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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
ひとびとのせんたく
36/74

SAMURAI(1)

 閉ざされた鉄の扉は歪んでいた。

 何度も、何度も、叩き続けられた結果だった。


 デッドマンと呼ばれる感染者たちは、ウイルスによって思考回路が単純化されてしまうのか、単純動作の繰り返しを行うことが多いように感じられた。

 ドアなどは閉めてしまえば、ノブをひねって開けるといったことは出来なかったりするし、引き戸も隙間なく閉めてしまえば奴らは開けることが出来なかった。


 ただ前記したように単純動作の繰り返しは得意なようで、閉じられたシャッターを24時間叩き続けるといったことを平気でやってのけたりした。

 お陰でこっちが精神的に参ってしまうことも多かった。


 藤巻謙治郎は、閉ざされた倉庫の中で三か月という月日を過ごしていた。

 この倉庫にいるのは藤巻ただ一人である。


 付き人であり、マネージャー兼付き人である小鳥明菜は一か月ほど前に、この倉庫から出て行った。それは彼女にとって、良い選択であったのだと藤巻は今でも思っている。


 この倉庫には一か月前まで、6人の男女がいた。

 ここは埼玉県の郊外にある大型ショッピングモールの倉庫だった。


 通常であれば、毎日配送のトラックがやってきて、ここで食料品などを降ろして行く場所だ。

 そのおかげもあって、倉庫内には大量の食料品が山積みになって保管されていた。


 ただ、ここは政府の定めた制圧地区と呼ばれる安全圏内ではなかった。

 制圧地区は東京都心を中心に広がって来ているとインターネットのニュースでは伝えられていたが、埼玉県郊外にあるこのショッピングモールは非制圧地区であり、まだデッドマンたちがそこら中にあふれていた。


 そんなショッピングモールの倉庫にひと筋の光が差し込んだのは、一か月前のことだった。

 群馬県からやって来たという一台のトラックが、ショッピングモールの駐車場に掲げられたSOSの旗を見つけて停まってくれたのだ。

 トラックは、このまま東京都心の制圧圏内を目指すということだった。倉庫に残されていた6人のうち4人が一緒にトラックに乗せて行って欲しいと言った。

 残り2人は藤巻と小鳥だった。

 小鳥は藤巻が残るのであれば、自分も残ると言ったが、藤巻は小鳥にトラックに乗って行くように言い渡した。

 小鳥は涙を流して、藤巻と一緒に残るのだと言ったが、それでも藤巻は首を縦には振らなかった。


 藤巻がこのショッピングモールに残る理由。それは日本刀だった。

 このショッピングモール内にあるコーヒーショップYAMADAでデッドマンたちに襲われた際、藤巻はたまたま持参していた日本刀でデッドマンたちを斬り倒した。


 そこまでは良かったのだが、そのあとで逃げる際に日本刀を置いてきてしまったのだ。

 日本刀は藤巻家に代々伝わる家宝であった。藤巻はあとで必ず取り戻しに行くと心の中で日本刀に語り掛け、日本刀を手放して、小鳥と一緒にこの倉庫まで逃げて来たのだった。


「制圧エリアに着いたら、必ず救援をこのショッピングモールへ送るように伝えますから」

 トラックに乗り込んだ小鳥は真剣な目をして藤巻に言って、去っていった。

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