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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
終わりなき、はじまり
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Daughters(2)

 二階のロビーに集まったのはホテル内に残っていた十数人の民間人だった。

 PSSの人間は既に全員撤退しており、このホテル内には民間人しか残されていなかったのだ。


 並べられたリュックサックの中には、小分けにされた食料が入っていた。これを1グループにひとつずつ配り、ここから立ち去ろうというのがリーダーを務める人間の考えであった。

 リュックサックの数は、人数に対して明らかに少なかった。残りの食料もこれしかなかったということなのだろう。


「ホテルに最後まで残りたい人間は残ってもいいし、何処か別の場所へ行きたい人間は行ってもらってかまわない」

 元ホテルの従業員だったリーダーはそう言うと、深くため息をついた。


「別の場所に行く手段は?」

 中年の男が手をあげて質問をした。男は妻と中学生くらいの子どもを連れていた。


「ガソリンが半分ほど入っているホテルの送迎用のワゴン車が二台ある。それを使ってもらって構わないが、道路の状況がどのようになっているかは私にもわからない」

「リーダーは行かないんですか?」

「私はこのホテルに残ることを選択するよ。もう、どこにも行かない」

 そう言ってリーダーは寂しそうに笑った。


 リーダーに賛同する人、車でどこか別の場所へ向かう人、他の移動手段を見つけるために徒歩でこのホテルを出る人と人々は選択をしていった。


「わたしたちはどうするの、小鳥さん」

「移動した方がいいと思う。玲奈さんと響さんは、どう思う?」

「わたしは小鳥さんに賛成。響は?」

「わたしも。ただ、このホテルを離れる前に武器になるようなものを手に入れておきたい」

 響はそう言うと、辺りをキョロキョロと見回した。

 ここは治安大国といわれた日本である。ゾンビ映画やゲームのように拳銃などが簡単に手に入るような場所ではない。


「三〇分後に出発するんで、それまでにまたロビーに集まってください」

 運転手を買って出た若い男性が小鳥たちに告げた。


 三人はうなずくと、出発するための準備に取り掛かることにした。

 玲奈と響はふたりで厨房へと向かった。厨房であれば、包丁やナイフといった武器になりそうなものが手に入るだろうという考えがあったのだ。

 小鳥はホテルの受付カウンターにある周辺のガイドブックなどを見て、次はどこへ行けばよいかをシミュレーションした。


「おい、何を考えているんだ!」

 誰かの怒鳴り声が聞こえた。

 驚いて振り返った小鳥が見たのは、二階エントランスから走り去っていく一台の白いワゴン車の姿だった。


「あの野郎、ひとりだけで逃げやがった」

 白髪頭の男性が、憎しみを込めた目で去っていくワゴン車を睨みつけていた。


 ひとりで車に乗って逃げて行ってしまったのは、先ほど運転手を買って出た若い男性だった。すでに小鳥たちのリュックサックは車の中に積んでおいたため、食料の入ったリュックを持ち去られたということになる。

 それは隣で怒っている白髪頭の男性も同じだったらしく、口汚い言葉で若い男性のことを罵っていた。


「どうかしたんですか?」

 戻ってきた玲奈と響が小鳥に聞いてくる。


 小鳥は先ほどあった出来事と、食料と移動手段が無くなってしまったことをふたりに説明した。


「仕方ないですね……」

 諦めたように玲奈が言う。

 響は何かを考えるような顔をしていたが、何も言葉を発しようとはしなかった。


 車は二台あったが、もう一台の方はすでに出発してしまっているため、乗れなかった人々はこのホテルに取り残されたということになる。


「おい、どうするんだよ」

 そんなことをしても無駄だというのに、白髪頭の男性は誰彼構わずに当たり散らしている。


「あ……」

 突然、響が声を上げた。


「なに、どうしたの、響」

「これ。これを使おうよ」

 響が小鳥の持っていたパンフレットの束を指差す。

「え?」


 小鳥は自分の持っていたパンフレットを机の上に置いた。それは先ほど受付カウンターで見ていたパンフレットだった。

 そこには、レンタルバイクという文字とロードバイクと呼ばれる種類の自転車の写真が載っていた。


本気マジで?」

 玲奈の言葉に響は無言でうなずく。


 もはや背に腹は代えられない。まさにその言葉が当てはまる状況だった。


「ちょっと聞いてくる」

 響はそう言うとパンフレットを持って元ホテルの従業員であるリーダーのところへと向かっていった。

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