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終末のデッドマン  作者: 大隅スミヲ
ひとびとのせんたく
33/74

Radio intercept(1)

 壊れていると思っていた無線機が電波を受信したのは10時間前のことだった。


 無線の発信者は陸上自衛隊の救助部隊だと名乗っており、雑音まじりではあったが、はっきりとした声で集合場所と時間を告げていた。


 町の中心にある小高い丘。

 そこの丘の上には、大きな境内を持つ神社が存在していた。

 氏神様として地元民たちから愛されている神社だ。

 その神社の境内が集合場所とのことだった。


 この無線を聞いた向井タクミは、集合場所へと行ってみることにした。

 もし、その無線が誰かのいたずらであったらどうしようかという気持ちもあった。

 しかし、このご時世にそんな嘘を吐く奴がいるだろうかと思い直し、集合場所へ行くことを決断した。


 集合時間まで、あと30分。

 ここから神社まで歩いても10分程度で着く距離だったが、余裕をもって家を出ることにした。

 外には奴らがいる。何が起こるかは、予想できない。


 背負っているリュックサックの中には、最低限の生活必需品が入っていた。

 持って行きたいものはたくさんあったが、身軽に動けることを考えて、量はかなり減らした。


 家から出るのは10日ぶりのことだった。

 ちょうど食料が尽きかけてきていたところでの無線受信であったため、救いの神が手を差し伸べてくれたような気分だった。


 二階のベランダから外に出ると、リュックサックを先に隣家の屋根の上に投げてから、自分も飛び移った。

 着地の際に大きな音を立ててしまい焦ったが、さすがに奴らも屋根の上にまでは上がってこれないようで、恨めしそうな顔でこちらを見上げるだけだった。


 タクミの家は一戸建てだった。元々は家族と一緒に住んでいる家だったのだ。

 あの日、父は会社へ行ったまま戻ってこなかった。母は玄関から出たところを襲われ、感染者となった。兄のとっさの判断で玄関のドアを閉めて、母を家の中に入れずに済んだが、その際に兄は母に腕を噛まれていた。感染者となった兄は、タクミが一階の台所に閉じ込めた。きっとまだ台所をウロウロと歩いているだろう。


 いくつか民家の屋根から屋根へと飛び移って移動することが出来た。

 一度、足を滑らせて落っこちそうになったが、うまく体が電線に引っかかってくれたおかげで落下は免れた。


 ある程度まで進んだところで、その移動手段は終わりを迎えた。

 目の前に広がるのは大通りだった。大通りには放置された車両がいくつもあり、中には事故を起こして黒焦げになっている車体もあった。


 どうやって進むべきだろうか。タクミは屋根の上で考えていた。


 突然、遠くの方から乾いた破裂音のようなものが聞こえて来た。

 それはロケット花火のような音ではあったが、銃声のようにも聞こえた。


 もちろん、銃声などはテレビ以外で聞いたことはないが。

 音は神社の方から聞こえてきている。


 感染者たちはその音に釣られるように、神社の方へ向かって動き出す。


 本当に集合場所へ行っても大丈夫なのか。

 そんな不安がタクミの中でよぎった。


 音をたてないように屋根から軒先に降りると、塀に隠れて通りの様子をうかがった。

 デッドマンと呼ばれる感染者たちの姿は無い。

 通りをダッシュで走り抜け、反対側のガードレールをハードルの要領で飛び越える。


 よし、気づかれていない。


 近くの民家の塀に登り、登れる場所を見つけて、上に上にと進む。

 途中、締め切った窓ガラスの向こう側に人影が見えた。


 タクミは驚いて、落っこちそうになったが、足を踏ん張って何とか耐えた。

 二階にあるその部屋はカーテンが開けっぱなしになっており、その中には小太りな男がいた。

 男はどうやら感染しているようで、部屋の中をウロウロと歩き回っている。

 部屋の壁には水着姿のアイドルのポスターが貼られており、時おり男はそのポスター目掛けて突進をしていた。


 デッドマンとなった人間が何を考えているのかはわからなかった。

 そもそもデッドマンに思考回路というものは存在するのだろうか。


 タクミは窓ガラスから目を離すと、次の家の屋根に飛び移る準備をした。

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