちを集めるための周波数の音が流され続けた。

 そして、その音によって次々と集まってくるデッドマンたち。その姿は、まるで何かのライブ会場に大勢の人が集まって来ているかのようだった。

 数千人規模で集まってくるデッドマンたち。そのデッドマンたちの頭上を三機の爆撃機が通過していく。


「空爆なんて、何の効果もないさ。ただの破壊行為にすぎない」


 明智欣也は瓦礫だらけとなった渋谷の街を見つめながら、呟くように言った。


 抗デッドマン・ウイルス薬に関しては、明智の手掛ける製薬会社であるペンタグラム社が展開していたが、その抗ウイルス薬への耐性を持ったデッドマン・ウイルスが発生したため、明智たちは後手に回ることとなってしまった。その結果、爆発的にデッドマンたちの数が増え、人類は滅亡の危機に晒されることとなったのだ。


 街にデッドマンたちが溢れ、人々はシェルターでの暮らしを強いられることとなった。シェルターの中でもデッドマン・ウイルス感染者が出たところもあり、そのシェルターは壊滅した。


 ペンタグラム社は人々から謂れのない非難を浴び、株価は暴落し、そして倒産した。ペンタグラム社が倒産してしまえば、ワクチンを製造できる会社は他になくなってしまう。そのことが人々にはわかっていなかったのだ。


 そして、世界はデッドマンたちに乗っ取られた。感染者の数が非感染者の数を上回ってしまったのだ。人類滅亡に向けたカウントダウンが始まった。そうSNSに書き込んだ者もいた。


 しかし、明智はある希望をひとつだけ持っていた。それは開発途中だった、あるウイルスの存在だった。通称、カニバリズム・ウイルス。このウイルスは、同種のウイルス保有者を襲うというものだ。マウス実験では、同じ籠の中にいれた七匹のデッドマン・ウイルスに感染したマウスのうち、一匹だけにこのカニバリズム・ウイルスを投与した。その結果、カニバリズム・ウイルスを投与されたマウスは他のマウスたちを次々に襲い、すべてを殺してしまった。またその籠の中にデッドマン・ウイルスに感染していないマウスを入れてみたところ、そのマウスは攻撃されることなかったという実験結果が得られていた。


 明智は、とあるシェルターの中で研究者たちとこのカニバリズム・ウイルスの研究を続けてきた。実験結果は得られ、あとはこのウイルスをデッドマンに投与するだけとなったのだ。


 しかし、日本政府に捨てられたペンタグラム社には、デッドマンに対してカニバリズム・ウイルスを大量投与するほどの力は残されてはいなかった。従業員や研究者たちはすべて解雇されており、明智の財産もすべて差し押さえられてしまっている状態なのだ。

 シェルターに集まった仲間たちもボランティアだった。なんとかして、元の生活を取り戻す。その気持だけで研究が続けられていたのだ。


 最後は自分の手で終わりにしたい。明智は仲間にそう告げた。

 だから、明智はこのウイルスを手に、廃墟とかした渋谷の街へとやってきた。


 空爆後でも、ここにはデッドマンたちがいる。結局、空爆など効果はなかったのだ。

 時おり、廃墟とかした渋谷の街を自衛隊の装甲車が道路を走り抜けていく姿をみたりしたが、それ以外に人間の姿はなかった。


 ネットの情報では、渋谷駅の地下道にデッドマンたちが生息しており、夜になるとそこから這い出してきて渋谷の街を闊歩しているのだそうだ。明智はそのにわかに信じがたい噂を聞き、わざわざ渋谷まで足を運んだのだ。


 路肩に停車した軽ワゴンの中で、明智は鞄の中を確認していた。その中には最後の希望ともいえるカニバリズム・ウイルスのアンプルが入っていた。


「先生、もし私がデッドマン・ウイルスに感染したら、私にカニバリズム・ウイルスを投与してください」


 助手席に座る坂本つばさは、運転席の明智の目をじっと見つめながら言った。坂本つばさはデッドマン・ウイルスの研究者であり、明智の弟子でもあった。現在、デッドマンに関する研究を続けている数少ない研究者のひとりなのだ。


 デッドマンを捕まえて、カニバリズム・ウイルスを投与する。それが今回のミッションである。

 一体にカニバリズム・ウイルスを投与すれば、その一体が別のデッドマンを襲う。そうすれば、襲われた方にもウイルスが感染し、次々とデッドマンたちにウイルスが広がっていくというわけだ。ウイルス感染したデッドマンたちは、お互いを敵とみなして殺し合う。そうすれば、勝手にデッドマンたちは滅んでいくというわけだ。


「わかっているよ。その逆の場合は、頼む」

「はい」


 明智と坂本つばさはじっと見つめ合い唇を重ねてから、車をおりた。

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