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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
ひとびとのせんたく
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Mission(2)

 ドアのロックが外されたのは、約束通り時間と一秒も狂いはなかった。


 二階堂は取っ手に手をかけて、ゆっくりとドアを開けると身体を建物の中へと滑り込ませる。

 中は真っ暗だった。

 二階堂とふたりの隊員は警戒しながら、廊下を進んでいく。

 

しばらく進んだところで、急に強い光が顔に当てられた。

 一瞬、目がくらむ。


「警視庁公安部の二階堂だ」

 両手を上げて攻撃の意思は無いとアピールしながら、二階堂は名乗った。


 二階堂たちに向けられていたライトが消え、制服姿の中年男と若い2人の男が立っているのが見えた。


「失礼。当施設の副看守長をしています、田辺です」

 中年の男が敬礼をしながらいう。


 後ろに控えている若い二人の男は、刺股を持っていた。

 刑務官の階級について二階堂はあまり詳しくはなかったが、たしか副看守長は主任や係長と同階級のはずだ。警察でいうところの警部補ぐらいだろうと想像した。


「早速で悪いが、例の死刑囚のところに案内してくれ」

「あの、できれば先に約束のものをいただけないでしょうか」

 懇願するような目で田辺がいう。


 二階堂が隊員のひとりの頷いてみせると、隊員は持っていたリュックサックを田辺に渡した。リュックサックの中身には非常食が詰まっていた。


「助かります。2日ほど前から水しか飲めていなかったので」

 田辺によれば、2日前に食料庫がデッドマンたちに占領されてしまったとのことだった。

 拘置所内は隔離エリアを設けて、デッドマンたちの侵入を防いでいたはずだったが、どこからか現れたデッドマンによって、その隔離エリアも崩壊してしまったそうだ。

 いまは、この入口から続くエリアだけが安全地帯であり、それ以外のエリアにはもしかしたらデッドマンがいるかもしれないとのことだった。


「収容者たちはどうなっているんですか?」

 二階堂は興味本位に尋ねてみた。


「独房にいた収容者以外は、ほとんどがデッドマンになってしまいましたよ。刑務官たちも半分以上がやられましたね。皮肉なことに生き残ったのは独房に入れられている死刑囚と、我々一部の刑務官だけです」

「そうでしたか」


「我々の脱出は、いつ頃になりそうでしょうか」

 不安げな声で田辺がいう。


「正直わかりませんね。近々、足立、葛飾、江戸川といったエリアに自衛隊が進出するという話もありますが、あまり期待を持たせるわけにも行きませんので」

「そうですか。でも、話はあるということで安心しました。我々はまだここで頑張っています。そのことを伝えていただければと思います」

「ええ。それは伝えます」


 そんな話をしながら歩いていると、大きな鉄の扉が見えてきた。


「ここから先が、死刑囚のいるエリアとなります。彼は一番奥の房にいます」

 田辺はそういって、カードキーを使って扉のロックを解除した。


「一緒には行かないんですか?」

「ええ。我々はここで待っています。出る時は、内部にあるカメラに合図を送ってください」

「わかりました」

 二階堂はそういって、扉の向こう側へと足を踏み入れた。


 しんと静まり返った廊下は、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。


 廊下には絨毯が敷かれており、二階堂たちの足音は完全に消されていた。


 二階堂が、独居房というものを見たのは初めてのことだった。

 いくつも同じようなドアが並んでおり、そのひとつひとつの向こう側に死刑囚が収められている。ドアは外からしか開けることが出来ない仕組みになっているそうだ。


 廊下を歩く気配を感じ取ってか、独居房の中から複数の視線を感じた。


 もちろん、房の中から廊下の様子を見ることは出来ない。

 しかし、気配というべきなのか、視線を感じるのだ。


 田辺に教えられた通り、一番奥の房にたどり着くと、二階堂は田辺から渡されたカードキーを使って扉を開けた。


 二階堂の後ろに控える2名の隊員は何かあった場合に備えてMP5を構えている。


 ゆっくりと開かれた扉の向こう側には、真っ白な壁の部屋が存在した。

 その部屋の中央に、彼の姿はあった。


 まるで彼は二階堂たちがやって来ることをわかっていたかのように、柔らかい笑みを浮かべてこちらを見ている。


「明智欣也だな。警視庁公安部だ。これから、超法規措置により、お前には出獄してもらう」

 明智は二階堂の言葉に驚く素振りも見せず、ただ無言でうなずいた。

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