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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
おわりのおわり
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Fat Santas(2)

「はい、出来たよ。履いてみて」

 しおりから縫ったズボンを手渡された賢太郎は、さっそくそのズボンを履く。

 どことなく、しおりのぬくもりが残っているような気がして、賢太郎の頬はまた熱くなっていた。


 そのあとの写真撮影は順調に進み、用意したお菓子は全て無くなった。

 お菓子が無くなっても、写真を撮りたいという客の行列は続いており、イベントが終了したのは休憩から4時間後のことだった。


 さすがにヘトヘトだった。

 それはしおりも同じだったらしく、休憩スペースでぐったりとしている。


「お疲れさまでした。次は来週になりますので、よろしくお願いします」

 イベント運営会社の営業担当者がそう告げて、休憩スペースから出ていく。


 この仕事の時給は良かった。しかし、ここまでしんどいことになるなんて思いもよらぬことだった。


「あの……しおりさん」

「うん? どうしたの」

 賢太郎はイベントの最中に考えていたことを実行に移そうとしおりに話しかけた。

 きょうはクリスマスだ。こんな日にアルバイトをしているのだから、しおりもフリーに違いない。きっと、なにか良い出会いがあるかもしれないと期待をしながらアルバイトに申し込んだのだ。

 まさか、こんな形でサンタとトナカイが出会うことになるだなんて、思わなかったに違いない。でも、ふたりは出会ってしまったのだ。

 賢太郎はそんな妄想を抱きながらも、話を続けた。


「さっきはありがとうございました。このあとって予定とかありますか」

「え?」

 一瞬、しおりの顔がこわばるのがわかった。

 いや、それは気のせいだ。気のせいに違いない。賢太郎は自分にそう言い聞かせて、話を続ける。


「あの、お礼といっては何なんですけれど、このあと一緒に食事に行きませんか。奢らせてください」

「……予定はないけれど」

 どこか迷っている様子だった。

 あと、ひと押し。賢太郎はそう思って、言葉をさらに続けようとした。


 その時だった。

 急にしおりが抱きついてきた。


 え、どういうこと。

 あまりにも突然の出来事に、賢太郎は理解が追い付かなかった。

 ぐっとしおりの手に力がこもり、強く抱きしめられる。

 しおりの匂い、ぬくもり、そして押し付けられた胸の感触。

 そして、痛み。


「え、ちょ、ちょっと、しおりさん……」

 困惑。

 体を少し離すようにして、しおりの顔を見る。

 どこか照れているような表情。

 と、思ったのは賢太郎だけだった。


 目は見開かれ、口は顎が外れてしまうのではないだろうかと思われるぐらいに大きく開かれている。

 ちょうど首の辺りだった。

 しおりの歯がぐっと食い込んでくる。

 こんなプレイが好きなのか、しおりさんは。

 しかし、痛い。痛すぎる。何なんだ、この痛み。恋ってこんなに痛いのか。


 首の肉が引っ張られたことによって、賢太郎は我に返った。

「てめえっ!」

 大声で賢太郎は叫ぶと、しおりの髪の毛を掴んで思いっきり投げ飛ばした。

 しおりの体はものすごい勢いで地面に叩きつけられる。


 それと同時に、賢太郎の首からは血が噴き出していた。


 投げられたしおりの身体は、床でバウンドして休憩スペースの仕切りとして使われていたパーテーションにぶつかって止まった。


 血が止まらなかった。つけっぱなしとなっていたサンタの髭は真っ赤に染まってしまっている。

 目の前の景色が傾きはじめていた。あれ、おかしいぞ。なんでだ……。

 賢太郎は膝から崩れ落ちた。体は痙攣をはじめている。


 騒ぎを聞きつけた警備員が駆けつけてきた。

 何か、警備員が話しかけてくる。しかし、その言葉を賢太郎は理解することが出来ない。


「おい、これって、もしかしてデッドマンじゃないのか」

 誰かの声が聞こえてくる。


 ちょっと待ってよ、俺は予防接種も毎年欠かさず受けているって。

 賢太郎のつぶやきは誰にも聞かれることは無かった。

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