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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのおわり
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Turn Over(3)

 病院の周りは、背の高い壁に囲まれている。人の背丈の倍はある高さの壁は、外から敷地内の様子を見えないようにするために設置されているような感じだった。

 出入口は数か所しかない。それは以前、病院の案内図で見ていたので知っていた。ただ、記憶にある病院の出入口がある場所からは、黒煙が上がっているのが見えていた。

 藤巻がその出入口に近づいた時、壁にダンプカーが突っ込んでいるのが見えた。ダンプカーは炎をあげながら燃えている。おそらく、そこから反ワク戦線が強行突入をしたのだろう。

 近づいていくと、PSSの警備員がふたりほど倒れているのがわかった。ふたりとも頭を撃ち抜かれており、すでに死亡していた。

 藤巻がその警備員のことを覗き込んでいると、すぐ近くから低いうめき声のようなものが聞こえてきた。

 聞き覚えのあるそのうめき声に、藤巻は慌てて顔をあげる。

 デッドマンだ。

 最悪なことに、ダンプカーが突っ込んで壊された入口からデッドマンたちが病院の敷地内へと入り込んできていた。


 突然、藤巻の身体の中で何かが発火したかのように熱くなった。

 気づいた時には、藤巻はデッドマンたちに襲い掛かっていた。

 握りしめた拳でデッドマンの顔面を殴り、裸足のままの足でデッドマンのことを蹴り上げる。元々、藤巻はアクション俳優であると同時に、家に代々伝わる古武術を学んでいた。そのせいもあって、戦闘本能のようなものは備わっていた。

 しかし、ここまで無意識に動いたのは初めてである。何が、藤巻を動かしているのか。それは、ターンオーバーのせいなのかもしれない。ターンオーバーは、デッドマン・ウイルスが裏返る。そして、デッドマンたちのことを敵と見なすのである。

 このことを藤巻は、知っているわけではなかった。まだ研究者たちの間でも、噂程度にしか広まっていないことなのだ。


 藤巻は次々とデッドマンたちを倒していった。デッドマンたちも藤巻を敵とみなしたらしく、藤巻に襲い掛かっていく。

 落ちていた鉄パイプを手に取ると、藤巻は殺陣をするかのように次々にデッドマンたちをやっつけた。


 我に返った藤巻が周りを見回すと、そこにはデッドマンたちが転がっていた。どのデッドマンも頭をしっかりと潰されており、二度と立ち上がってくることはなかった。


「私がやったのか……」


 デッドマンたちの返り血を浴びた手を見つめながら、藤巻は呟いた。

 大きな爆発音が聞こえた。その方向へ目をやると、病院の入口に突っ込んでいたダンプカーが爆発をして炎をあげていた。どうやら、ガソリンに引火したようだ。

 再び爆発が起きた。その爆風によって藤巻の身体は吹き飛ばされた。

 地面を転がるようにして吹き飛ばされた藤巻が辿りついた場所は、病院の職員用入口だった。

 また、病院の中へ逆戻りか。そう思いながらも、藤巻は立ち上がると通用口から院内へと入っていった。

 院内はあちこちが壊されている状態だった。反ワク戦線が襲撃したためなのか、それとも先ほどのような爆発のためなのかはわからないが、めちゃくちゃに破壊されている。

 しばらく院内を歩いていて、藤巻はおかしなことに気づいた。

 病院であるにもかかわらず、患者には一度も会っていないのだ。

 ここはデッドマン・ウイルス感染者たちを治療するための病院だと聞いていた。

 しかし、その感染者たちの姿はどこにもないのだ。

 一体、どういうことなのだろうか。

 時おり、倒れているPSSの武装警備員や反ワク戦線と思われる人間の姿はあった。また、白衣を着た病院職員と思われる人間もいた。どれも、すでに息は無く、死んでいる。

 彼らは何のために殺し合いをしているのだろうか。藤巻には、それがわからなかった。


 地響きのような音が聞こえた。

 遅れるようにして建物が揺れ、すでに前の爆発で亀裂が入っていた個所などが崩れ落ちる。

 地震だろうか。藤巻は足を止めて、揺れが収まるのを待つ。

 揺れは数秒続く。立っていられなくなるほどの揺れではない。

 ただ、揺れが長い。

 下の方から、ズズズズズという音を立てながら揺れるのだ。

 この病院の地下に何かがあるということなのだろうか。

 藤巻は、ふとそんなことを思った。

 揺れが収まったため、藤巻は歩きはじめた。格好はいまだに病院のパジャマで裸足という姿である。


 せめて履物だけでもどこかで手に入れたい。そんなことを思いながら院内を歩いていると、階段を見つけた。

 上に行くか、下に行くか。藤巻は階段の踊り場で腕組みをしながら考えていた。


 その時、またあの地響きがした。

 ズズズともゴゴゴとも受け取れるその音は、やはり階段の下から聞こえてくる。

 地下に何があるというのだろうか。

 藤巻は自分の好奇心の強さを呪った。普通の人間であれば、そんなところを見に行きたいとは思わないはずである。だが、藤巻はその好奇心を抑えきれなかった。

 以前、番組の企画でアマゾンに存在するという幻の野人を追いかける探検隊のようなものをやったことがある。あの時は、現地のコーディネーターと称する番組が用意した外国人タレントと共にアマゾンの観光地となっている場所をまわっただけだったが、あの番組の企画は藤巻の好奇心からはじまったものだった。

 昔から、気になることに対する好奇心は抑えきれないのだ。

 もし、そこに危険があるとわかっていても、藤巻は首を突っ込んでしまう。

 藤巻は、そういう男だった。

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