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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
終わりなき、はじまり
65/74

Ghost Town(4)

 なんなんだ、この人。

 鉄パイプを片手にデッドマンたちを次々に片づけていく藤巻謙治郎の姿を見たタケミチは、藤巻謙治郎に対して恐怖すら抱いていた。


 藤巻謙治郎は、フロアに集まっていたデッドマンたちを見つけると、鉄パイプを振り回し自らデッドマンたちの群れの中へと飛び込んでいった。

 血や肉片が飛び散り、次々とデッドマンたちが倒れていく。その時の藤巻の姿はまさに狂戦士であり、血に飢えた狼のようであった。


「とりあえずは、渋谷を脱出しなきゃならないねえ」

 フロアにいたデッドマンたちをすべて倒した藤巻がタケミチに対して言う。


 デッドマンの返り血を浴びても平然としている藤巻の姿は、まさにバケモノであり、どちらが本当のバケモノなのかがわからなくなってきていた。


 マネキンが着ていた服で、顔などについたデッドマンの返り血を拭った藤巻は、外に出るためのドアを探す。


「あ、あの……」

「どうしたんだい?」

「俳優の藤巻謙治郎さんですよね?」


 タケミチの言葉に一瞬、藤巻は黙ったかと思うと、急にバリトンボイスで笑い声を上げた。


「いやー、まいった。まいったなあ。確かに私は俳優業をやっていたかもしれないねえ。でも、いまはスクリーンの仕事おろかバラエティ番組にすらも出ていないよ」

 藤巻は頭をボリボリと掻きながらいう。


「ふ、藤巻さんは、渋谷で何をしていたんですか」

「そりゃあ、決まってるじゃないか。狩りだよ、狩り。デッドマン狩りさ」


 藤巻はそう言うと、低く響きのある笑い声を再び発した。


「か、狩り……」


 一部の地域では、増殖するデッドマンたちに対して反転攻勢に出ているところもあるという話は聞いたことがあった。しかし、それは警察や自衛隊の力を借りての話だ。一個人で反転攻勢に出ているという話など聞いたことも無い。

 だが、藤巻を見ていると、それがひとりで出来てしまうのではないかと思わされるところがあった。


「渋谷にはね、大勢のデッドマンが集まっているんだ。やつらは、昼間は地下道とかに入って身を潜めていて、夜になると出てくるんだよ。だからね、夜に狩りを行うのさ」


 その藤巻の言葉を聞いて、昼間の人気ひとけの無い渋谷の街をタケミチは思い出していた。そうか、やつらは地下にいたのか。でも、なぜ藤巻はデッドマンたちを狩っているのだろうか。


「どうして、藤巻さんはデッドマンを狩るのでしょうか」


 自分が動画クリエイターであることを思い出し、インタビューするかのように藤巻に話しかけた。


「どうして?」

 ギロリと睨まれた。それは時代劇で藤巻が悪代官をやった際に見せた表情そのものだった。たしかあの時の役では、無慈悲に町民を斬り殺していたはずだ。


「どうしてだろうねえ。それは私にもわからないんだよ。そこにデッドマンがいるから……そんな感じかな」

 そう藤巻は言うと、ワッハッハッハとまるで何かの役を演じているかのように笑ってみせた。


「渋谷を出たら、どこへ向かうんですか」

「そうだな……。どこがいい?」

「え?」

「東京からは自衛隊もほぼ撤退しているし、PSSもパトロール隊が残っているだけだ。箱根の山を越えれば安全圏だという噂もあるけれど、どうなんだろうねえ」

「たぶん、それはデマです」

「ほう?」

「俺はSNSで渋谷が安全地帯だっていう情報を見て、渋谷にやってきたんですよ」

「なるほどね。じゃあ、君はどこからやってきたんだ?」


 藤巻はその太い眉をクイっと片方だけ器用に持ち上げて、タケミチに聞いた。


「福島です。常磐道を自転車で」

「ほう。福島はどうなんだ?」

「ダメです……」

 タケミチの脳裏に福島の市街地がデッドマンたちに占領されて行く様子が蘇ってきた。


 福島にはPSSも自衛隊も来てはくれなかった。唯一、デッドマンたちの相手をしたのは福島県警だった。しかし、県警の力ではどうにもならず、大半の県民が他県に移動した。東京へ向かうバスも出たが、いまの東京を見る限りではあのバスに乗った人たちはどうなってしまったのかはわからなかった。


「なるほどねえ。私は自分の目で色々なものを見てきた。関東近県はほぼ全滅している。PSSも撤退戦しているだけで、頼りにならないのが現状だな」

「そうなんですか……。藤巻さんはどこへ行こうとか考えてはいないんですか」

「私か。私はデッドマンがいる場所を求めている。……というのは、冗談で人を捜しているんだよ」

「どなたをですか?」

「娘さ」


 藤巻はそう言うと、どこか遠い目をして見せた。

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