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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
Intermission
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Release(2)

 車から降ろされたのは、1時間ほど走った頃だった。


 用意されていた車椅子に乗せられた私は、手足を固定された状態で建物の中へと連れていかれる。

 どうやら、ここは病院のようだ。


 数人の看護師が集まってきて、私の腕に点滴用の針を刺す。


「少し痛いかもしれません」

 そう言われたと思ったら、口の中まで薬品の味が染み込んできた。

 

なんだこれは。

 それが最後の感想だった。

 そこで私の意識は断たれた。



※ ※ ※ ※



 目が覚めた時、私は同じように車椅子に座っていた。


 目の前には大きな鏡があり、私の姿を映し出している。

 私は鏡に映った自分の姿を見て驚きを隠せなかった。


 死刑囚になってからは一度も切ったことのなかった髪は短く整えられ、顔の下半分を覆うように生えていた無精ひげはすべて綺麗に剃られていた。


 それだけではない。

 服も囚人服ではなく、小綺麗なスーツへと変わっていた。


 私が鏡の中の自分に見入っていると、背後にスーツ姿の男が現れた。


「どうした。理解が追い付かないって感じか」

 笑いながらいう、その男の声には聞き覚えがあった。あのリーダー格の男だ。


「これから、あんたには会ってもらわなければならない人がいる」

「だから、きちんとした格好をさせられたってわけか」

「それなりの格好をしてもらわなければならない相手だからな」

「ほう。私を総理大臣にでも会わせるつもりか?」

 冗談のつもりで言った。

 しかし、リーダー格の男は笑いもせず、私の顔を鏡越しにじっと見るだけだった。


「もう、立てるだろ。そろそろ、行くぞ。相手を待たせるわけにもいかない」

 私は車椅子から立ち上がると、ゆっくりと一歩を踏み出した。

 ふらつくことはない。もう麻酔は切れているようだ。


 次に乗せられた車は、装甲車ではなくハイクラスの国産車だった。

 リーダー格の男が運転席に座り、私は後部座席にひとりで座る。


 10分ほどで目的地に到着した。


 連れてこられたのは、あろうことか首相官邸だった。

 なぜ、このような場所に死刑囚である自分が連れてこられたのか、理解が追いつかなかった。


 首相官邸の周りには、スーツ姿の警備員が大勢立っていた。

 その警備員たちは、みな肩からサブマシンガンをぶら下げており、どこか異様な光景に感じられた。


 ここは日本なのだろうか。そう思いたくなる。


 まるで核シェルターにでも行くようなエレベーターに乗り、連れていかれたのは、地下にある部屋だった。


 そこでリーダー格の男とはお別れだった。

 部屋の入口で待っていたスーツ姿の男にリーダー格の男はバトンタッチすると、また来た道を戻っていった。


「ここに座って待っていてもらえますか」

 私にソファーを勧めてくれたのは、テレビでも何度か見たことのある男だった。

 あとで知ったことだが、この男は首相の秘書官である佐伯という人だった。


 しばらく待たされた後、スーツ姿の男が部屋に入ってきた。

 疲れ切った顔をした50代後半ぐらいの男だ。


 最初は誰だかわからなかったが、声を聞いた時、この男が時の内閣総理大臣であるということに気がついた。


 私の知っている三島慎一郎という男は、もっと若々しく覇気がみなぎった男だった。

 しかし、眼の前にいる男も紛れもなく、三島慎一郎だった。


「面倒くさい話は無しにしよう、明智さん。あなたが生み出したデッドマンたちをどうにかしてくれ」

「どうにかしてくれといいますと?」

「この世から殲滅してくれ」

「わかりました」

 私は即答した。


「出来るのかね?」

「ええ。たぶん」


「たぶんでは困る。絶対に殲滅すると言ってくれないか」

 三島は鬼気迫る表情でいう。


「デッドマンに対抗するウイルスが作り出すことが出来れば可能です」

 独房の中で、ずっと考えていたことを私は口にした。

 考える時間はいくらでもあった。もしも、デッドマンウイルスが消えることなく残っていたとしたら、どうするべきか。

 そんな想定を頭の中でしていたのだ。


 奇しくもそれは現実となった。

 私が逮捕された時点で、デッドマンウイルスは消え去ったものだと思い込んでいたが、どうやらそうではなかったようだ。


 私の知らないところでデッドマンウイルスは生き残り、そして人類の脅威となっていた。

 対デッドマンウイルスの研究をしていたといっても、それは頭の中でのことであり、机上の空論に過ぎない。実際に実験研究を重ねてきたわけではなかった。


「なるほど、その対向ウイルスを作り出すのにはどのくらいの期間がかかるんだね?」

「わかりません。まだ研究をはじめてもいなし、研究施設もありませんから」

「帝都大学の研究室を使ってもらって構わない。すでに話は通してある。あなたの研究室も復活させる予定だ」

 私はその三島の発言に驚かされた。まさか、そこまで手をまわしているとは思いもよらぬことだった。


「本当ですか。でも、私は死刑囚ですよ」

「いや、あなたには恩赦を出した。もう死刑囚ではない。これからは日本を……いや、世界を救うための研究をしてもらう」


「もしも、出来なかったら?」

「あなたは一流の研究者だと聞いている。あなたに出来ないものがあるのかね?」


 なるほど、と私は思った。

 この男は人を乗せるのがうまい。

 内閣総理大臣まで上り詰める人間というのは、こういう男なのかと私は感心をしていた。

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