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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのおわり
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Run away(3)

 教室から飛び出したふたりは、中央玄関へと向かった。

 途中、廊下で何人ものデッドマンたちに遭遇したが、他の生徒が襲われていたため、玲奈たちは襲われることなく、その横を素通りすることが出来た。

 本当ならば、助けたかった。しかし、いま助けたりしていれば、逆に自分たちが襲われることとなるだろう。だから、無視するしかなかった。

 そんな中でも、唯一助けた生徒がいた。

 ちょうど階段の踊り場で、体育教師の森末に襲われていた男子生徒だった。

 玲奈は後ろから膝カックンの要素でローキックを森末に入れると、膝から崩れたところに響が飛びヒザ蹴りを森末の後頭部へ入れた。

 後ろからの不意打ちを受けた森末の体は転がるようにして階段を落ちていった。


「ざまあ」


 玲奈と響はハイタッチをした。

 普段から、森末のことは嫌いだったのだ。いつも怒鳴り散らして生徒たちを威嚇し、機嫌の良い時はセクハラをしてくる最悪の体育教師だったのだ。

 トドメと言わんばかりに、玲奈は階段を数段抜かしで飛び降りると、森末の顔の上に着地してやった。


「あ、こいつ最後の最後までセクハラしてやがるよ」


 顔面を踏みつけられた森末は下から玲奈のスカートの中を覗き込むような形となっていたが、踏みつけられたときの衝撃で両目は外へと飛び出して行ってしまっていた。


「さあ、急ごう」


 玲奈と響は走った。

 中央玄関から飛び出すように外に出たところで、玲奈は足を止めた。


「ちょ、ちょっと、何?」


 あまりに急激に玲奈が足を止めたため、後ろを走っていた響は玲奈の背中にぶつかってしまった。


「最悪……」


 そこにいたのは、玲奈の元彼サトルだった。サトルはすでにデッドマン化しており、同級生と思われる男子生徒の顔に噛み付いていた。

 すぐにサトルは玲奈の存在に気づき、こちらへと向かってきた。


「どうする、玲奈」


 響が玲奈に問いかける。

 サトルは空手部の主将を務めていた。デッドマンになっても運動神経は落ちないというから、他のデッドマンたちのようには行かないだろう。


「きょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 サトルが突然叫び声を上げる。全く持って意味不明な叫び声だった。

 玲奈と響は、その様子が恐ろしくなり、後退りをした。

 よくわからないが、サトルは空手の形のような動きをはじめる。


「きょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 そして、また叫び声。

 なんなんだ、これ。玲奈はそう思いながらも、いつサトルがこちらに襲いかかってくるかわからないので、警戒を解かなかった。

 サトルがこちらを向いた。しっかりと目が合う。

 黄色く濁り、血走った目。瞳孔は開いてしまっている。

 もしかしたら、サトルはデッドマンになる前の記憶がまだ残っているのではないだろうか。そうだとしたら、ヤバいかもしれない。玲奈は背中に嫌な汗をかいていた。

 サトルと別れた理由。それはサトルには明かしてはいなかった。ただ一方的に玲奈がフッたのだ。サトルはどうして別れなければならないのかと、しつこく玲奈に聞いてきた。だけれども、玲奈は最後までその理由を明らかにはしなかった。まさか、サトルという人間に飽きてしまったからなんて、本人に言えるわけがない。付き合っていたのは三ヶ月だけである。その三ヶ月間で、玲奈はサトルに飽きてしまっていたのだ。


「レェニャァァァァァァァ!」


 サトルが叫んだ。たぶん、玲奈の名前を叫んだのだろう。

 あまりの迫力に玲奈は動けなかった。

 そして、サトルが玲奈に飛びかかってこようと全身の筋肉を収縮させる。それはまるでバネが飛ぶ前に縮むような感じであった。


 次の瞬間、猛スピードでやってきたメルセデスのGクラスによってサトルの体は撥ね飛ばされた。


「おまたせ、玲奈ちゃん。乗って」


 運転席の窓が開き、小鳥明菜が顔をのぞかせた。まるでサトルのことを撥ねたことなどなかったかのように小鳥は平然としている。

 玲奈と響は急いで後部座席に乗り込んだ。


「シートベルトしてね。飛ばすから」


 ルームミラーで後ろの二人に視線を送りながら小鳥は言うと、タイヤを鳴らしながらメルセデスを急発進させた。

 目の前にはサトルが立っていた。

 そして、サトルは再び撥ね飛ばされた。


 町のあちこちから煙が上がっているのが見えた。

 しかし、緊急車両のサイレンはまったくといっていいほど聞こえてこない。

 この光景は何年か前にも見たことがある。それはデッドマン・ウイルスが世界中にまん延した時に見た光景と一緒だった。

 道路のあちこちに車が乗り捨てられていた。中には車の中にデッドマン化した人間が閉じ込められていたりもする。おそらく、運転中に発症してしまったのだろう。

 猛スピードで小鳥の運転するメルセデスは道路を駆け抜けていった。スピードメーターを見た訳では無いが、体感的に100キロは超えているように思えた。


「小鳥さん、何処へ行くの?」

「この先にPSSが確保している場所があるそうです。そこへ行けば安全なので、そこまで向かいます」


 小鳥は前を向いたままそう言った。

 後ろの方から何かがぶつかるような音が聞こえた。恐る恐る玲奈と響が後ろを見ると、トラックと乗用車がぶつかっているのが見えた。

 途中、商業ビルが黒い煙を吐き出しながら燃えているのが見えた。

 やっぱり、スーパーマーケットに避難するのはダメなのだ。人が大勢集まる場所は危険すぎる。

 人々は、第一波が発生した時に何を教訓としたのだろうか。何も学習はしていない。喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつなのだ。

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