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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
終わりなき、はじまり
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Daddy(2)

 上がっていた煙の正体を知った時、ここに来るべきではなかったと藤巻謙治郎は後悔した。

 場所は山の中腹であり、ちょっとした広場のようになった平地だった。

 すでに火は消されており、その残骸だけが残されている。

 焦げの臭いとガソリンの臭いが入り混じり、鼻にツンと来る何とも言えない臭いになっていた。


 井桁型に組まれた木は真っ黒に焦げており、その中央には人間の死体と思われる炭化したものがいくつか積まれていた。おそらく、感染者の死体なのだろう。手足は何かで固定されていたようにもみえ、全部の死体が同じポーズを取っていた。


 藤巻はその井桁に組まれた木の残骸に向かって手を合わせると、念仏を唱えた。熱心な仏教徒というわけではないが、多少であれば念仏を唱えることはできた。


 周りを探索してみると、ここで数人が生活していたということがわかった。キャンプ用品と思われる、テントやテーブル、椅子といったものがそのまま残されており、ゴミなども分別して置かれていた。


 デッドマンに襲撃されたのか、それとも他のグループの人間に襲撃されたのかはわからないが、テントや椅子には大量の血痕が残されており、他にも争ったような跡があちこちに残っていた。


 少し離れたところには、マイクロバスが乗り捨てられていた。タイヤは破裂したかのように裂けており、窓ガラスが割られている状態だった。

 おそらく、ここにいた人たちはマイクロバスでここまでやって来て、ここで生活していたのだろう。しかし、そこを何者かに襲われたということかもしれない。


 もしかしたら生存者などがいるかもしれないと思った藤巻は辺りを探索してみた。

 そして、雑木林の中に入った時、首を吊った死体と遭遇した。こちらはすでに半分ほど腐っており、鳥についばまれた痕がいくつも残されている。ここは生活区域からそれほど離れた場所ではないことから、何かの見せしめとして使われた可能性もあった。

 誰かがここに来て、新たなる支配者になろうとしたのかもしれない。

 藤巻はそんな想像をして、ぞっとした。


 風が吹き、木々が揺れた。そして、吊るされたしかばねも揺れている。

 こんな場所に長居するべきではない。藤巻はそう判断して、先ほどのマイクロバスがあった場所まで引き返した。

 日が沈みかけていた。あまり死体がある場所には居たくはなかったが、夜の山を移動することの方が危険だった。


 仕方なく、その夜はマイクロバスの中で過ごすことにした。

 割れている窓から中に入り込むと、汚れていない場所を探して腰をおろした。

 派手に争い合ったのか、バスの椅子はあちこちが破れたりしており、ガラスの破片も飛び散っていた。

 明かりは使わなかった。もし、この近くにまだ襲撃者がいるとするのであれば、明かりを頼りに襲われる心配があったからだ。


 その日の夕食は、缶詰にした。火を使わない場合の食料はいくつかリュックサックの中に入っている。この缶詰は東京を出る時に、ディスカウントストアから拝借してきたものだった。

 夕食を食べ終え、少しウトウトしていると、遠吠えのようなものが聞こえた。

 それはデッドマンの遠吠えだった。時に奴らは、野生化した動物のような行動に出る。これがどういうことを意味しているのかは、藤巻にはわからなかった。


 かつて、自分もデッドマンだった。その頃の記憶はほとんど残っていない。ターンオーバーと呼ばれる現象により、藤巻は体内のデッドマン・ウイルスを駆逐し、正常な状態へと戻った。しかし、ターンオーバーを果たした藤巻の肉体は通常の人間とは異なる状態となっていた。デッドマンに対する攻撃性。そして、異常な身体能力を身に着けた。元々、武術を学んでおり体力には自信のある方だった藤巻はターンオーバーを果たしたことによって、超人的な肉体を手に入れたのだ。


 物音を立てないようにしながらマイクロバスから出た藤巻は、サムライのように日本刀を腰に差すと闇の中を歩きはじめた。

 不思議なことにデッドマンがどこにいるのかは、闇の中であってもわかっていた。

 例の吊るされた死体。そこにデッドマンが二人いた。ひとりは髪の長い女のデッドマンであり、ボロボロになった服は血で汚れている。もうひとりは男だったが、こちらは頭が半分ほど陥没した状態であった。


 藤巻はふたりのデッドマンに近づいていくと、刀をゆっくりと抜いた。

 闇の中に見えるのは、月明かりに反射した藤巻の霞切かすみきりだけだった。


 デッドマンたちが動いた。

 そう思った時には、すべてが終わっていた。


 藤巻は霞切を鞘に収めると、マイクロバスへ戻るために元来た道を歩きはじめる。

 先ほどまでデッドマンたちが居た場所には、首の無いデッドマンが二体転がっていた。


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