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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのおわり
60/74

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 三人目のデッドマンを処理したところで、藤巻は我に返ることができた。

 足元には元デッドマンであった《《モノ》》が転がっている。

 これは自分がやったのか。

 あまりにも凄惨な光景に藤巻は、一刻も早くこの場を立ち去りたいと思った。

 少し離れたところに、警備員が倒れていた。この警備員はデッドマンに襲われながらも、デッドマン化しなかった人間であった。ただ、すでに息を引き取っている。

 警備員の胸ポケット。そこにあったカードキーを抜き取ると、藤巻は歩き出そうとした。しかし、ふと立ち止まり、自分の格好を見直した。デッドマンの返り血で汚れた入院患者用のパジャマで、靴は無く裸足。この格好でいつまでもうろつくというのも考えものだ。

 じっと警備員のことを見下ろしたあと、藤巻は手を合わせ、何やら念仏のようなものを唱える。


「よし。では、お借りしますぞ」


 独り言をつぶやき、藤巻は警備員の服を脱がせた。

 サイズは少し小さめだったが、着れないことはなかった。

 脱いだ服は警備員の身体に掛けてやる。それがせめてもの償いであった。


 着た道を戻り、地下駐車場を抜けると、再び階段へとやってきた。

 先ほど開けることができなかった、ドア。そのドアの脇にあるカードリーダーに、警備員から拝借したカードキーをかざす。

 ピッという短い電子音が聞こえ、扉のロックが解除される音がした。

 藤巻はゆっくりとドアノブを回し、扉を開ける。

 扉の向こう側。そこには下に降りるための階段が存在していた。


「まだ、下があるのか」


 独り言をつぶやきながら、藤巻は階段を降りていく。

 警備員から拝借したゴム底の靴は足音を消すのにちょうど良く、また足裏への衝撃も吸収してくれて、かなり心地が良かった。


 また揺れた。

 そして階段の下の方から、地響きのような音が聞こえてくる。

 やはり、この下に何かがあるようだ。

 階段の手すりの間から下を覗き込んだが、ずっと下まで階段が続いているのが見えるだけで、それ以外には何も見つけることができなかった。


「結局は行かなければならないのか」


 揺れが収まるのを待って、藤巻は再び階段を降りはじめた。

 しばらく階段をおりていくと、踊り場に再び出た。そこには左右に2つの扉があり、どちらにも電子キーで解錠する装置が取り付けられている。

 藤巻は右側のドアにカードキーを当てて扉のロックを外すと、ゆっくりとドアを開けた。

 そこには長い廊下が続いていた。非常用電源に切り替わっているのか、廊下は薄暗い明かりのみがついており、先の様子はよく見えなかった。

 廊下を進んでいくと、うめき声のようなものが聞こえてきた。

 警戒をしながら藤巻は廊下を歩く。


「た、助けてくれ……」


 うめき声の主。それは廊下に倒れた白衣の男だった。


「大丈夫か」

「助けてくれ」

「何があった?」

「あいつが……あいつが……」


 男はうわ言のようにいう。


「あいつとは誰なんだ」

「タスケテクレ」


 男はそう言ったかと思うと、藤巻の腕に噛みつこうとしてきた。

 藤巻は慌てて飛び退く。

 男はデッドマン・ウイルスに感染してしまったようで、徐々に体がデッドマン化していった。


 人がデッドマン化するところを初めて見た藤巻は震えが止まらなかった。

 男は体を大きくのけぞらせ、自分の意志では到底できなそうな動きをする。関節が普通では考えられないくらいに逆方向に曲がったかと思えば、目の玉が濁り、顎が外れてしまうのではないかと思えるくらいに口を大きく開ける。


 デッドマン化した男は藤巻に襲いかかってこようとしたが、それは出来ない状態にあった。男の下半身は何かに引き裂かれたかのように潰されており、上半身と下半身が離れた状態となっていたのだ。上半身の腹部からは赤黒い内臓がはみ出している状態であり、上半身だけでズルズルと這い寄ってこようとする。


「おい、あいつとは誰なんだ」


 藤巻はデッドマン化した男に問いかけたが、男は藤巻の言葉などは理解できるはずもなく、ただただ藤巻に噛みつこうと必死に体を動かすだけだった。

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