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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
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42/74

Release(1)

 残りの人生は、死を待つだけのつまらないものだと思い込んでいた。

 同じ時間に目を覚まし、同じ時間に食事をして、同じ時間に就寝する。

 なにひとつ乱れることはない、規則正しい生活。

 食事は与えられるものだけであり、最低限の栄養が考えられたものだ。

 死ぬために生きている。

 犯した罪を反省し、死刑執行の日を待つ日々。


 いつもであれば、食事の時間以外に独居房へ人がやってくることはなかった。

 顔の見えない相手。

 食事を出し入れする窓口から見えるのは、その男のごつい手だけだ。

「食事だ」

 男の声が聞けるのは、そのひと言だけ。それ以外の言葉は聞いたこともない。


 しかし、その日は違っていた。

 開けられることはないと思っていた扉に、鍵が差し込まれる音がした。


 私は死を悟った。

 ついに執行の日が来たのだと。


 そこに現れたのは、黒ずくめの男たちだった。

 ヘルメットにゴーグル、肩から下げているものはサブマシンガンにも見える。そんな男が3人、独居房へと入ってきたのだ。


「明智欣也だな」

 その中のひとりが確認するような口調でいった。


 私は無言でうなずく。


 すると両脇からふたりの男に抑え込まれた。

「お前を連れ出す」

 自分のことを抑えていないリーダー格の男がいった。


 何を言っているのか、わからなかった。

 連れ出すってどこへ。

 そもそも、お前らは何者なのだ。

 聞きたいことは山ほどあった。

 しかし、彼らはこちらからの質問は受け付けないといった様子で、私のことを独居房の外へと連れ出した。



 人生というのは、なにが起こるかわからないものだ。


 黒ずくめの男たちは、私を独居房から連れ出すだけでは飽き足らず、死刑囚の収監エリアの外まで連れ出した。


 そこで見覚えのある人物と出会った。

 その男は私が死刑囚となったその日に、裁判所からこのエリアまで連れてきた男だった。確か、副看守長という地位にいたはずだ。

 あろうことか、副看守長は男たちに連れ出される私のことを見ても何も言うことはなかった。


 死刑囚がどこかへ連れていかれるのだぞ。それを黙ってみていていいのか。

 そう問いただしてやりたかったが、両脇を抱えているふたりの男は、私に無駄口を叩く暇を与えてはくれなかった。


 電気の消えた真っ暗な廊下を進んだ。

 先ほどまで、両脇を抱えていたふたりの男は、私から手を放し、自分の足で歩けと言わんばかりに、私の体を小突いた。


 妙な緊張感が漂っていた。

 私は、一体どこへと連れていかれるのだろうか。


 目の前には鉄の扉があった。

 その扉は、重く、頑丈そうな扉だった。


 先頭を歩いていたリーダー格の男が振り返ると、私の目を覗き込むようにして告げた。


「ここから先は、危険地帯だ。我々はあなたを守るつもりではいる。しかし、守り切れるかどうかはわからない。それなりの覚悟をしておいてくれ」

 なぜそのようなことを言うのだろうか。

 リーダー格の男の発言は、まるでこれから戦場にでも出るような言い方だった。

 ここは日本である。世界一の治安と平和のある国ではないか。

 それとも、私が独居房で死刑を待っている間に、この国は変わってしまったのだろうか。


「さあ、開けるぞ」

 リーダー格の男が扉を開けると、私を中心としたフォーメーションが組まれた。


 外は夜中だった。

 久しぶりに見る、外の景色は何も変わってはいなかった。

 ただ、静かだ。それだけが気になった。

 普段であれば聞こえるはずの車の走る音が、まったく聞こえてこない。

 静寂。

 まさにその言葉が当てはまるような静けさがそこにはあった。


 私は彼らに守られながら、すぐ近くにある荒川の土手まで進んだ。

 その途中、見覚えのある連中がいることに気づいた。


 デッドマン。

 そう、私が研究していた、死ぬことの許されない存在だ。

 あろうことか、10人以上のデッドマンが道路をうろついている。


 私はすべてを理解した。

 この国にはデッドマンがあふれているのだ。

 やつらは人を襲うことで感染力を高めていく。一度襲われれば、その人間はデッドマンとなってしまうのだ。


 どこかから、デッドマンウイルスが漏れたのだろうか。

 私が研究していたウイルスに関しては、すべて逮捕前に破棄したはずだ。

 被験者となった連中もすべて始末したし、どこにもデッドマンは残っていないはずだった。

 それにも関わらず、デッドマンたちの姿がある。これは、一体どういうことだろうか。

 どこかにウイルスが残っていた。

 そして、そのウイルスが街中……いや日本中、世界中に広がっていったに違いない。


 川まで来るとリーダー格の男が対岸にライトで合図を送る。すると、対岸からゴムボートが現れた。


 私はそれに乗せられて、川を渡ると、今度は装甲車の中に押し込まれた。

 もはや何が何だかわからなかった。


「ここまで来れば、安全だ」

 リーダー格の男はそう言うと、私の手に手錠を掛け、両隣を屈強な男たちに挟まれた。


 こんなことをしなくても、どこへも逃げたりはしない。

 せっかく、あの独居房から解放されたのだから。

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