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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
終わりなき、はじまり
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Daughters(3)

 朝日が顔に当たったことで目が覚めた。

 まだ自分は生きている。そのことを確認した藤巻玲奈はテントのチャックを開けて外に出た。空気は冷たかった。


「おはようございます」

 焚火のところで見張り番をしていた小鳥に声を掛ける。


「おはよう、玲奈ちゃん。コーヒー飲む?」

「ええ。いただきます。その前にちょっとトイレへ」

 玲奈はそう言うと、誰もいない茂みの方へと入っていった。


 ホテルを出て十六日目の朝を迎えていた。ロードバイクでの旅は思っていたよりも順調で、途中で見つけたディスカウントストでキャンプ用品を手に入れたり、少し前まで営業していたパン屋で日持ちしそうなパンを手に入れたりとしながら、なんとか生き延びている。


 もちろん、危険な目にもあった。デッドマンはもちろんのこと、生存者たちに襲われることもあった。彼らも生きるために必死なのだ。お互いのために協力し合うべきだと話すものもいれば、自分が生き残るために相手のモノを奪うという選択肢を選ぶ人間もいるのだ。


 そんな時に玲奈を救ったのは、父である藤巻謙二郎が御守り代わりにと十五歳の誕生日に渡してくれた小刀だった。その小刀は持ち歩けばもちろん銃刀法違反になる代物であり、普段は玲奈の部屋に置かれていた。

 しかし、あの日、小鳥が車で迎えに来た時に小鳥はその小刀を持ってきてくれていたのだ。小鳥は玲奈の小刀の他に、自分用の木刀や模造刀、あとは父がコレクションしていた日本刀をいくつか持ってきていた。

 PSSの管理下に入った時に没収されるかと思っていたけれども、PSSは女三人が刀を持ち歩いているとは思わなかったらしくスルーされていた。


 用を足し終えて戻った玲奈は小鳥からステンレス製のマグカップに入ったコーヒーを受け取り、見張り番を小鳥と代わった。

 見張りは交代しながら響も含めた三人で行うようにしていた。きょうの当番は小鳥であり、小鳥にはこの後三時間ほど仮眠を取ってもらう予定だ。


 リュックサックの中には、まだ数日分の食料となる缶詰が残っていた。

 シーチキン、鯖缶、コーン、焼き鳥など一応バリエーションは色々とある。

 別の袋には米が入っており、その米も飯盒はんごうを使えば炊くこともできる。


 向かう先は決まっていなかった。

 ただ時おり、携帯ラジオが電波を受信して避難者たちのコロニーがあるという情報が流れたりするので、そういったコロニーに入るのもありかもしれないと玲奈は考えはじめていた。


 この旅の目的。それは何なのだろうか。

 もう、戻れる場所はない。玲奈たちの住んでいた東京の街は壊滅したのだ。

 では、どこへ行けばいいのか。安全だとされていた場所は、どこも安全ではなくなっている。あのPSSの駐屯地でさえ、PSSが撤退してしまうほどだ。関西に行けばまだ大丈夫な場所があるという情報もあった。しかし、その情報もどこまでが本当なのかはわからなかった。


 しばらくすると響がテントの中から出てきた。頭はねぐせでボサボサになっている。


「おはよう、響。コーヒー飲む?」

「……」

 まだ寝ぼけているのか、響は無言でうなずくと大きくあくびをしてフラフラと茂みの中へと入っていった。


 この生活に慣れてきたとはいえ、ゆっくりと休めたことが無いというのが現実だった。お互いが交代しながら睡眠時間を取っているが、実際にぐっすりと眠れているわけではない。いつデッドマンやおかしな気を起こした連中に襲われるかもしれない。そんな恐怖心がどこかにあった。


「向こうの山からさ、煙が上がっていたよ」

 戻ってきた響が茂みの向こう側を指さして言う。


 玲奈は響にコーヒーの入ったマグカップを渡すと、その煙を確認するために茂みの中へと入っていった。


 その煙は、山の中腹辺りからあがっていた。火事などで燃えているというよりも、誰かが焚き火をしているか、それとも狼煙のろしとして使っているのかといった感じの煙だった。


 玲奈は首から下げていた望遠鏡を覗き込み、その煙の出ている下を見ようとする。しかし、そこは木々で覆われてしまっており、どんな状況なのかは見ることが出来なかった。


 きっと、あそこに人がいる。

 デッドマンたちは火を使うことはできなかった。デッドマンになると知能が著しく低下するのだ。一説によれば、デッドマンウイルスは人間の脳を支配して、同じ人間を襲わせるように作られているという話だ。そのため、デッドマンウイルスに一度感染してしまうと人間を喰らうということ以外に脳が使われなくなってしまうということだった。

 どこまでが本当の話かはわからないが、その話の信憑性もそこまで低くはないのではないかと玲奈は思っていた。


「確かに煙があがっていたね」

 焚き火のところへと戻ってきた玲奈は響に言う。


「もしかしたら、向こうもこっちの焚き火の煙に気づいているかもしれないね」

「それはあるかもしれない。でも、ウチらは毎日移動しているから、向こうがこっちの場所を見つけても来る頃には、ウチらも移動しちゃっているだろうし」

「じゃあ、こっちから行ってみる?」

「でも、何者かわからないよ。もしかしたら、危ない人たちかもしれないじゃん」

「その時はやっつけるしか無いでしょ」


 響は笑いながらパンチを繰り出す真似をしてみせた。

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