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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのおわり
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Turn Over(2)

 また銃声が聞こえた。今度は近い場所だった。

 藤巻は、どこか隠れられる場所を探しながら走った。


「動くなっ!」


 突然、背後から声がした。女の声だ。

 振り返ると、全身黒ずくめの人間が立っていた。

 黒のヘルメットとフェイスガード、バトルスーツ、そして拳銃をこちらへと向けている。


「ちょっと待ってくれないか」


 藤巻はそう言いながら手を挙げて見せる。


「私はデッドマンじゃない。それは見ればわかるだろう」

「黙れ。動くなと言っているんだ」


 女は怒ったような口調でそう言うと、拳銃の狙いを藤巻に定めようとする。

 バトルスーツの胸にはPSSというロゴが入っており、彼女がPSSの武装警備員であるということがわかった。


「落ち着いてくれ。危険なものを私は何も持っていない。病院が爆発したんで逃げて来たんだ」

「本当か。そう言って、やられた仲間を大勢見てきたぞ」

「誰がそんなことを」

「反ワク戦線の連中だ」

「反ワク戦線?」

「反デッドマン・ウイルス・ワクチン戦線だよ」


 反ワク戦線とは、ペンタグラム社が開発したデッドマン・ウイルス・ワクチンに反対する団体のことだった。元々は得体の知れないワクチンを打てるわけがないといった反対デモなどを行うだけの組織だったのだが、ペンタグラム社が武装警備会社であるPSSを導入するようになったと同時に、反ワクチン団体も武装するようになっていった。その結果、反ワク戦線と呼ばれる武装集団が結成され、各地でペンタグラム社のワクチン接種会場を襲ったり、PSSと小競り合いを続けていた。


「もう一度言う、私はこの病院にいたんだ。反ワク戦線の人間ではない。ここは、ペンタグラム社の病院だろう」

「そうだ。だが、この病院に入院していたということは、ウイルス保持者である可能性もある。悪いが、あなたを拘束させてもらう」


 ウイルス保持者。その言葉に藤巻は反論できなかった。確かに、藤巻はウイルス保持者である。それどころか、デッドマン・ウイルスに侵されて入院していたのである。


 女が手錠のようなものを取り出し、藤巻に手を出すようにと指示した時、どこかでまた爆発音が聞こえた。


 藤巻は女の身体にタックルを仕掛けるかのようにぶつかっていった。

 あまりにも突然のことに、女は無防備なまま、藤巻に押し倒される。


 次の瞬間、銃声が聞こえた。

 藤巻には見えていた。数十メートル先から女のことを狙っている人物がいたことに。

 普通であればわかるわけがなかった。

 しかし、藤巻にはわかったのだ。まさか、これもターンオーバーの影響だというのだろうか。


 藤巻は女のことを抱きしめるようにしながら転がり、建物の影に隠れた。

 断続的に銃声が聞こえる。

 そして、その銃声はだんだんと近づいてきていた。


「おい、大丈夫か」


 藤巻が声を掛けたが、女は気を失っている状態だった。

 銃は使ったことが無かった。

 役者として演じる役でも拳銃を持った役はやったことがない。あるのは、サムライだったり、素手で相手を倒す役ばかりだった。

 手元に銃はあるが、どうやって使うのかもわからない。


 人の気配がした。

 顔をあげると、すぐそこに自動小銃を構えた若い男が立っていた。


「動くな。そのPSSの女をこちらに渡せ」


 どうやら、この男は先ほど言っていた反ワク戦線の人間のようだ。


「断る……と言ったら?」


 藤巻はそう男に告げてから、まるで台詞のようだと思った。

 だったら、お前も死ね。きっと、スクリーンの中であれば男はそう言って、こちらに銃口を向けるであろう。そうしたら、その銃口を廻し蹴りで蹴とばし、銃口が逸れたところで男のことを殴ってやっつける。そんな脚本のはずだ。

 しかし、現実は違っていた。

 男は台詞を言うことなく、銃口をこちらに向けて、トリガーに指を掛けようとした。


 すべてがスローモーションのように見えていた。

 そして、藤巻の動きは以前よりも速かった。

 男に体当たりをすると、銃口を自分から逸らし、そのまま一本背負いで男のことを地面へと叩きつける。

 まるでカエルが地面に叩きつけられた時のような声が男の口から出た。

 男のことを見ると、男は地面に叩きつけられた衝撃で失神していた。


「まいったねえ……」


 藤巻はそう呟くと、倒れている男から銃火器などをすべて取り上げて、女の持っていた手錠を掛けた。そして、女の方も銃火器などをすべて取り上げて、同じように手錠を掛けておいた。


「さて、どうしたものかな」


 また藤巻は呟くと、二人のことをそのまま放置して、歩きはじめた。

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