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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのはじまり
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Rush hour Train(1)

 目が覚めたとき、今日が月曜日だと知って憂鬱な気分に襲われた。


 このまま、もう一度目を閉じて眠ってしまおうか。

 もしかしたら次に起きた時は、火曜日になっているかもしれない。


 そんな子供じみた妄想をしながら、西郷透はもぞもぞと布団の中で動いていた。


「もう起きないと遅刻するわよ」

 妻の声が聞こえてくる。


 その声によって西郷は嫌々ながらも布団から這い出すと、妻のいるキッチンへと向かった。


 キッチンでは、妻の怜奈がダイニングテーブルに朝食のサラダと目玉焼きを並べているところだった。


「おはよう」

 怜奈と挨拶を交わす。

 新婚一年目まではお互いに目覚めのキスなどを交わしていたが、二年目以降はただ単に言葉を交わすだけとなっていた。


 西郷は自分の席に座ると、トーストされた食パンにバターを塗る。

 怜奈も自分の席に腰を下ろし、パンにバターを塗る。

 二人っきりの朝食。


 結婚五年目になるが、まだ二人の間に子供はいなかった。


 テレビでは朝の情報番組が流れている。

 いつもならば芸能関係のニュースが流れている時間だが、きょうは何か大きな事件があったらしくレポーターの険しい顔が映し出されていた。


『――ということなんですが、警察からの正式発表はまだされていません。以上、現場からでした』


 どんな事件があったのかはわからないが、なんだか物騒なことが起きていそうな気がして、とても嫌な気分になった。


「なんか通り魔らしいわよ。怖いわね」

「そうだな。こればかりは気をつけていても、いきなり襲われたりしたらどうにもならないからな」


 夫婦仲は冷え切っているというわけではなかった。

 テレビを見ながら会話をする。これが毎朝恒例となっている。

 ただ、それ以上の会話は何もない。


 三十五年のローンで購入した3LDKのマンション。

 結婚三年目で、寝室は別々になった。

 寝室が別になってからは、お互い求め合うこともなくなった。

 そんなものなのだろうと、どこか割り切ってしまっている自分がいるということに、西郷は気がついていた。


 朝食を済ませると使った皿などをシンクに置き、パジャマからスーツへと着替えをはじめる。

 そういえば、新婚の頃は毎日着けていくネクタイを怜奈が選んでくれていたということをふと思い出す。

 いまは自分で適当に選んでいる。

 それが悲しいとは別に思わない。

 そんなものなのだと思うようにしているからかもしれない。


 全ての支度を終わらせるとテレビを見ている怜奈に声を掛けて、会社へと出かける。

 月曜日は燃えるゴミの日なので、右に鞄、左にゴミ袋を持つ。怜奈は専業主婦だ。


 結婚当初は怜奈も事務関係の仕事をしていたのだが、ある日突然仕事を辞めた。

 理由は聞かなかった。なぜ聞かなかったのか。いまになってそんな疑問を抱く時があるが、聞く必要がなかったという答えが出てくる。


 聞いたところで、怜奈がきちんと答えてくれる可能性はない。

 余計な詮索をしても仕方がない。

 それが聞く必要がなかったという答えに繋がってくるのだ。


「いってらっしゃい」

 テレビの画面に目を向けたまま、怜奈が声を掛けてくる。


 いってらっしゃいのキス。

 そんなものは既に我が家の風習から廃れて行ってしまっている。


 西郷はドアノブに手を掛けると、玄関脇にある姿見で自分の姿を確認してから部屋を出た。

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